「潮騒」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|三島由紀夫

潮騒 三島由紀夫

著者:三島由紀夫 1954年6月に新潮社から出版

潮騒の主要登場人物

久保新治(くぼしんじ)
主人公。漁師。学業は苦手だが泳ぎと腕力には自信がある。

宮田照吉(みやたてるきち)
運送会社の船主。ライオンのような髪形で威圧感がある。

宮田初江(みやたはつえ)
照吉の娘。美しい容姿で目立つ。

大山十吉(おおやまとおきち)
新治の上司。 荒れた船の上でも平静。

川本安夫(かわもとやすお)
村の若者たちのまとめ役。名門の生まれでプライドが高い。

潮騒 の簡単なあらすじ

学校を卒業してすぐに漁業に携わるようになった久保新治は、島の有力者の宮田照吉の娘・初江と心を通わせていきます。

ふたりの仲を引き裂こうとするのは、裕福な家庭に生まれて自分こそは初江の夫にふさわしいと思い込んでいる川本安夫です。

同じ船にふたりを乗せて人間性を見比べてみた照吉は、新治を娘の結婚相手に選ぶのでした。

潮騒 の起承転結

【起】潮騒 のあらすじ①

 

ひと目見た彼女の姿が焼き付く

歌島は伊勢湾をくまなく見渡す小さな島で、人口は1400人程度でパチンコ店や映画館などの娯楽施設もありません。

この島で生まれた久保新治の父親はすでに戦死していて、海女をしている母親と弟の3人で暮らしています。

新制中学校を落第しそうになっていた新治が何とか卒業できて漁に出られるようになったのは、校長と親しくしていた灯台長の口利きのおかげです。

それ以来灯台長に恩義を感じていた新治は、採れたての魚を島の東山にある灯台に届けていました。

いつものように灯台長の家まで向かう途中に、新治は暮れかけた浜辺で休んでいる見知らぬ少女の姿を目撃します。

彼女が島で1番の大金持ちとして有名な宮田照吉の娘、初枝であることを次の日の昼休みに教えてくれたのは漁労長の大山十吉です。

照吉のひとり息子は昨年に胸の病で亡くなっていて、3人の娘たちは結婚しているために跡継ぎがいません。

志摩に養子に行っていた初江を呼び戻して籍を宮田に戻したのは、結婚相手を見つけてゆくゆくは義理の息子を後釜に据えるためです。

【承】潮騒 のあらすじ②

 

深夜の水くみから銭湯での怒り沸騰

新治が初めて初江と言葉を交わしたのは、母親に頼まれて山の上の資材置き場にまきを取りに行った時です。

灯台長の妻が若い女性向けに開いている作法を習う会に初江も参加しているために、自然とふたりは顔見知りになっていきました。

この次の漁が休みの日に例の資材置き場で待ち合わせをしましたが、当日は台風が接近していて島全体を嵐がおおっています。

雨に降られて目的地たどり着いたふたりは木の枝を積み上げた火を起こして、脱いだ服を乾かした後に何事もなく家に帰っただけです。

前々から初江に目を付けていた青年会の支部長・川本安夫は、彼女が新治とだけ仲良くしているのが面白くありません。

村役場で決めた水くみ当番が宮田家に回ってきたある日の夜、水槽の側で初江を待ち伏せしていました。

冷たく追い払われた安夫は逆恨みをして、新治が初江を「傷もの」にしたとデマを流し始めます。

うわさを銭湯で聞いた照吉はその場で乱闘を繰り広げて、次の日から初江は家から一歩も外に出ることができません。

【転】潮騒 のあらすじ③

 

海上の熱き戦い

朝早くに宮田家の前を通りかかった大山十吉は、初江が新治へ宛てて書いて小さく折り畳んだ手紙を手渡されました。

島に戻ってきて日が浅い初江には信頼できる友だちがいないために、毎朝手紙を取りに行く役目を引き受けてくれたのは十吉や新治の漁師仲間です。

照吉から新治に会うことを禁じられた時に初江が正直に弁明したこと、水くみの時に安夫に暴行されかかったこと、安夫の一家は相変わらず照吉と親しくしていること。

手紙を読んだ新治は不条理な仕打ちに憤りを覚えて、思わず自分の家が安夫よりも貧しいことを嘆いてしまいます。

今にも安夫のもとに殴り込みに行きかねない新治を、人生の先輩として優しく引き止めてくれたのは十吉です。

「正しいものが結局は勝つ」との十吉の言葉通りに、新治と安夫は船の上で決着を付けることになりました。

ふたりは照吉がオーナーをしている歌島丸に見習い船員として雇われることになり、新治は初江の写真をお守り代わりにして乗り込んでいきます。

【結】潮騒 のあらすじ④

 

荒波を乗りこえて結ばれたふたり

新入りにはデッキの掃除から荷物の積み降ろしまでとあらゆる雑用が押し付けられるのがお約束ですが、安夫はまるで働こうとしません。

島に帰ったら初江と結婚式を挙げるつもりで、自動的に歌島丸も自分の物になると言い触らしていました。

この船は神戸港を経由して沖縄へ材木を荷揚げした後で、スクラップを積み込んでから歌島へ帰還します。

船が暴風雨に巻き込まれたのは、那覇に入港して税関の検疫が済んだ3日後のことです。

船を港に固定していたワイヤーが切れてしまったために、誰かが海の中を泳いで命綱を結び付けに行かなければなりません。

百戦錬磨の屈強な船員たちが尻込みする中でも、新治はこの危険な任務にたったひとりで挑んで成功させます。

この活躍は照吉の耳にも入り、「歌島の男は財力よりも気力」というの鶴の一声ですべてが決まりです。

若すぎるふたりは20歳になるまでは挙式を我慢して、その間に新治は航海士を目指すための勉強に励むのでした。

潮騒 を読んだ読書感想

戦後の経済的な発展からも程遠く、静かな時間が流れて豊かな自然が手付かずのままで残る海上の楽園のような島が舞台になっています。

ピチピチのヒラメを片手にぶら下げて歩いていた主人公・久保新治が、夕暮れ時の海辺で宮田初江と鉢合わせするオープニングがドラマチックです。

お互いへのピュアな気持ちと態度を貫き通すふたりが事実無根の中傷に巻き込まれて、引き裂かれてしまう中盤の展開には胸が痛みました。

武骨な海の男・大山十吉の重みのあるアドバイスと、不器用な新治の背中をそっと後押しする粋な仲間たちの優しさには心温まります。

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