東野圭吾「禁断の魔術」のあらすじ&ネタバレと結末

禁断の魔術

【ネタバレ有り】禁断の魔術のあらすじを起承転結で解説!

著者:東野圭吾 2015年6月に株式会社文藝春秋から出版

禁断の魔術の簡単なあらすじ

帝都大学物理学准教授湯川は、古芝という少年と知り合う。古芝は湯川の高校の後輩にあたり、新入部員獲得のための英知を湯川に求めた。両親を亡くし姉と二人暮らしながら、古芝が無事帝都大学に入学したことを湯川は喜んでいた。

しかし、古芝の姉が亡くなり、古芝は大学を中退。町工場で働くようになっていた。殺されたフリーライター長岡の通話履歴を洗っていた刑事草薙は古芝に行き着く。古芝は行方をくらませていた。そ知らぬ態度を取る湯川だが、草薙は湯川と古芝に面識があり、以前一緒にレールガンという装置を作ったことがあったと突き止めた。レールガンは悪用すれば武器になる。

長岡は開発事業の反対活動を行っていた。推進する代議士の大賀を追う中で、長岡は大賀の愛人が古芝の姉であったと睨む。古芝の姉は、都内のホテルのスイートルームで、子宮外妊娠による大量出血により亡くなっていた。一緒にいた男が通報せずに放置されたためだった。長岡はその調査の中で古芝との接触をはかる。一方古芝も、大賀を姉の仇と定め、復讐の計画を練っていた。

長岡は、反対運動の同志である勝田に絞殺されていた。不正な融資とスパイ活動を暴かれた勝田の衝動的犯行だった。長岡殺しの容疑が晴れたが、古芝の行方は杳として知れない。大賀への復讐計画を察知した警察は規制線を張るが裏をかかれる。それを見抜いた湯川は単身古芝の元へ駆けつけようとしていた。レールガンを教えた責任を感じ、「代わりに大賀を殺す」という湯川を前に、古芝は殺意を失い、投降した。

禁断の魔術の起承転結

【起】禁断の魔術のあらすじ①

ある女性の死

都内のホテルのスイートルームで女性が死亡した。彼女は複数の偽名で度々スイートルームに宿泊していた。逢引の相手は不明。発見時は1人きり、大量の血を流し着衣のままベットで死んでいた。

【承】禁断の魔術のあらすじ②

いくつもの事件

春、帝都大学物理学部准教授の湯川は新入生古芝の訪問を受けていた。小芝は高3に上がる直前の春休み、廃部の危機にあった物理研究会の新入部員勧誘のため、OBである湯川の知恵を借りたことがあった。湯川は、両親を亡くし姉と二人暮らしをしている古芝の家に招かれたこともある。湯川は後輩の入学を喜ぶのだった。

光原町という町では、「スーパー・テクノポリス(S・T)計画」という大規模な開発事業が行われていた。町出身の代議士大賀を中心に進められる計画だが、環境破壊という観点から反対運動も盛んに行われていた。

夏、町工場の娘由里奈は若い男性従業員が入社していることに気付く。古芝というその若者に惹かれた由里奈は、ある夜、彼が奇妙な実験をしているのを目にした。

新年のある日、屋形船が宴会中に突如炎上する事件が起きる。

3月のある日、長岡というフリーライターが絞殺された。捜査に乗り出した警視庁の草薙は、長岡が「S・T計画」の反対運動を進めており、その関係で大賀代議士の身辺を追っていたと知る。長岡の発信履歴から、草薙は旧知の友である湯川の研究室を訪れる。長岡は湯川に、湾岸地域のどこかの壁が爆破する動画を見せ、科学的知見を求めていた。

草薙は大賀代議士の調査を始めるが、圧力がかかり頓挫する。一方、川沿いに止めていたバイクが爆発する事件が起きる。

長岡殺しの調査を進める草薙は、発信履歴のある町工場の社員1人が行方不明だ知り、探索を開始する。古芝という若者で、帝都大を中退した人物だと知り湯川の元を訪れるが、湯川はコメントを控えた。

捜査の中で長岡が調べていたことが、古芝の姉の死因だと明らかになる。小芝の姉は、小芝が大学に入学した直後に亡くなっていた。新聞社で大賀代議士の担当記者だった姉は、男との逢引中に子宮外妊娠による大量出血を起こし、放置された末に死亡していた。大賀代議士の愛人だったと睨み、長岡は古芝との接触を試みていた。

【転】禁断の魔術のあらすじ③

絡まっていた事件の糸

草薙は高校を訪問し、古芝と湯川には面識があったと知る。訪れた草薙に湯川は、古芝が長岡殺しの犯人ではないと信じていること、そして高校生の古芝と一緒に作ったデモンストレーション用の装置について語る。部員勧誘のために作成したのは、電磁力を用いたレールガンというものだった。

草薙は、古芝がレールガンを用いて、姉を見殺しにした男に復讐しようとしていると考え、部下の薫に湯川を説得させる。湯川と薫は、由里奈から古芝の思惑を聞き出すことに成功する。古芝はレールガンで大賀を殺害しようとしていた。屋形船やバイクの炎上も、壁の爆発も、古芝によるレールガンの試し撃ちのせいだった。古芝を止めるため、由里奈は接触してきた長岡に全てを打ち明けていた。

由里奈の告白を録音した小型ボイスレコーダーを見つけた草薙達は、そこに上書き録音された音声を聞く。長岡殺害時に隠されていたそれには、犯人の手がかりが残されていた。

長岡殺害の犯人は、一緒に「S・T計画」反対運動をしてきた勝田だった。金銭を受け取った勝田は、推進派のスパイだった。長岡から大賀代議士と古芝の姉のことを聞かされた上で、スパイだとあぶり出された勝田は、衝動的に長岡を殺害していた。

【結】禁断の魔術のあらすじ④

責任

すべての事情が明らかになったが、古芝は見つからない。しかし、大賀が光原町で行われる地鎮祭等に参加すると知った警察は、古芝はその機を狙うだろうと見張っていた。

一方、大賀も古芝の姉のことを思い出していた。秘書の言うとおり政治家としての立場を優先し苦しむ彼女を見捨てたことを、大賀は気にしていた。

古芝の車が発見され、湯川は車内に高校時代の古芝の作ったレールガンを発見する。帰還する湯川を駅まで送った薫は、湯川が何かを隠していると知り尾行した。

湯川はショッピングセンターを訪れていた。大賀のいる場所まで約1km。古芝はその立体駐車場にとめた車にいた。レールガンを発射しようとした古芝は、装置の主導権を湯川に握られたと知る。湯川は、レールガンを教えた者の責任として「代わりに発射する」と古芝に告げた。膠着した空気の中、湯川から亡き父親の想いをも知らされた小芝は、大人しく逮捕され、器物損壊罪にのみ問われるのだった。

禁断の魔術を読んだ読書感想

既に発表されていた「禁断の魔術」という作品集の中の「猛射つ」という小品を大幅に加筆修正したのが、この文庫版「禁断の魔術」です。作中で、科学を悪用すればそれはすなわち「禁断の魔術」となるという表現があります。元々は部員獲得のためのパフォーマンス用であったレールガンが、復讐心の元に武器となってしまったのは、まさに科学の際どい立ち位置のためなのだと痛感しました。

この作品は、「探偵ガリレオ」シリーズの一角です。シリーズとしての主人公は「ガリレオ先生」と呼ばれる物理学者湯川なのでしょうが、「禁断の魔術」は湯川の物語であり古芝の物語であり、薫の物語であり由里奈の物語でもそして大賀の物語でもありました。たくさんの登場人物が出てくる作品ですが、全員が心を持っており、強い信念のもと行動しています。読了すると、単なる推理物としてではなく、群像劇としての感動が感じられました。誰もが複雑な想いを抱えていて、そこに根っからの悪人は存在しないのだと考えさせられた作品です。

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