【ネタバレ有り】あるキング のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:伊坂幸太郎 2009年8月に徳間書店から出版
あるキングの主要登場人物
山田王求(やまだおうく)
主人公。公務員の父・亮と母・桐子との間に生まれる。
南雲慎平太(なぐもしんぺいた)
仙醍キングスの選手として活躍した後に監督に就任する。
森久信(もりひさのぶ)
王求の中学時代の先輩。
津田哲二(つだてつじ)
証券会社を退職した後にバッティングセンターの管理人になる。
駒込良和(こまごめよしかず)
縁もゆかりもない仙醍キングスの監督を使命感から引き受ける。
あるキング の簡単なあらすじ
とある地方都市に本拠地を置く仙醍キングスは、毎年のように最下位に低迷している弱小チームです。そんな不甲斐ない球団を誰よりも愛する父と母の期待を背負い、山田王求はプロ野球選手になるべく日夜トレーニングに励んでいます。天賦の才と類い稀な努力によって早くもプロのスカウトの注目を集めていた王求に、思わぬ試練が訪れるのでした。
あるキング の起承転結
【起】あるキング のあらすじ①
仙醍キングスは仙醍市に本拠地を置き製薬会社「服部製菓」が運営しているプロ野球チームでしたが、球団創設以来1度も日本一になったことがありません。
現役時代は球界屈指のスラッガーとして活躍した南雲慎平太がチームの指揮を執るようになっても、万年Bクラスの状態が続いていました。
成績不振の責任を取って辞任した南雲監督は、シーズン最終戦に試合中にベンチ内で転倒した際に頭部を強打して帰らぬ人となってしまいます。
南雲監督がこの世を去った正にその日、仙醍市内の個人経営の産婦人科医院で誕生したのが山田王求です。
熱狂的な仙醍キングスファンの父親・亮と母親の山田桐子による英才教育を受けて、プロ野球選手への道のりを歩いていきます。
平日には学校が終わってからバッティングセンターに直行し夜遅くまでのトレーニング、週末には地元のリトルリーグでの試合。
そんな野球漬けの王求に熱い眼差しを注いでいるのは父と母ばかりではなく、全身を黒でコーディネートした3人の女でした。
【承】あるキング のあらすじ②
中学生になっても野球に明け暮れていた大求でしたが、ある時に不良グループのリーダー・森久信因縁をつけられて暴行を受けてしまいました。
痣だらけの我が子の顔を見て、父親としては見過ごすわけにはいきません。
山田一家が住んでいるマンションと森の両親が経営する医院までは、国道沿いの細い道を歩いてすぐそこです。
少し前から雨が降り始めていたために、亮はビニール傘を片手に森医院へと向かいます。
インターフォンを押して出てきた森に平和的に解決を求めるつもりでしたが、気が付くと亮の隣にはいつかの黒ずくめの3人組が立っていました。
翌日から森は消息不明となり、彼の遺体が発見されたのはそれから3年後に王求が高校1年生になった時のことです。
森の死体に付着していたビニール傘の一部が、仙醍キングスのグッズ取扱店で販売されていることが判明します。
逃げきれないと悟った亮は警察へ自首に、せっかく甲子園の常連校に入学した王求は退学することになるのでした。
【転】あるキング のあらすじ③
超高校級の球児でもあり殺人犯の息子でもある王求は、高校を辞めた後も連日のように記者やレポーターに追いかけられていました。
小学生の頃から毎日通い続けてきたバッティングセンターの管理人・津田哲二は、彼の境遇に同情して練習場所を提供するばかりではなく知り合いの草野球の試合にも出場させてくれます。
そんな恩人の津田が突如として脳出血で意識不明の重体となったのは、王求が17歳になった時のことです。
妻の清美に言い残していた「プロでも絶対に活躍する」という言葉を胸に抱いて、18歳になった王求は仙醍キングスの入団テストに応募しました。
実力は文句無しでしたが過去に父親が起こした事件は地元でも有名なために、書類選考の段階で王求は不合格となってしまいます。
王求が思い付いたのは、中学時代の同級生の名前を借りて偽名でテストを受けることです。
たまたまテストを見に来ていた球団オーナーの目に留まり、遂に念願の仙醍キングスへの入団が決まるのでした。
【結】あるキング のあらすじ④
王求は入団1年目から頭角を現し、仙醍キングスの中心バッターとして目覚ましい活躍を披露していました。
その一方では彼がプロ野球の記録を塗り替えようとする機会が訪れる度に、相手チームは敬遠やデッドボールなど手段を選ぶことなく阻止してきます。
殺人犯の息子が球史に名を残すことに根強い違和感を抱いているのは、対戦相手ばかりではありません。
正義感と使命に満ち溢れている、仙醍キングスの現監督である駒込良和もそのひとりです。
王求を無き者にしようと、駒込監督は自身に心酔している打撃コーチを嗾けます。
試合中に腹部を刃物で刺された王求の目に映ったのは、幼い頃から見てきた黒い服に黒い帽子を被った女たちです。
激痛に耐えていた王求はどこからか自分を応援する声を聞いて、最期の力を振り絞ってホームランを打ちます。
王求が仙醍球場で23年間の人生を終えようとしていた正にその瞬間、市内では熱烈な仙醍キングスファンの夫婦が分娩台で出産に望んでいたのでした。
あるキング を読んだ読書感想
天才的なセンスと恵まれた身体能力を持って生まれてきた主人公・山田王求の、23年間の生きざまが短くも鮮烈でした。
幼い頃からプロ野球選手を目指して、ただひたすらにトレーニングに打ち込んでいく姿がストイックです。
息子に対して過剰なまでの期待を寄せている父親の山田亮が、遂には一線を超えてしまうシーンには鬼気迫るものがあります。
王求の行く先々で現れる、黒装束を身に纏った3人の女たちが何とも不気味です。
シェイクスピアの戯曲「マクベス」に出てくる、3人組の魔女を思い浮かべてしまいます。
主人公の死と共に、新たな物語が始まっていくかのようなラストが圧巻です。
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