【ネタバレ有り】恐怖 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:筒井康隆 2001年1月に文藝春秋から出版
恐怖の主要登場人物
村田勘市(むらたかんいち)
作家。
町田美都(まちだみと)
画家。
南條郁雄(なんじょういくお)
建築評論家。
八杉保(やすぎたもつ)
市立図書館の館員。
出雲康紀(いずもこうき)
市役所職員。土木課に勤務。
恐怖 の簡単なあらすじ
生け花や踊りの師匠からピアノの先生に建築士まで、姥坂市内には多種多様な文化人が暮らしていました。第一の被害者は美しき女流画家、第二の被害者は歴史的建造物の保護活動に熱心な建築評論家。次第に被害者と1年前の大惨事との関連性が浮かび上がっていく中で、文化人たちは言い知れない恐怖に追い詰められていくのでした。
恐怖 の起承転結
【起】恐怖 のあらすじ①
小説家の村田勘市は姥坂駅構内のアーケード街で食品を購入して、昼下がりの高級住宅街を優雅に散歩しつつ自宅に向かっていました。
日頃から親しくしている町田美都の邸宅の門が開けっ放しになっていたために、ひと声かけようと家に入ります。
玄関の板の間に置かれた椅子に凭れかかってした美都の首には赤い紐が巻き付けられていて、既に何者かに殺害された後です。
微笑みを浮かべたような壮絶な死に顔を見てパニックに陥ってしまい、村田は警察に通報することが出来ません。
偶然に家の前を通りかかった主婦に助けられて辛うじて正気を取り戻し、警察署で4時間を超える事情聴取を受けた午後10時にようやく解放されます。
次の日の朝には建築評論家の南條郁雄が自宅のリビングで絞殺死体となって発見されたために、文化人連続殺人事件としてワイドショーや週刊誌は大騒ぎです。
一見無関係なふたりの被害者を繋ぐ手掛かりは、明治時代に建てられた税務署の庁舎でした。
【承】恐怖 のあらすじ②
4年前に姥坂市税務署の庁舎が老朽化のために取り壊しが決まった時に、歴史的文化財として残すことを先頭に立って主張したのが美都であり南條です。
村田自身も地元を代表する文化人として、取り壊し反対運動には1枚噛んでいます。
市長は仕方なく保存を決定しましたが、費用が国から給付されなかったために補修工事はいつまで経っても行われません。
1年前に発生した震度2の地震で建物はあっけなく倒壊して、当日勤務していた職員の37人が帰らぬ人となってしまいました。
警察の調査によると、亡くなった税務署職員の遺族の数は100人を上回るほどです。
愛する家族や恋人を奪われた者たちが、姥坂市の文化人を恨み復讐に走った可能性も否定できません。
美都の葬儀に参列した後に村田は仲の良い美術評論家や書道家を誘い合わせて、レストランの個室であれこれと犯人像を推理していきます。
故人を静かに偲ぶはずの会食が、次第にお互いへの敵意と疑惑に満ちた気まずい雰囲気になってしまうのでした。
【転】恐怖 のあらすじ③
遺族からの報復に怯えているうちにノイローゼになって、自らの生命を絶ってしまう文芸評論家まで現れました。
村田は第3のターゲットになることを恐れる余りに、買い物にも外食にも行けなくなってしまいます。
せっかく訪ねてきた熱心な愛読者の女子高生を、殺人犯と勘違いして追い返してしまう始末です。
幸いにして事件発生前に大量の食料品を買い込んでいて、姥坂市には高級料理の出前店も立ち並んでいるために食事には困りません。
家に引きこもり執筆活動に明け暮れていた村田でしたが、図書館員の八杉保から頼まれていた毎週1回の会合には参加するつもりです。
午後6時から始まった集まりは本来であれば文学談議に花を咲かせる場のはずが、出雲康紀という税務署署員の遺族が村田を烈しく詰ったために険悪なムードのままでお開きになります。
会の後に近くの韓国居酒屋で夕食に招かれた村田でしたが、主催者の八杉が婚約者を1年前の事故で失ったことを知り慌てて店を逃げ出すのでした。
【結】恐怖 のあらすじ④
村田が姥坂を脱出しようと決意した時には、既に八杉と出雲は取り調べ室で犯行を自供していました。
許婚者を奪われた八杉と父親を亡くした出雲は、中学生の頃からの親友で何でも話し合える仲です。
出雲は大学時代に建築美学を学んでいたために南條を、八杉は図書館での催し物で交流があったために美都を殺害します。
それぞれがお互いの犯行時刻のアリバイを証言すれば完全犯罪が成立するはずでしたが、姥坂の文化人全員を抹殺するという出雲の過激な主張に八杉はついていけません。
自分たちの逮捕によって殺人の動機がマスコミに取り上げられ、文化人たちの横暴さが糾弾されることこそが八杉にとっての最大の復讐です。
事件解決後も奇行が目立ち始めた村田は、都内の大学病院に入院することになります。
見舞い客が八杉と出雲の逮捕を教えても、村田はなかなか信じようとはしません。
3か月の闘病の後に自宅に戻った村田は、いつかの女子高校生に再会して以前の非礼を詫びるのでした。
恐怖 を読んだ読書感想
世田谷成城や神奈川県鎌倉市を思わせるような、架空の地方都市・姥坂を舞台にしたサスペンスが味わい深かったです。
豊かな自然に恵まれた土地柄と、歴史ロマンと情緒溢れる先時代の遺物が立ち並んでいる街並みが思い浮かんできました。
その一方では莫大な予算をつぎ込んで人の生命さえ軽視してまで、文化財を保全する傲慢さについても考えさせられます。
最先端のショッピングモールや高層ビルの谷間に昔ながらの日本家屋がひっそりと生き続けるような、新しい価値観と過去への郷愁が共存共栄できるような街づくりが大切なのかもしれません。
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