著者:伊坂幸太郎 2012年3月に講談社から出版
PKの主要登場人物
小津(おづ)
主人公。シングルマザーに育てられる。無名の中学と弱小高校で才能を開花させたストライカー。
宇野(うの)
小津の幼なじみ。 貧しい家庭で苦労しながらサッカーを続ける。
本田毬夫(ほんだまりお)
警備システムの開発会社で営業を担当。3歳の頃に命びろいをする。
大臣(だいじん)
無名の新人議員だったがある事件で一躍有名に。 曲がったことが嫌いな性格。
秘書官(ひしょかん)
大臣の機密事項を扱う。 調査能力に優れている。
PK の簡単なあらすじ
本田毬夫は3歳の時にマンションから転落してしまいますが、たまたま通りかかった若手議員に助けられました。
その場に居合わせたサッカー少年の小津は、17年後の代表戦でPKを決めて日本をワールドカップへと導きます。
27年後に大臣に就任したかつてのは若手議員は偽証を強要されますが、再会を果たした毬夫のひと言で吹っ切れるのでした。
PK の起承転結
【起】PK のあらすじ①
日本が2002年ワールドカップへの出場を決めるには、アジア予選の最終戦で勝ち点3をもぎ取らなくてはなりません。
カタールで行われている対イラク戦は無得点同士でロスタイムへ突入し、日本代表の小津選手がゴール前で倒されました。
小津はイラクチームのゴールキーパーと一対一で向かい合ってペナルティーキック(PK)を蹴ることになりましたが、数カ月前に遠征先のホテルにまで押しかけてきた不思議な男のことを思い出します。
ワールドカップアジア予選の最終戦でPKのチャンスが訪れたらわざと外してほしい、従わない場合は大変なことになる。
緑色の海のようなグラウンドに置かれたボールを見つめていた小津に近寄って声をかけてくれたのは、小学生の頃から同じクラブチームで練習していた宇野選手です。
小津家にも宇野の家庭にも父親がいないため貧しく、チームの先輩たちから毎日のようにいじめられていました。
ふたりがサッカーをやめようと思っていた17年前、学校から帰る途中の広い歩道で見たあの場面だけは今でも忘れていません。
【承】PK のあらすじ②
自宅マンションの4階のリビングルームで眠っていた本田毬夫は、カーテンのすき間から射し込んできたまぶしい太陽の光を浴びて目を覚ましました。
いつもであれば毬夫は昼食を取ったあとにお昼寝をして、2時間くらいは目を覚ましません。
3歳になったばかりの落ち着きのない息子から目を離すことは不安でしたが、この日に限って毬夫の母親はどうしても外で済まさなければならない用事が入っています。
台所にも玄関に続く廊下にも母の姿は見当たらなかったために、毬夫の胸の中はたちまち不安でいっぱいです。
ベランダの隅にはトランクルームに入りきらなかった冬用のスタッドレスタイヤが積まれていて、毬夫はよじ登って手すりをつかんで外を眺めました。
歩道の左側から大きな紙袋を抱えてマンションへと急ぐ母を見つけたために、毬夫は思わず「ママ」と叫んで身を乗り出します。
毬夫の体は手すりを軸にしてくるりと一回転して、真っ逆さまに地面へと落ちていきました。
【転】PK のあらすじ③
マンションのベランダから子供が落ちた瞬間、小学生時代の小津と宇野が見たのは両腕を前に突き出して駆け込んでくる背広姿の男性です。
地面に衝突するすれすれで男性が子供をキャッチすると、小津はガッツポーズをして宇野も雄叫びをあげていました。
ふたりの少年は自分たちが目の当たりにした光景を噛みしめて、これから先どんなに辛くてもサッカーだけは止めないと約束します。
日本代表選手としてピッチに立つ小津が苦渋の決断を迫られることとなったのは、それから17年後のことです。
わざとPKを決めても外しても世の中にとって何ひとつ影響はないと弱気になる小津に、宇野は「みんなの勇気が湧く」とだけ声をかけてペナルティエリアを離れます。
気がつくと小津がシュートしたボールは相手チームのゴールの中に転がっていて、カタールのスタジアムを覆った地響きのような歓声は鳴り止みません。
小津は宇野と抱きあったあと、あの時と同じようにガッツポーズをしました。
【結】PK のあらすじ④
公用車で博物館に出向いて館長と打ち合わせ、14時からは都市計画法改正案について課長からの説明、あさってには後援会長の長男の結婚式。
先月に57歳で大臣の座に就いて以来多忙なスケジュールに追われていましたが、1番の気掛かりは幹事長からの電話です。
善を成し遂げるために偽りの証言をしてほしい、断れば大臣の痴漢や未成年者への性的暴行疑惑が公表される。
身に覚えのないスキャンダルばかりですが、いったん世間が事実と思えば政治家としての生命はたちまち終わりを迎えます。
思い悩んでいた大臣は27年前に自分が命を救った子供の居場所を秘書官に捜してもらい、一緒に食事をすることにしました。
当時はまだ当選したばかりの新人だった大臣の知名度が上がったのは、マンションの4階から落下した本田毬夫を受け止めたことを大々的に報道されたからです。
今では警備会社の営業社員として立派な若者になった毬夫は、大臣を「過ちを認めることから物事は始まる」と励ますのでした。
PK を読んだ読書感想
「PK」「超人」「未来」と3つの独立したストーリーが進行していき、時おり交錯していく展開はスピード感がありました。
2002年のワールドカップがフランスで開催されているなど、現実の世界とは異なるパラレルワールドになっているのも面白かったです。
ハングリー精神の塊のようなサッカー選手であれ、若き日に転がり込んできた幸運によって入閣してしまった大臣であれ。
それぞれの生い立ちや立場ば違えども、何かと戦っていて常に決断を迫られていることが伝わってきます。
正体が不明の脅迫者や理不尽や要求を突き付けられながらも、勇気を持って運命と立ち向かっていく姿が感動的です。
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