新日本探偵社報告書控(筒井康隆)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

新日本探偵社報告書控(筒井康隆)

【ネタバレ有り】新日本探偵社報告書控 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:筒井康隆 1988年4月に集英社から出版

新日本探偵社報告書控の主要登場人物

辰巳秀雄(たつみひでお)
新日本探偵社の所長。

夏原吾朗(なつはらごろう)
辰巳の義兄。ノート製造会社の社長。

石黒宗一(いしぐろそういち)
新日本探偵社の課長。

岩谷(いわたに)
辰巳の先輩。新日本探偵社の所員

岩木正雄(いわきまさお)
新日本探偵社の新入調査員。

新日本探偵社報告書控 の簡単なあらすじ

1950年代の大阪市内の雑居ビルの一角に、新日本探偵社はひっそりと事務所を構えています。企業向けの信用調査から個人による駆け込み依頼まで何でも引き受けているのは、所長の辰巳秀雄を筆頭にした所員たちです。調査員たちの膨大な報告書からは、戦後間もない大阪の混乱を必死に生き抜く人たちの姿が浮かび上がってくるのでした。

新日本探偵社報告書控 の起承転結

【起】新日本探偵社報告書控 のあらすじ①

戦時下をがめつく生き抜く

1941年の12月太平洋戦争が勃発した直後の大阪で、辰巳秀雄は勤め先の営業所が閉鎖されてしまい職にあぶれてぶらぶらしていました。

ある日のこと義理の兄に当たる夏原吾朗に、自身が満洲で経営しているノート製造会社の梃入れを頼まれます。

製造業に関してはまるっきり素人ながらも、元来身体が弱く徴兵検査でも最下級の「丙」の評価を押されてしまった辰巳は他に行く当てがありません。

現地に到着して早速改革に踏み切るとみるみるうちに工場の生産が軌道に乗り、夏原ノートの売り上げは驚くほどです。

当時は販売価格を経済警察に届けて承認された価格で販売しなければならないルールでしたが、辰巳はお構いなしに高額で売りさばいていました。

遂には当局に明るみに出てしまい、夏原ノートは多額の罰金の支払いを命じられて国外追放の憂き目に遭ってしまいます。

満洲時代に製紙業界や文具メーカーとの深い繋がりを得た辰巳は、戦後に探偵事務所を立ち上げることになるのでした。

【承】新日本探偵社報告書控 のあらすじ②

辰巳所長の忠実な部下

大阪市西区信濃橋の四つ橋筋に面した表通りには戦禍を免れた焼け残りのビルや商店街が立ち並んでいて、コンクール4階建ての浪速ビルもそのひとつです。

新日本探偵社の事務所は2階フロアにテナントとして入居していて、4坪ほどの部屋の中には4つの机が並べられていました。

そのうちのひとつは所長の辰巳秀雄の専用デスクになり、大企業からの就職内定者の雇用調査や個人による素行調査まで様々な依頼が持ち込まれてきます。

辰巳の片腕となって1951年の創立当初から活躍していたのが、3人の課長の中でも全幅の信頼を寄せられていた石黒宗一です。

結婚調査に秀でていた彼は、対象者の先祖代々の家柄から日常の些細な人間関係まで些細なことも見逃しません。

その一方では余りの多忙さのためにか、次第に石黒は違法な薬物に溺れるようになっていきます。

愛想を尽かした妻と子供たちは実家に帰ってしまい、その7年後には石黒自身が探偵事務所を去ることになるのでした。

【転】新日本探偵社報告書控 のあらすじ③

お世話になった先輩

1951年の秋に新日本探偵社の事務所を訪ねてきたのは、辰巳の先輩に当たる深谷でした。

24歳になるまで無為徒食の日々を送っていた辰巳が初めて職業にしたのが、教育勅語の解説書を作って大企業の社長や重役に配布させる「金集め」という仕事です。

その手ほどきをしたのが深谷であり、現在ではお金に困っているという恩人の頼みを断りきれません。

辰巳の下で働くことになった深谷は、中小企業に会員券を売りつけたり多額の交際費を回収してくる能力に長けています。

その一方では所長である辰巳に対しても横柄な態度をとるために、常時10人以上いるその他の所員たちは徐々に辰巳に反感を抱いていきます。

探偵社では毎年の春になると皆で一緒に造幣局の桜を見ながらお酒を飲む慰労会が開催されますが、花見の席では若い所員と深谷との乱闘騒ぎにまで発展する始末です。

その後深谷は東京出張所の開設という名目で大阪を離れますが、50歳の若さで脳溢血で亡くなりました。

【結】新日本探偵社報告書控 のあらすじ④

探偵たちにとっての戦後

新日本探偵社では3ヶ月に1回ほど新聞で所員を募集していて、広告を見てやって来たのが若干26歳の岩木正雄でした。

浮気調査で自らの手腕を発揮して入社2年目で課長に取り立てられましたが、肺結核にかかり切開手術を受けることになります。

闘病生活を経て再び事務所に現れた時には肋骨を5本失った変わり果てた姿で、辰巳は岩木の亡霊を見ているような気分になってしまいます。

日本探偵社が最も忙しく活気に満ち溢れていた最盛期は、1956年から57年にかけてまでです。

調査員たちは個性豊かで時には衝突することもありましたが、お互いを尊敬し合い同じ時代を駆け抜けていった戦友と言えるのかもしれません。

覚せい剤中毒となった石黒、アルコールが大好きで身を持ち崩した岩谷、若くして病に倒れた岩木。

経済白書の「もはや戦後ではない」という言葉が流行語になったのは1956年でしたが、辰巳にとっての戦後とは仲間たちとの痛切な別れを経験した正にその頃のことでした。

新日本探偵社報告書控 を読んだ読書感想

ストーリーの舞台に設定されている、信濃橋近辺の雑然とした街並みが印象深かったです。

戦争の爪痕が残る中でも、地元住民の誰しもが逞しく生きていることが伝わってきました。

全編を通して報告書と探偵事務所の所員たちの会話から進行していく独特なスタイルになり、ドキュメンタリーのような味わいがあります。

調査対象者とは一定の距離感を保ちながら傍観者に徹していたはずの探偵たちが、病気やアクシデントによって次々と夭逝していく展開には胸が痛みました。

戦後復興の礎が数多くの犠牲者の上に築き上げられてきたことを感じます。

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