「仮り住まい」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|丹下健太

仮り住まい 丹下健太

著者:丹下健太 2012年4月に河出書房新社から出版

仮り住まいの主要登場人物

前田かず(まえだ かず)
主人公。営業から事務までをこなすサラリーマン。やっかい事は先送りにする。

前田あきひろ(まえだあきひろ)
前田の弟。決まった職に就かず住所も不定。

みき(みき)
前田の大学時代の友人。ルックスはいいが性格はがさつ。

田村しゅういち(たむらしゅういち)
前田の上司。粘着質で部署内では好かれていない。

安本けいこ(けいこ)
前田の彼女。平穏な家庭を持ち子育てをするのが夢。

仮り住まい の簡単なあらすじ

前田かずは弟のあきひろから飼っている蛇の世話を頼まれましたが、は虫類が苦手なために気がすすみません。

あきひろと同せい中のみきに手伝わせて、同じ会社の田村しゅういちにも泊まり込みで協力してもらい飼育方法と習性を学んでいきます。

もともとはみきの親族の持ち家であるために、やがては退去の日が近づきそれぞれの日常へと帰っていくのでした。

仮り住まい の起承転結

【起】仮り住まい のあらすじ①

蛇ににらまれた弟の代役

前田かずの携帯電話に久しぶりに弟・あきひろから電話がかかって、みきという女性と一緒に暮らしていると打ち明けられました。

前田とみきとは大学生の頃に同じサークルに所属していて、卒業後もしばしば同窓会や結婚式で顔を合わせています。

2週間ほど泊まり込みのアルバイトに行くというあきひろの頼みは、ペットの蛇の面倒を見てほしいとのことです。

住宅街の中にある2階建ての一軒家で広びろとした間取りになっていますが、土地も建物もふたりの名義ではありません。

所有者はみきの親族で一家が転勤しているあいだだけ好きに使わせてもらっている、「仮り住まい」と言えるでしょう。

品種はコーンスネーク、性別はメス、色は鮮やかな赤と白のしま模様、みきが付けた名前は「ポップ。」

大きな水槽の中で静かにとぐろを巻いている蛇ににらまれた途端に、前田は足がすくんで一歩も動けません。

水槽の水かえをみきに代わってもらうために、前田は朝早くからゴミステーションの掃除当番をする羽目になってしまいました。

【承】仮り住まい のあらすじ②

ネチネチ男が助っ人で参戦

ポップの食事は1週間に1度で足りるそうですが、その金曜日にみきが職場の飲み会に誘われてしまいました。

午前中から営業先を回って午後はデスクワークに追われている前田でしたが、エサやりのことが気になって仕事が手に付きません。

部下の細かいミスをネチネチと責めてくることで有名な田村しゅういちですが、熱帯魚や昆虫などの生態に詳しいとのうわさもあります。

思いきって蛇のことを相談してみた途端に興味津々な様子で、定時で退社して家まで同行してくれるそうです。

冷凍マウスを鍋で解凍してピンセットで飲み込ませるという一連の手順は前田には抵抗がありましたが、田村は手際よく済ませてくれました。

一次会で早めに切り上げてきたみきとも初対面ですぐに打ち解けたようで、いつもの無愛想な振る舞いからは想像もつきません。

この日を境にして田村は会社でも急に明るくなり積極的にコミュニケーションを取ろうとしていますが、前田以外の社員はかえって困惑しているようです。

【転】仮り住まい のあらすじ③

煮え切らない彼が一皮むけるには

まもなく交際期間が3年目に突入する安本けいこは、話題がなくなる度に結婚をちらつかせてくるようになりました。

「そのうちに」が決まり文句の前田はポップのことで頭がいっぱいで、週末になっても会えない日が続いています。

ひとつ屋根の下で若い女性と寝起きをともしていることも、何となく言い出せないままです。

近頃では朝食の準備から下着の洗濯までを押し付けてくるけいこでしたが、もともと異性としては見ていないためにやましい気持ちはありません。

そんな最中にポップがまったくエサを食べなくなり、体全体が白っぽくなったために田村に見てもらいました。

コーンスネークは3カ月に1回ほどの頻度で脱皮をするそうで、食欲が減少したのも表皮の色が変わったもその兆候です。

生まれ変わったポップが楽しみだと興奮している田村、ビールを用意したり出前を注文したりと宴会気分のみき。

相変わらず蛇には生理的な嫌悪感を抱いてしまう前田も、ふたりの熱意に負けて徹夜で付き合うことにします。

【結】仮り住まい のあらすじ④

グロテスクな首飾りでお見送り

少しずつ皮を脱いでいくポップは快感の境地にいるようで、3人は息を殺してその瞬間を見届けることができました。

素晴らしい体験をさせてもらったと大喜びの田村でしたが、来月にはこの家の本当の住人が戻ってくる予定です。

バイトが終わったあきひろもとりあえずは実家に帰るそうですが、いずれは誰かの家に転がり込むのでしょう。

当面の問題として片付けなければならないのがポップの処置で、前田兄弟の母親はとにかく潔癖症なために連れていけません。

新しい飼い主として快く名乗りを上げてくれたのが田村で、引っ越しの当日にはけいこもやって来て雑用を引き受けてくれます。

お別れのプレゼントと称してみきが持ってきたのは、透明なケースに大切そうに飾ってあるポップの脱け殻です。

ポップの年齢が1歳で脱皮が3カ月ごとだから脱け殻は4つ、前田、あきひろ、田村にけいこを加えてちょうど4人。

ポップの皮をひとりひとりの首に儀式のようにかけたみきは、笑顔で前田たちを送り出すのでした。

仮り住まい を読んだ読書感想

深く考えることもなく「生き物係」を引き受けてしまう、前田かずはユーモラスな主人公です。

前田の周りの人たちも勝るとも劣らず変わり者ばかりがそろっているので、まったく先の展開が読めません。

年齢から性別、バックグラウンドまでがバラバラであるために本来であれば絶対に関わることはなかったでしょう。

たった1匹の蛇によって結び付けられた男女が送るぎこちない共同生活にも、いつしか不思議な心地よさを感じてしまいました。

脱皮を繰り返すことで大きくなっていくポップとは対照的に、最後まで人間たちに成長のあとが見られないところにも笑わされますね。

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