「淋しい狩人」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|宮部みゆき

「淋しい狩人」

【ネタバレ有り】淋しい狩人 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:宮部みゆき 平成9年2月1日に新潮社から出版

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淋しい狩人の主要登場人物

岩永幸吉(いわながこうきち)
通称イワさん。古書専門店「田辺書店」を経営しています。40年間材木問屋に勤め、定年退職しましたが、亡くなった親友が開業した「田辺書店」の経営を引き受けました。本人はそれほどの読書家でもなく、活字をながめるのは新聞を読むときだけ。店の近くにアパートを借りて一人暮らし中です。

岩永稔(いわながみのる)
イワさんのたった一人の不出来な孫。四月に高校に入学したばかりです。野球部でポジションはレフトで五番。両親は共働きでいつも忙しくしているので、ほとんど毎週末田辺書店に伝いに来ています。

樺野俊明(かばのとしあき)
通称カバさん。田辺書店の元経営者・樺野裕次郎の一人息子。32歳、独身。警視庁刑事部捜査一課に所属しています。父から自分の死後もなんとか店を残してくれと頼まれ、故人の親友だったイワさんに雇われ店主をお願いします。

淋しい狩人 の簡単なあらすじ

イワさんは、東京の下町、荒川の土手下にある小さな共同ビルの1階で「田辺書店」を経営しています。田辺書店は「愉しみを約束する娯楽本だけを置こう」という経営方針の古書店です。イワさんがこの店の経営を引き受けてから約一年。ほとんど毎週、孫の稔が手伝いに来ています。そんな二人のもとに持ち込まれた、本に絡んだ様々な謎を、時に稔の手を借りながらイワさんが解いていきます。

淋しい狩人 の起承転結

【起】淋しい狩人 のあらすじ①

六月は名ばかりの月

六月のある週末、二十代半ばぐらいの女性、佐々木鞠子が田辺書店にイワさんを訪ねて来ます。

二か月ほど前、鞠子は会社帰りに男に尾けられ田辺書店に逃げ込みました。

イワさんが辺りを見に行き、様子のおかしい男に声をかけたのですが逃げられました。

鞠子は先週の日曜に結婚したばかりです。

その引き出物の一つ、小説の表紙に「歯と爪」と落書きされていました。

こんな嫌がらせをするのは、しつこく付きまとっていたあの男に違いないと、イワさんに男の顔を覚えているか聞きに来たのでした。

面通しの場が設けられ、ストーカー男の鈴木洋次は引き出物以外のつきまとい行為を認めます。

すると鞠子は、鈴木が姉を殺したのだろうと糾弾し始めます。

鞠子の姉、樋口美佐子は四か月前に失踪していました。

失踪前に鞠子の職場に『歯と爪に気を付けなさい』と電話を掛けてきたのです。

それ以前、鈴木を姉のマンションに呼び、つきまといを止めるよう説得していました。

しかし鈴木は耳を貸さず、逆恨みして姉を殺したのではないかと鞠子は決めつけます。

イワさんは、温度差を感知して発色する機能性塗料の存在を知り、引き出物の落書きトリックに思い至ります。

そして、この悪戯をしかけられるのは鞠子しかいないと考えます。

この騒ぎの結果、鈴木洋次に美佐子殺しの疑いがかけられた、という事実から鞠子の狙いを推理します。

雨の夜、イワさんは樺野と一緒に、鞠子夫妻が鈴木洋次をアパート近くの橋の上から突き落とそうとしている現場を押さえました。

姉を殺して資産を奪うことを言い出したのは鞠子、計画を練って実行したのは夫の佑介でした。

土砂崩れで遺体の一部が見つかり、慌てた二人は身元が割れる前に犯人をでっちあげようと考えたのです。

その相手に選ばれたのが、鞠子につきまとっていた鈴木洋次でした。

鞠子は引き出物騒ぎを仕掛け、鈴木を見たことのあるイワさんを利用して、罪をなすりつけようとしたのです。

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【承】淋しい狩人 のあらすじ②

黙って逝った、詫びない年月 うそつき喇叭

黙って逝った父の死後に見つかった、300冊の本と無造作につっこまれた十数万円のお金の真相は。

永山武男氏は白内障で読書ができなくなり、蔵書をすべて田辺書店に引き取ってもらいます。

長良義彦氏は父親が自費出版で作った書物の保管場所に困っていました。

そこでイワさんが仲介し、保管料を払って永山氏の本棚に長良氏の本を置かせてもらうことになります。

自分が死んだあと、息子は不思議がって首をひねるだろう。

面白いから事情は説明しないで欲しい、と永山氏はイワさんに頼みます。

詫びない年月柿崎家のご隠居が母子の幽霊を見たという騒動。

建て替えのため家屋を取り壊すと、古い防空壕の中から黒く煤けた二体の遺骨が出てきます。

数日後、ご隠居が防空壕の中で自殺を図ります。

「何があったにしろ、あの母子の死にずっと付きまとわれてきたのでしょう。

幽霊はご隠居の心の中に戦後47年間ずっといたんです。」

そう言ったイワさんと同年代の客は、孫が密かに購入していた『安楽死の方法』などの物騒な本を、ここでしっかり目を光らせて売ってください、と持ち込んできました。

うそつき喇叭イワさんは小学校二、三年ぐらいの小さな男の子が万引するところを押さえます。

その子の全身には赤黒い痣があり、なかにはタバコの火を押し付けられた痕もありました。

万引しようとしたのは『うそつき喇叭』という古い童話です。

そのストーリーはあまりに暗く、救いがありませんでした。

この子のまわりに、あんなふうに虐待している『うそつき喇叭』がいる。

その本性を誰にも悟られることなく、彼の助けを呼ぶ叫びをもみ消してしまっている。

彼はそれを告発したかったのだ、とイワさんは考えました。

担任の教師が田辺書店を訪ねてきます。

イワさんは『うそつき喇叭』を読むよう手渡します。

先生が最後のページを読み終えた時の顔は憤怒、憎悪の顔。

それこそ『うそつき喇叭』の顔でした。

【転】淋しい狩人 のあらすじ③

歪んだ鏡

この頃、稔が夜遊びするようになります。

人に迷惑をかけたり、生活が乱れたりはしていないので、しばらく静観することにします。

しかし静観していたのは、稔の恋の相手が判るまででした。

イワさんに17歳の高校生と27歳のホステスの恋愛を、温かく見守ってやるゆとりはありません。

腕にものを言わせてはり飛ばし、稔は田辺書店を訪れなくなりました。

久永由紀子は、電車の網棚に置き忘れられていた『赤ひげ診療譚』を拾います。

中には名刺が挟まっていました。

名刺を気にしつつ読んでみます。

中の「氷の下の芽」という作品に、おえいという若い娘が出てきました。

「男なんてみんな同じだ」、「男さえ持たなければ、女も子供も苦労なんかせずに済む」おえいの言葉に由紀子は衝撃を受けます。

おえいのように、自分で自分の生きる道を探すということを、一度でも真面目に考えてみたことがあっただろうか。

この本を持っていた人に会ってみたいと強く思います。

由紀子は休暇を取り、名刺の人物に会いに行きます。

昭島司郎は30そこそこの工務店の営業マンでした。

田辺書店で隙を見ては本の頁の間に自分の営業用の名刺を挟み込んでいたのです。

由紀子はそれを聞き、あの小説を読んでもいないのかと唖然とします。

それきり昭島に会うことはありませんでした。

五日後、乗用車が東京湾に飛び込み、運転席の女と助手席の男が死亡したと知ります。

女は能勢しずえ。

男は昭島司郎でした。

昭島は会社の金を横領していました。

手引きしたのは上司であり恋人でもあった能勢しずえでした。

横領がばれることを恐れ、しずえは追い詰められたのでしょう。

事件後、田辺書店を訪ねた由紀子が「しずえさん、死ぬ前にこのお店を訪ねてこなかったでしょうか」と尋ねます。

時代小説の棚に『赤ひげ診療譚』が一冊ありました。

イワさんが本の頁をめくると、そこに一枚の名刺が挟んでありました。

株式会社 高野工務店 営業部次長 能勢しずえ

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【結】淋しい狩人 のあらすじ④

淋しい狩人

イワさんは、行方不明になっている推理小説作家、安達和郎の家族に頼まれ蔵書の整理を手伝っていました。

安達が失踪当時執筆し、未完のまま出版された『淋しい狩人』という作品について、遺族に葉書が届きます。

「この作品が未完のままなのは惜しい。

だから自分が代わりに創作します」、「この結末はセンセーショナルに紹介すべきだから、現実に移して活かすことを考えました。」

そして小説と同じ手口、被害者の殺人事件が起こります。

イワさんは稔の件で頭が一杯でした。

稔が離れてゆく、俺は淋しいんだなと思うと目尻がじわっとします。

稔の母が突然やって来て、稔の彼女と直談判する段取りをつけたのでイワさんに行ってくれと頼みます。

彼女に会ったイワさんは、「家族が稔のことを案じている。

稔はまだ子どもだから、大人のあなたが子どもを逃げ場にしちゃいけない」と伝え席を立ちます。

その日、二件目の殺人が起こりました。

マスコミが騒ぎ出し、犯人は新聞に投書したり、ワイドショーに電話をかけて来たりしましたが、第三の殺人は起こりませんでした。

しかし、行方不明だった安達和郎が名乗り出ます。

犯人がどう解釈しようとすべて出鱈目だ、と記者会見で表明します。

以来、犯人は動きを止めます。

騒ぎが収まった頃、稔がやって来て夜遅くまで話し込みます。

「勝手にしろ」とイワさんが怒鳴り、稔が飛び出したところに、逆恨みした犯人が出刃包丁を持ってやってきました。

男が突進するのと稔が体当たりするのはほぼ同時でした。

稔は脇腹を刺され、男は逮捕されます。

稔の入院中イワさんはほとんど毎日通いましたが、彼女は見舞いにきませんでした。

稔は「彼女はこの頃、会っても楽しそうな顔をしなかった。

もう終わりってわかってたけど、おじいちゃんに八つ当たりしなきゃやってられなかった」と言います。

イワさんはそれも彼女の思いやりかもしれないと思いますが、口に出しては「いいんだよ」とだけ言います。

淋しい狩人 を読んだ読書感想

おじいちゃんと仲良しの孫とのほのぼのとした探偵小説かな、と思いながら読み進めていくと、第1作目からなんともやりきれない事件が起こります。

「六月は名ばかりの月」という詩的なタイトルの作品の中で起こるのは、ストーカーから助けてくれ、親切にしてくれたイワさんを、殺人事件の犯人をでっちあげるための証人として巻き込む、という事件でした。

作中の事件はどれも、「歪んだ鏡」の中で『赤ひげ診療譚』を読んだ久永由紀子が抱いた感想と同じく、「いささかやりきれないような思いがする暗い事件」ばかりです。

それでも読後感が重くないのは、事件の結末よりも、あり得ないほど上手くいっているおじいちゃんと孫の関係に気を取られてしまうからでしょうか。

稔がイワさんと距離をとるようになる通過儀礼として、思いもよらぬ恋愛に足を踏み入れますが、それもイワさんに介入されて終わりを迎えます。

そんな二人の紆余曲折よりも、自分が一番良かったと思うのは、前出の久永由紀子の変わりようでした。

常に「私なんか」と思っていた由紀子が、慄然として身を起こし背中を伸ばす。

たった一冊の本でこんなにも影響を受けることがあるのかと思う一方、こんな読書体験をしてみたいと羨ましくもありました。

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