「午後の曳航」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|三島由紀夫

午後の曳航(三島由紀夫)

【ネタバレ有り】午後の曳航 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:三島由紀夫 1968年7月に新潮社から出版

午後の曳航の主要登場人物

黒田登(くろだのぼる)
中学1年生。

黒田房子(くろだふさこ)
登の母。ブティックの経営者。

塚崎竜二(つかざきりゅうじ)
二等航海士。房子の恋人。

午後の曳航 の簡単なあらすじ

13歳の黒田登にとっては、航海士として世界を駆け回る塚崎竜二は正にヒーローです。母親の房子との結婚が決まった途端に、それまでの理想像は崩れ落ちて世間一般のお父さんに思えてしまいます。「首領」を中心とする仲間と共に、大人の支配から解放されて自分たちの未来を切り開くために禁断の計画を練り上げていくのでした。

午後の曳航 の起承転結

【起】午後の曳航 のあらすじ①

13歳の背徳行為と憧れ

黒田登は8歳の時に亡くなった父親が残した横浜の邸宅で、母親の房子とふたり暮らしを送っていました。

夫が経営していたブティックを切り盛りするようになった房子は忙しいようで、登は独りで留守番をすることが多くなっていきます。

暇つぶしに部屋中を探索していた登が見つけたのは、引き出しの中から射し込む一筋の光です。

それは隣りの房子の部屋へと貫通する小さな穴で、それ以来登は母の情事を覗き見することに憑りつかれてしまいました。

33歳とまだまだ女盛りな房子が最近になってお付き合いを始めたのは、取引先の船会社に勤務する二等航海士の塚崎竜二です。

思春期真っ只中の竜二でしたが母親に新しい恋人が出来たことに関しては、不思議と嫌悪感は湧いてきません。

それどころか如何にも船乗りらしい竜二の鍛え上げられた身体つきには、畏敬の念すら覚えてしまいます。

人懐っこい登を竜二は船に乗せて案内してあげているうちに、自然と黒田家に出入りするようになるのでした。

【承】午後の曳航 のあらすじ②

6人の少年たちの危険な遊戯

登は学校では成績優秀で一見すると優等生でしたが、同級生の6人と秘密のグループを結成していました。

リーダーは「首領」の異名を持つひと際中学生離れした知性の持ち主になり、登も彼に対しては一目置いています。

いつものように放課後に三々五々と隠れ家に集まってきたメンバーの前で、登が披露したのは竜二に関する逸話です。

7つの海を駆け抜けて世界各国に足を踏み入れてきたエネルギッシュな生きざま、覗き穴から見た肉体美。

他の4人の仲間たちが頻りに登の話に感心しっぱなしなのが、普段はその場をリードする首領としては面白くありません。

登の英雄について、「おふくろの財産を狙われて捨てられるだけ」とチクリと嫌味を言います。

会議が終わった後に持ってきた弁当を食べ終えた登たちが向かった先は、登の自宅の近所にある首領の家です。

言われるまま捕まえてきた子猫を惨殺してしまった登は、いつか首領と竜二を引き合わせることを思いつくのでした。

【転】午後の曳航 のあらすじ③

全てが明るみに出た

12月30日まで船の上で仕事に追われていた竜二でしたが、お正月は房子たちと過ごせる見通しが立ちました。

風邪気味な登を家に残して初日の出を見に房子を連れ出した竜二は、港を見下ろす公園で彼女にプロポーズをします。

結婚を決意した房子が登に打ち明けた場所は、3人で映画を観に行った帰りに立ち寄った南京街の中華料理店です。

挙式は2月の初旬に大勢のお客さんとパーティー形式で行うこと、これからは「塚崎さん」ではなく「パパ」と呼ぶこと。

突然の展開に戸惑いを隠せない登でしたが、その晩に早々と自室に引きあげていった房子と竜二を覗くことだけは止められません。

竜二が隣室から漏れてきた明かりに気付くことによって、登の楽しみは全て露見してしまいます。

怒り狂う房子に比べると、竜二は殴りかかることもなく父親面して説教をすることもありません。

明日にもあの穴を埋めてこの嫌な出来事を忘れようという、すっかり俗物化した竜二に登は幻滅してしまうのでした。

【結】午後の曳航 のあらすじ④

子供たちから大人への抵抗

登は首領に頼んで緊急会議を召集してもらい、6人は外人墓地の裏にある市営プールへと学校帰りに集まりました。

登がこれまでノートに記録してきた「塚崎竜二の罪科」というリストを見せた途端に、首領が竜二の処刑を煽り立てます。

決行場所となるのは山下埠頭から程近いドックで、睡眠薬7錠を溶かした紅茶を飲ませて刺殺する計画です。

これまでは猫などの小動物をターゲットにしてきただけで、流石に他の5人は殺人に踏み切れません。

六法全書まで用意してきた首領は、刑法第41条の「十四歳ニ満タザル者ノ行為ハ之ヲ罰セズ」を引用しました。

来年には14歳となる6人は、全ての大人たちへの挑戦を誓い合います。

「友だちがみんなでパパの航海の話をききたがっている」との登の言葉を、竜二は微塵も疑うことはありません。

次の日の午後に身を入れて聴き出すようにしている6人の少年たちを前に、差し出されたほろ苦い紅茶を飲み干した竜二は初航海から世界各地での体験を語り出すのでした。

午後の曳航 を読んだ読書感想

年若い母親の秘密を覗き見る、13歳の少年の好奇心と背徳感が入り混じった複雑な感情が味わい深かったです。

主人公の黒田登にとっては憧れの存在である、海の男・塚崎竜二の立ち振る舞いや発せられる言葉も勇ましく感じます。

屈強な肉体に海外での豊富な人生経験と、中学生には持ちえない全てを手に入れていることが伝わってきました。

英雄として仰ぎ見ていたはずの気持ちが、母親の再婚をきっかけにして憎しみへと変わっていく後半の展開がスリリングです。

陸に上がってごく普通の幸せを望んでいたはずの航海士に、ラストで降りかかってくる災難が圧巻でした。

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