民王(池井戸潤)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

民王

【ネタバレ有り】民王 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:池井戸潤 2010年5月にポプラ社から出版

民王の主要登場人物

武藤泰山(むとうたいざん)
現首相。何者かの企みによって何者かにチップを歯に埋め込まれ、息子と中身が入れ替わってしまう。

武藤翔(むとうしょう)
泰山の息子。父親と中身が入れ替わってしまう。

貝原茂平(かいばらもへい)
泰山の秘書。超リアリスト。泰山の姿をした翔を支える。

狩屋孝司(かりやこうじ)
内閣官房長官。泰山の良き理解者。

民王 の簡単なあらすじ

突然最新技術のチップを歯に埋め込まれ、中身が息子と入れ代わった現首相武藤泰山。政治家なら一度は憧れ内閣総理大臣になったばかりだというのに、漢字もおぼつかない息子の首相業務に一抹の不安を感じます。怪しい政敵たちか、首相に対するテロなのか、一体誰が親子をこんな目に合わせたのでしょう。息子の代わりに学生をこなすことになった泰山は、今まで見えていなかった息子の姿を見て自分の志した政治家としての姿を今一度考えるのでした。

民王 の起承転結

【起】民王 のあらすじ①

入れ替わり親子

首相の突然の辞任により、民政党総裁選が行われ、内閣総理大臣になった武藤泰山。

新政権発足後、国土交通大臣に任命した江見が失言をします。

失言を撤回するように要求しますが、江見は政治方針に乗っ取った発言なので撤回しないと言い更迭することになります。

発足早々更迭が出てしまい、議会で野党である憲民党の蔵本から泰山は責め立てられることになります。

蔵本と議論の最中、幻聴のようなものが聞こえ出す泰山。

一方泰山の息子、大学生で2年留年中の翔は先輩である真衣の店でパーティー中でした。

そこでクラスメートの美人できついエリカに、ドラ息子であることや父親泰山の政治政策にもダメ出しをされます。

エリカは二世政治家嫌いの優秀な学生でした。

エリカに責め立てられる中、翔は幻聴が聞こえるようになります。

気がつくと翔の前には蔵本がいました。

おかしいと思い辺りを見回すと、父親の盟友鶴田と目が合います。

彼は翔に向かって総理と呼びかけます。

翔が発言すると父親の声が口から出ます。

おかしな発言をする泰山に、周囲は困惑します。

鶴田や狩屋が場を収めますが、翔は父親の姿になっていることがまだ受け止めきれませんでした。

狩屋は翔である泰山を一旦公邸に帰らせます。

一方翔の体の中には泰山がいました。

困惑するも状況を把握し、泰山の体を持つ翔が国会でどうしているか慌てて店を飛び出します。

泰山はエリカの取り巻きの男たちと喧嘩になりますが、翔の友人である牧原のおかげで助かります。

帰宅した泰山の体の翔と、翔の体の泰山は状況を確認し合います。

そこへ様子のおかしい泰山を心配した官房長官狩屋が現れます。

狩屋に二人が入れ替わっていることを告白しますが、冗談だと思われてしまいます。

泰山と狩屋と自分しか知らない女関係の話をし出すと、狩屋は二人の話を信じるのでした。

国会を乗り切るため、相談をする三人。

秘書の貝原、防衛大臣の真田に相談することを決めます。

【承】民王 のあらすじ②

CIAの新技術

翔は泰山として内閣総理大臣に、泰山は翔として学生生活と就職活動に勤しむことになります。

しかし泰山は、翔の就職活動先で面接官と喧々囂々やりあってしまいます。

一方翔も貝原たちに原稿を作ってもらうも漢字が読めず四苦八苦していました。

あまりの姿にテレビ番組で突き上げられてしまいます。

泰山も狩屋も不安を感じます。

一方翔も父親の就職活動に不安を感じていました。

そんな中、防衛大臣の真田から翔と泰山の入れ替わりが、盗まれたCIAの最先端技術のせいだとわかります。

泰山を陥れたい何者かが、武藤家の行きつけ歯医者である丸山歯科に手を回し二人の歯にチップを埋め込んだのでした。

電波で脳波に影響を与え二人は中身が逆に、そして電磁波を傍受して国家機密情報を盗むことも可能な技術です。

調べると丸山歯科はもぬけの殻でした。

詳しく調査すると、二人に入っているチップは無理に取り出そうとすれば自爆する恐れがあるようで現状はどうにもできません。

真田の口利きで、公安の新田がこの事件について調査をすることになりました。

丸山は借金があったらしく金で買収されたようです。

話し合いの最中、泰山の盟友鶴田の様子がおかしいと連絡が入ります。

会見の様子をテレビで観ると、酩酊しているような鶴田の発言が流れてきます。

泰山はそれを見てピンきます。

鶴田も泰山たちと同じになった可能性が高いと考え、彼の息子航を探しに渋谷へ出かけます。

新田の協力もあり、息子航の姿をした鶴田を見つけることができました。

その渋谷の雑踏の中、不審な男が彼らを見つめていることに新田が気がつきます。

一旦は鶴田親子を再会させるべく市谷へタクシーを走らせます。

鶴田親子は青山の近藤歯科で手術を受けていました。

しかし近藤歯科は実在せず、丸山が二人に手術していたことがわかります。

今後のことを話し合いますが、サミットを控えた休むわけにもいきません。

子供たちに任せるしかないようです。

【転】民王 のあらすじ③

エリカと蔵本

翔を心配し、国会を傍聴する泰山の前に、渋谷で見かけた男が現れます。

男には逃げられますが、貝原は男が蔵本の秘書だと言います。

だとすればこの騒ぎは蔵本の仕業かと話し合いますが、新田の調べでは現状怪しいところは無いようです。

授業に出た泰山は真衣に声をかけられ、彼女の店のパーティーに誘われます。

エリカに会い、ほぼ初対面の泰山は美人な彼女に興味を持ちます。

あしらわれるも口説き落とすために奮闘し続ける泰山。

しかしエリカに熱を上げている取り巻きたちが再び現れ喧嘩の騒ぎになりますが、新田が現れことなきを得ます。

新田は蔵本の秘書がこの店に現れたと言うのです。

理由を考えましたが、エリカに家に来るよう誘われ考え事は頭の隅に追いやられます。

二人きりになると急にエリカの口調が変わり、蔵本の秘書が現れます。

エリカの口調から彼女が蔵本だと気がつきます。

エリカは蔵本の娘でした。

蔵本たちも入れ替わり事件の被害者とわかり、協力することになります。

ところが話し合いの最中、憲民党のスキャンダルと狩屋のスキャンダルがそれぞれ入ってきて対応に追われる泰山たち。

マスコミに囲まれた翔は狩屋を庇います。

そんな中、入れ替わりの技術を売ったというCIAの人間が逮捕されます。

売った相手のことはわからず、会話からおそらく製薬会社ではないかと目されるのでした。

そこから、医薬品許認可の大幅緩和を公約として掲げる共和党が怪しいと泰山たちは考えます。

スキャンダルが出て、支持率を落とした民政党と憲民党は薬の承認には及び腰です。

共和党が政権を握ることがあれば、一気に市場は解放され莫大なビジネスを生むと考えられます。

利益や保身の話ばかりでうんざりする翔は、今は一政治家として自分に嘘をつかない発言をしたいと思っていました。

【結】民王 のあらすじ④

政治家の姿

共和党の冬島は予算委員会で狩屋のスキャンダルに関する質問ばかりを繰り返します。

翔はそれに反発し議会は紛糾。

支持率が急落すると周囲からいわれ、狩屋をやめさせるよう言われます。

翔はエリカと会談し、冬島が海外の製薬会社からお金を受け取っているという話を聞きます。

一方泰山は小中の授業で彼をやり込めてしまい真衣には留年を心配されます。

さらにホスピスに総理を呼びたいと頼まれごとをされいい気分になっていました。

エリカの情報から冬島の議員会館事務所に忍び込み、その証拠を抑えることになります。

泰山と翔と貝原、狩屋、そして蔵元とエリカが駆けつけ冬島の部屋の捜索が始まりました。

ガンの新薬の国内承認待ちリストを見つけ眺めていると、冬島が部屋にボディーガードを連れてやってきました。

新田がかけつけ別件ではありますが冬島は逮捕されました。

しかし冬島は逮捕されたものの、証拠が出てきません。

翔は新田にも声をかけ、泰山が約束した真衣との約束であるホスピスへ向かいます。

真衣は乳がんだった母を亡くしたため、薬の承認制度を変えたいと考えていました。

翔は真衣が冬島と知り合いだったと確信がありました。

真衣の店で見た商品が冬島のところにあったからです。

入れ替わりのことも知っていた真衣は、共和党の医薬品許認可の緩和公約に賛同し、冬島の協力をしていたのです。

必ず現状を打破すると翔に説得され、真衣は新田に話をしに行くのでした。

アメリカの大統領が来日する日、翔である泰山は合コンに出かけていました。

いい気分で歌を歌い出した頃、その時はやってきました。

学生たちの姿が見えなくなり、狩屋とアメリカ大統領の姿が目に入ります。

元に戻ったのです。

首相の自分に戻った泰山はサミットを成功させます。

真衣の証言により犯人たちも捕まりました。

そして泰山は、真衣の約束通り新薬認可法案を通した後、衆議院を解散させるのでした。

民王 を読んだ読書感想

お金はあるけれど仲はいまいちだった親子が入れ替わってお互いの良さや大変さを知るという安心の展開です。

政治ものなので登場人数も多いですが、キャラクターが立っているので混乱しません。

物語の歯に埋め込んだチップで入れ替わる設定にはやや荒唐無稽感はありますが、文章のバランスと相まってさほど気になりません。

全体的なライトさの中に政権闘争に関するしっかりした設定があり、硬軟のバランスでどんどん話が進みます。

また登場人物たちの眼に浮かぶような真面目かつコメディな描写が政治に対する皮肉があり、風刺っぽさもあります。

けれどもドタバタ感と入れ替わり設定のせいか、冒険記のような元気な内容です。

敵が二転三転し、最終的にライバルの蔵元と共闘、子世代のエリカと翔もわかりあい大団円を迎え読後感も良いです。

また漢字も読めないと揶揄られた翔の政治家活動を通じて、泰山にも若き日の勢いと青臭いやる気のあった頃が湧き上がるのが爽快です。

実際国民では疑問に感じる人も多いでしょうが、予算委員会でスキャンダルについて追求するやり方というのは、慣習などで変えられないのでしょうか。

スキャンダルの質問を蹴った翔は、周囲から支持率が下がるといわれその通りになってしまいます。

スキャンダルで支持率は下がるでしょうが、予算委員会で予算以外の質問を突っぱねて支持率が下がる仕組みは不思議です。

政治の不思議な慣習が随所に散りばめられており、政治とスキャンダルの絡み合いが真衣のような考えの人を生み、冬島の付け入る隙を生んだのでしょう。

真衣のようにどうせ政治ではどうにもならない、という諦めも一般読者からすると共感できる部分が多いと思います。

泰山は気持ちを新たに議会を解散させました。

次に総理になった時、泰山は魑魅魍魎だらけの政治の世界でどこまで己の求める政治道を追求していくのだろうか、と物語の未来をつい思い起こさせてしまう終わり方です。

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