映画「消された女」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|イ・チョルハ

映画「消された女」

監督:イ・チョルハ 日本公開2018年1月20日に太秦から配給

消された女の主要登場人物

カン・スア(カン・イェウォン)
拉致され、精神病院に収監された女性。院内で体験したことがトラウマとなり、かなり衰弱している様子。病院から帰還後は、継父殺害容疑で刑務所内精神病棟に収監される。

ナ・ナムス(イ・サンユン)
売れっ子プロデューサーであったが、ヤラセ発覚後は一気に失脚。再起に向けて、カン・スアが巻き込まれた事件を暴こうとする。

ハン・ドンシク(イ・ハクジュ)
スアが収監された精神病院看護師。当初は関り合いを持たないよう、スアと距離を置いていたが、後に協力。病院火災後、ナムスらに発見され一命を取り留める。

消された女 の簡単なあらすじ

精神病院へと強制収監された女が綴った日記が、ある元人気TVプロデューサーの元へと渡る。

番組のネタのため取材を重ねていく内に、次第に明らかになる巨大な陰謀とは?。

「ザ・バッド・ガイズ」、「朝鮮美女三銃士」出演で知られるカン・イェウォン主演、監督・脚本は「ノンストップ」、「愛なんていらない」、その他韓国アイドルのPVも手掛けるイ・チョルハが担当。

消された女 の起承転結

【起】消された女 のあらすじ①

“日常の崩壊”が記録された一人の女性の手記

物語は、とあるオフィス街にて一人の女性が、いきなり拉致されるところから始まります。

拐われた先は寂れた精神病院、この場所で無慈悲な暴力と薬物の強制投与による地獄がこの女性を待っていました。

衰弱する日々の中、入院中の出来事を記録し、それを有名TV番組プロデューサーの元へと届けます。

彼女の名前はカン・スア、一冊の手記から彼女の闘いは幕開けするのでした。

一年後…、ドキュメンタリー番組「追跡24時」の仕掛人として、一躍時の人となったナ・ナムスは、TVの情報番組に出演していました。

しかし、同番組にヤラセが発覚、ナムスはそのままプロデューサーとして干される事態にまで発展します。

ナムスの上司は彼の再起に協力的でしたが、持ってくる仕事は心霊スポットの探索というやりがいの無いもので、復帰の足掛かりにするためナムスは引き受けるしかありませんでした。

その打ち合わせの席にて、企画書の中からある日記を発見、とある精神病院患者から送られてきたものだと判明します。

【承】消された女 のあらすじ②

ナムスとスアが接触!事件の全貌が明るみに…

日記に関心が湧いたナムスは、1年前の大火事で今や廃墟と化したこの精神病院を取材することを決め、心霊スポットの探索も兼ねて来訪、現場での撮影以上に大きな収穫と出逢います。

大火傷を負い、半死半生の人物と遭遇したのです。

彼の名前はハン・ドンシク、かつてこの病院の職員として働いていた人物です。

顔の特定が難しいほどの重症でしたが、日記に記されたイラストと同じタトゥーが手首に彫られていたため、ナムスは彼をハンだと断定、日記を書いたのはカン・スアだと聞き出しますが、調べた当時の入院患者リストにその名前はありませんでした。

そこで更に調査を進め、当時の警察署長が副業として運営していた製薬会社と精神病院が繋がっており、火事の直後に銃殺されていることが判明します。

その犯人は署長の継娘のカン・スア、現在は刑務所内の精神患者病棟に収監されているのでした。

事件のショックから、当時の事を頑なに語ろうとしないスアでしたが、面会を重ねるごとに少しずつ当時の出来事を告白していきます。

【転】消された女 のあらすじ③

人間扱いされない院内での生活

病院内は正に地獄で、職員達による暴行が繰り返される毎日、唯一の味方は九死に一生を得たハン・ドンシクだけだったとスアは語ります。

スアは心身共に健康体でしたが、入院時の診察次第では健康上問題が無くても入院が可能という、韓国の社会問題にも発展している盲点を利用され、母親の遺産相続上で実娘のスアがジャマな警察署長が、自身の息のかかった精神病院に無理やり収監したのです。

冷酷且つ残忍な院長は患者のカルテ操作も思いのまま、スアがいくら「自分は正常だ!。」

と訴えても“妄想癖あり”と診断され病院側が利益を得るための不当な入院は続き、臓器売買にも手を染める極悪人でした。

屈辱的ではあるものの、スアは院内に詳しい男性患者の下の世話を行い“外部へと繋がるルート”の情報を入手、一旦は脱出しますが保護された警察によって病院に逆戻りになり、絶望的な状況が続く毎日でした。

そんなある日、転機が訪れます。

彼女の恋人がスアの居所を突き止めたのです。

院内で横行している悪行に自責の念を抱いていたハンを含め、三人で脱出しようとしますが失敗に終わり、拘束され凄惨な暴行を与えられ、スア達は絶望します。

しかし、院長と肉体関係を築いていた女の入院患者が、精神異常からか院長室にて膨大な数の蝋燭に火を灯し、手に付けられないほどの火災と発展します。

脱出の機会が再来しますが、ハンは他の患者を助けるためにスア達の静止を振りほどき火の中へ、恋人は燃え盛る炎の海から現れた院長によって連れ去られ、スアだけが生き残りました。

そしてその足で実家へ…、帰ると継父が事件の発覚を怖れたのか拳銃自殺を決行した跡でした。

そのため、「殺したのは自分ではない。」

と、スアはナムスや警察にも無罪を主張していたのです。

【結】消された女 のあらすじ④

事件の終幕と“真実”

ナムスは、事件の顛末を上司の反対を押し切り、2回に渡って報道、真実が明るみになり売れっ子プロデューサーとして復帰、警察の不祥事・臓器売買・利益のための精神病棟への強制収容という社会問題を暴き、且つスアの無罪を証明し彼女の“孤独な闘い”の幕引きに貢献したのです。

が、一連の事件は驚愕の事実へと繋がるのでした…。

スアの精神状態が回復の兆しが見え、出所したその日、ナムスは彼女を迎えに行きます。

その道中、ナムスが「母親のお墓の所在地を知っているのか?」と尋ねると、彼女は「院内では尖った物の所持は禁止、それは例えボールペンであっても…。」

と、意味深な言葉を口にするのでした。

一瞬困惑するナムス、彼女の家の中には大きな写真があり、恋人であるはずの男性と膝の上には幼い子供が写っています。

そして、「ただいま、お父さん」とスアは言います。

つまり、拉致され入院させられたのはスアの母親で、救いに行ったのはスア、そして継父は自殺ではなくスアの手によって殺害、というのが“真実”なのでした。

そのため、日記は彼女が“逃亡に成功”してから書かれたものだと推測され、ナムスは彼女の計画通りに利用されたのです。

スアはお茶を二人分淹れ、インターホンが鳴ると振り返り、どこか含みのある表情を浮かべるのでした。

消された女 を観た感想

作中で描写されていた、「健康な人物への精神病院強制収容」は、この作品が制作された韓国でも深刻な社会問題に発展していたそうです。

助けも来ず、心にも問題が無いのに精神異常者扱い、無理やり投与される薬で意識は朦朧とし、「自分は精神異常ではないか?」と自己暗示に陥ってしまうという、一人の人間を追い込み、“心”をとことん破壊していくこのような悪行は、本当に恐ろしいものですね。

しかも、遺産や財産など、本来なら“回復”を目的とする医療制度を悪用し、私利私欲のために逆に人間を“破壊”していく点は恐怖でしかありません。

この映画がきっかけとなり、韓国では精神保安法が改定されたそうですが、映画という一つの芸術・娯楽作品が、社会への問題提起・解決へと繋がったのは、アーティスト冥利に尽きるのではないでしょうか。

序盤から終盤に張り巡らされた緊張感がラストで一気に解放、どんでん返しによるカタルシスという流れは、サスペンス映画のセオリーを踏襲しながらも先の読めない展開が織り混ざり、この映画独自のオリジナリティだと感じました。

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