「ブレイズメス1990」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|海堂尊

ブレイズメス1990

著者:海堂尊 2010年7月に講談社から出版

ブレイズメス1990の主要登場人物

世良雅志(せらまさし)
主人公。3年目で専門は腹部外科。決して後退しない「歩兵」。

天城雪彦(あまぎゆきひこ)
モンテカルロの心臓外科医。 あらゆる障害を飛び越える「騎士」。

佐伯清剛(さえきせいごう)
東城大学付属病院の院長。「王様」。

高階権太(たかしなけんた)
佐伯の懐刀。「女王」。

垣谷雄次(かきたにゆうじ)
世良の医学部時代の先輩。「城」。

ブレイズメス1990 の簡単なあらすじ

東城大学医学部付属病院の若手医師・世良雅志は、モンテカルロの優秀な心臓外科医である天城雪彦を日本に連れて帰りました。

心臓手術の専門病院・スリジエ・ハートセンターを創設するために、天城は公開手術で自らの類いまれな腕前を披露します。

自動車メーカーの会長から寄付を取り付けて行政も味方につけた天城は、日本の医療を変えるための戦いに身を投じていくのでした。

ブレイズメス1990 の起承転結

【起】ブレイズメス1990 のあらすじ①

赤でもなく黒でもない

1990年4月、東城大学医学部付属病院の総合外科教室に所属する世良雅志はフランスのニースに向かっていました。

表向きは国際学会のシンポジウムで発表する垣谷雄次のお供ですが、ひそかに病院長の佐伯清剛からモンテカルロ・ハートセンターの天城雪彦を日本に連れて帰ることを命じられています。

垣谷の発表を見届けた世良が向かったのは、ニースからユーロシティで20分ほどで到着するモナコ公国の都市・モンテカルロです。

四つ星ホテルのスイートルームに滞在して毎晩のごとくカジノで豪遊する天城に、世良はルーレットで勝負を挑みました。

赤が出れば天城はオファーを受けてモンテカルロを離れる、黒が出れば世良はおとなしく日本に帰る。

電光掲示板の数字はゼロを示していて、赤でも黒でもないアン・プリゾン(刑務所入り)を意味していました。

結果は引き分けに終わりましたが、めったに市場に流通しないモナコ硬貨を持っていた世良の強運を認めた天城は一緒に日本に戻ります。

【承】ブレイズメス1990 のあらすじ②

盤上の熱き戦い

佐伯病院長が天城を呼んだ理由はこの桜宮市でもまったく新しいコンセプトの病院、スリジエ・ハートセンターの建設から立ち上げまでを任せるためです。

外国帰りの天城が持ち込んできた構想は食道専門の講師・高階権太や、心臓血管グループを率いる黒崎誠一郎といずれは衝突するでしょう。

世良はその時のためのサポート役として、天城の身の回りの世話の一切を引き受けることになりました。

天城の教授室の机の上には高価な黒曜石のチェスボードが置かれていて、アメジストでできた駒がずらりと並んでいます。

王者の風格がある佐伯は「キング」、最強の戦士・高階は「クイーン」、斜めにこそこそと移動する黒崎は「ビショップ」、忠誠心の固い垣谷は「ルーク。」

東城大学付属病院の複雑に入り組んだ勢力図をチェスに見立てた天城は、自らを重力に縛られない「ナイト」と称しています。

一歩ずつ前にしか進めない「ポーン」の世良もすっかり教授たちの派閥争いに巻き込まれてしまっているために、もう後戻りはできません。

【転】ブレイズメス1990 のあらすじ③

ステージの上のオペ

東城大学付属病院に天城が着任して3カ月あまりたった頃、ようやく天城がメスを握ることになりました。

7月12日木曜日、場所は東京の有楽町にある国際会議場のメインホール、患者は45歳の男性で心臓の冠状動脈に狭窄あり。

詰まった血管のまわり道を作るバイパス術が主流ですが、天城が編み出した術式は血管そのものを切除して新しい血管と入れ替えるダイレクト・アナストモーションです。

さらには東京国際会議場に1日限りのオペ室を作って、公開手術によって優秀な人材とスリジエ・ハートセンター設立の資金を集める狙いもあります。

医療現場を集金目的の見せ物にするな、公開の場で手術が失敗すれば東城大の評判に傷がつく。

病院全体会議では高階や黒崎たちから反感が噴出しますが、天城がモナコのカジノで知り合った中東の王族から破格の寄付金を取り付けたことが分かり形勢は逆転します。

会場の使用料や諸経費を差し引いても1億円近くの利益を病院側にもたらすと聞いて、反論できる出席者はいません。

【結】ブレイズメス1990 のあらすじ④

医療革命への飽くなき挑戦

7月12日当日、東京国際会議場メインホールの舞台裏には天城が指名したそれぞれの分野のスペシャリストたちが集結していました。

日本初となる公開手術に詰めかけた観客たちは、ステージの3方向に設置されたモニターでリアルタイムの手術を眺めることができます。

垂れ幕の向こうの臨時手術室では天城が輝くようなスピードでメスを走らせていて、これほどの緊張感の中でもまったく乱れはありません。

天城が「手術終了」とひと言だけ告げると、一瞬の静けさの後で津波のような拍手が押し寄せてきました。

公開手術には桜宮市長の秘書・村雨と、世界的な自動車メーカー・ウエスギモーターズの会長・上杉歳一も招待されています。

心臓に爆弾を抱えている上杉はスリジエ・ハートセンターの記念すべき第1号患者となるために、個人資産の半分に当たる150億円を寄付するつもりです。

桜宮市民に世界トップレベルの医療を提供するために、市議会の各会派も全面的な協力を惜しみません。

「モンテカルロの星」と呼ばれた天城雪彦の日本の医療界への挑戦は、この日から本格的に始動するのでした。

ブレイズメス1990 を読んだ読書感想

冒頭に登場する南フランスのリゾート地・ニースや、カジノやF1グランプリでも有名なモンテカルロの街並みが美しく解放感に満ちあふれていました。

中盤以降の舞台となる巨大な塔が見下ろすかのような大学病院内部の息苦しさと、勢力争いに明け暮れている医療関係者とのコントラストが際立っています。

常識はずれでお金にはうるさいものの、天才的なメスさばきによって患者の生命を救う天城雪彦のキャラクターが魅力的です。

前代未聞の公開手術をあっさりと成功に導きつつ、閉ざされた医療現場に新たな風を吹き込んでいくかのようなラストに胸を打たれました。

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