著者:太田紫織 2014年6月にKADOKAWAから出版
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図の主要登場人物
九条櫻子(くじょうさくらこ)
ヒロイン。年齢はおそらく20代の後半。実家は旭川市の開墾に携わった地主。
館脇正太郎(たてわきしょうたろう)
食欲と好奇心が旺盛な高校生。よく事件に巻き込まれる。
設楽(したら)
櫻子のおじ。かつては法医学の講座を受け持つ教授だった。進行性の持病があり長くは生きられない。
臼渕日和(うすぶちひより)
故人。生前は交遊関係が派手だった。
臼渕沙月(うすぶちさつき)
日和の妹。おとなしく目立たないタイプ。現在の消息は不明。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図 の簡単なあらすじ
叔父が現役時代に調べていた事件を個人的に引き継いだ九条櫻子は、高校生の館脇正太郎と一緒に函館に向かいます。
姉の臼渕日和を殺害した妹・沙月の存在までたどり着きますが、正太郎が刃物でケガを負わされてしまいます。
追い詰められた沙月は逃走に失敗して死亡しますが、陰で彼女を操っていた真犯人・花房を取り逃がしてしまうのでした。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図 の起承転結
【起】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図 のあらすじ①
父親の弟・設楽のお見舞いに行ってきたという九条櫻子と、館脇正太郎は自宅近くのファーストフードで待ち合わせをしました。
設楽の具合は取り立てて良くも悪くもありませんが、櫻子は彼が退職して病院に入る直前まで調べていた頭部の骨が欠けた遺体について気にしています。
亡くなったのは臼渕日和で今から10年前、遺体が見つかった場所は函館市の北部・じゅんさい沼、検視の結果で自死と断定。
正太郎が通う学校の先輩も以前に頭蓋骨の一部を持ち去る画家・花房のモデルをしていために、(前巻「蝶は十一月に消えた」参照)無関係とは思えません。
設楽のファイルを手掛かりに函館まで行くという櫻子に、冬休みに入った正太郎も同行するつもりです。
櫻子の婚約者の在原直江は道警に顔が広く、直江のいとこ・千代田薔子の実家は観光ホテルを経営しているために宿泊場所の心配はありません。
ただし警察は花房の存在そのものについて疑問視しているために、今回の調査は直江には内緒にしています。
【承】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図 のあらすじ②
臼渕日和の遺族が住んでいるのは北斗市との境にあるフェリーターミナルの近くとファイルには記載されていましたが、すでに家を売り払って出ていった後です。
厳格だった父親は日和が亡くなった年の冬にくも膜下出血、気の弱い母親も心身症を患った末に数年後に事故死。
若くして姉と両親を失ってただひとりだけ生き残った沙月の所在は、臼渕家の近所に聞いて回っても分かりません。
生前の日和の評判については、当時交際していた複数の男性たちが異性関係が奔放だったと証言していました。
自分こそが本命だと信じていた彼らはいま現在では家庭を持ったり別のパートナーとお付き合いをしていますが、皆いち様に「自殺するような女ではなかった」と口をそろえています。
行く先で警戒されたり迷惑そうな顔をされますが、櫻子は一向に追及の手を緩めず疲れたそぶりも見せません。
真実を知りたいという彼女の真っすぐな行動力と強い欲求に、正太郎は言い知れない不安を感じてしまいました。
【転】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図 のあらすじ③
設楽が勤めていた札幌医療大学に櫻子は高校生の頃から出入りしていて、彼女が骨を愛するようになったのも研究室の本や論文を片っ端から頭の中にたたき込んでいたからです。
その際にかわいがってもらった解剖技官の青葉から、久しぶりに電話がかかってきました。
相変わらず櫻子がアマチュア探偵のまね事をしていることにいい顔はしませんが、宇萬良庸という珍しいペンネームの写真家について教えてくれます。
つい最近になって札幌で開いた個展が好評で地方紙にも載りましたが、活動拠点は函館周辺で本名は臼渕沙月です。
宇萬良は古語でイバラ、庸はありふれたもの、英語に直すとCommon Rose 、ベニモンアゲハの学名… 女性たちにチョウチョの名前を与えるのは花房の常用手段で、沙月が姉にコンプレックスを抱いていたことを見逃しません。
撮影スタジオとして使っているマンションから事件現場となったじゅんさい沼まで誘導された沙月は、櫻子たちの前で自らの罪を自白しました。
【結】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図 のあらすじ④
人体の目の奥にあり正面から見ても上から見ても羽根のような形をした「蝶形骨」の美しさに、沙月もまた夢中になってしまったひとりです。
すべては花房にささげる「標本」だったという沙月は、櫻子を羽交い締めにしてナイフの刃先を向けました。
飛びかかってきた正太郎の腹部を切り付けた沙月は逃走し、櫻子が救急車を呼んだために傷は浅く済みます。
この時期のじゅんさい沼は完全に氷が張っていないために、逃げる際に沼の底に転落した沙月は助かりません。
鑑識が周囲を掘り起こしてみると割れた頭蓋骨が発見されますが、花房に関する手掛かりはつかめないままです。
函館から地元の病院に移った正太郎にはクラスメイトや担任の先生が毎日のように遊びに来てくれますが、櫻子だけは顔を見せません。
正太郎の母親からしばらくは距離を置いてくれと頼まれたこともあり、彼女なりの罪悪感もあるのでしょう。
沙月に刺されて意識を失う瞬間に櫻子が「そうたろう」と叫んだことも、正太郎の胸のうちに引っ掛かっています。
「そうたろう」とは櫻子の弟の名前、生きていれば今年で20歳になっていたとのことです。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 5 冬の記憶と時の地図 を読んだ読書感想
北海道の名物料理や人気のスイーツがたっぷりと登場するいつもの穏やかなムードとは、ガラリと変わった不吉な幕開けです。
やはり前回に多くの謎を残したままで消えていったシリアル・キラー、花房の影が主人公・九条櫻子と相棒の館脇正太郎のあいだに暗い影を落としているからでしょう。
櫻子さんが尊敬して止まない法医学のスペシャリスト・設楽教授も、回想シーンのみの登場となっていますが強い存在感を放っています。
衝撃的な結末の果てに明かされる意外な真実、さらには櫻子・正太郎の名コンビにも黄色信号が点滅するような今後の展開からも目が離せません。
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