「櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|太田紫織

「櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし」

著者:太田紫織 2016年7月にKADOKAWAから出版

櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろしの主要登場人物

九条櫻子(くじょうさくらこ)
ヒロイン。標本組み立ての天才で医大や旭山動物園にも展示されている。愛犬はサモエドで名前はヘクター。

館脇正太郎(たてわきしょうたろう)
日頃から九条家で食事をごちそうになっている。ペットの世話や力仕事などをよく手伝う。

千代田薔子(ちよだしょうこ)
櫻子の婚約者とはいとこ同士。お嬢様学校を卒業して財閥系の跡取りと結婚した。

遠藤範子(えんどうのりこ)
薔子の学生時代の友人。裕福な家庭に育つものの心を許せる相手が少なかった。

遠藤榮美子(えんどうえみこ)
範子のおば。愛情が深いが独占欲も強かった。

櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし の簡単なあらすじ

10年前の夏に両親を殺害して自らの命を断ったとされているのは遠藤範子で、被疑者死亡のまま「リジー・ボーデン」として語り継がれていました。

生前の範子と親しくしていた千代田薔子から真相究明を依頼された櫻子は、範子の父の妹・榮美子の存在までたどり着きます。

さらにはその榮美子の背後に宿敵・花房の気配を感じますが、決定的な証拠まではつかめません。

櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし の起承転結

【起】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし のあらすじ①

節目の年に決着

館脇正太郎が九条邸の庭でヘクターのブラッシングをしていた7月の終わり、千代田薔子がでんすけスイカの箱をお土産に訪ねてきました。

もうすぐ親友の命日だという薔子でしたが、彼女の顔や名前はこのところテレビでよく目にしています。

1892年8月4日にマサチューセッツ州でボーデン夫妻を斧で斬殺したのがリジー、10年前の8月4日に札幌の高級住宅街で実父と義母をツルハシで撲殺したのが遠藤範子。

「平成のリジー・ボーデン」と称された事件は犯行後に範子が自殺したと結論付けられていましたが、中学・高校と仲良くしていた薔子は今でも信じていません。

遠藤家を買い取ったのもいつか範子の無実を証明するためでしたが、老朽化が激しくそろそろ気持ちの整理を付ける頃合いです。

あの日あの家で何があったのか教えてほしいという薔子のために、櫻子は砂川のサービスエリアから高速道路に乗って札幌に向かいます。

道外からも強い関心を集めたリジー・ボーデン事件はインターネットでも検証されていて、複数のサイトをまとめてプリントしてきた正太郎も同乗していました。

【承】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし のあらすじ②

過去の現場を最新の情報に更新

範子の父親・範泰は貿易会社役員で何不自由ない暮らしをしていただけあって、西洋的でレトロ感のある建物で延べ床面積も100坪はあるでしょう。

その範泰の遺体が発見されたのはバスタブ、首をつった状態の範子もバスルーム。

範泰の再婚相手・奈緒だけがバラバラにされて、円山公園と盤渓の山あいに遺棄されていたという報告に櫻子は疑問を抱きました。

おじが有名な教授で自身も大学に標本を納品することもある櫻子にとって、関係者の検視記録を入手するのはお手のものです。

エックス線画像によると範子は上腕骨幹の中央部に骨折のあとがありましたが、日常生活やスポーツなどで簡単に折れる部位ではありません。

体の内側でもあり他人からは見えない部分でもあり、誰かから故意に強い外力がかけられた可能性が出てきました。

全寮制の女子校に通っていておしとやかだった範子と、ススキノで働いていて服装も派手だった奈緒とはうまくいっていなかったそうです。

奈緒が範子を虐待していたのかと思いきや、昔からこの地区に住んでいる河内は範泰の妹・榮美子の仕業だったと証言しています。

【転】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし のあらすじ③

死と罪を分かち合う人たち

80代の半ばらしき河内でしたが、学生時代に遠藤家によく遊びに来ていた薔子のことをしっかりと覚えていました。

すぐ裏手にある河内家に招ねかれた櫻子たちはバウム・クーヘンでおもてなしを受けつつ、榮美子と範子が実の親子のように仲が良かったことを聞きます。

範泰の再婚によって榮美子は家を追い出されるような形になり、さらには手術が不可能なほどの末期ガンであることが判明。

自らの死を突き付けられた人間は激しく憤り、その怒りが身近な人へと向かうのは珍しくありません。

警察も榮美子のことは調べていましたが、あの8月4日は自助グループのセルフミーティングに参加していたということでアリバイが証明されています。

お互いに症状や治療方法を交換して支え合うための集まりで、その参加者たちの多くはガン患者です。

同じような痛みを分かち合って結束している仲間だけに、榮美子から強く訴えられたならばアリバイ工作にも偽証にも協力したでしょう。

事件の数カ月後に榮美子は病死、グループのメンバーもすでにこの世にはいません。

【結】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし のあらすじ④

8月の光に消えた悪魔

関係者の中で唯一の生き残りとなってしまった薔子は、しばらくの間は座り込んですすり泣いていました。

これまでの櫻子の推理には明確な物証がないために、道警も再捜査にまでは動いてくれないとのこと。

それよりも気になっているのは山中で発見された奈緒の遺体の中で、頭部だけがいまだに見つかっていないことです。

人体の解体・運搬にはかなりの体力がいるために、余命幾ばくもなかった榮美子がひとりで決行したとは思えません。

若くて骨格の良かった奈緒からは蝶形骨を、経済力のあった榮美子からは資金を。

他者をたくみにコントロールして自分のほしい物を奪っていく手口は、夏休みに入る前に正太郎に接触してきた花房と一致します。

(前巻「狼の時間」参照)この機会に薔子にはあの家を手放す決心をさせたために、彼女が狙われる心配はないでしょう。

すべてを花房に結び付けるのは愚かだと櫻子は帰りの車中で笑っていましたが、正太郎は窓の外で羽ばたくチョウチョの影を見たような気がするのでした。

櫻子さんの足下には死体が埋まっている 10 八月のまぼろし を読んだ読書感想

マザーグースや海外の推理小説などで、「リジーはおのを振り下ろす」という一節を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

今から100年以上も前に起きたという殺人事件でしたが、若い女性の犯行で「暑くてボンヤリとしていた」としか供述していないのが不気味です。

そんなリジー・ボーデンが21世紀の北海道旭川に現れるという、何とも幻想的な幕開けでした。

時が流れても親友の死を引きずっている千代田薔子に対して、櫻子さんは容赦なく真実を突き付けていきます。

面と向かって言葉には出さないものの、この厳しさの裏には彼女なりの優しさが隠れているのかもしれません。

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