巨船ベラス・レトラス(筒井康隆)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

巨船ベラス・レトラス

【ネタバレ有り】巨船ベラス・レトラス のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:筒井康隆 2007年3月に文藝春秋から出版

巨船ベラス・レトラスの主要登場人物

鮪勝矢(しびかつや)
同人誌作家。テロ事件実行犯。

七尾霊兆(ななおれいちょう)
詩人。20才の時に失明する。

村田澄子(むらたすみこ)
七尾の弟子。新進作家。

狭山銀次(さやまぎんじ)
実業家。「ベラス・レトラス」誌の出身者。

巨船ベラス・レトラス の簡単なあらすじ

爆弾騒ぎを起こした地方同人誌の作家、盲目の詩人、若き女流作家。怪しげな文芸誌「ベラス・レトラス」に導かれて集結した訳ありな文学者たちは、いつの間にか船に乗っていてまだ見ぬ文学の大海原へと旅立っていくのでした。

巨船ベラス・レトラス の起承転結

【起】巨船ベラス・レトラス のあらすじ①

文学戦線に火がつく

イタリアン・カフェで開催されていた「パンクロックと文学の会」で、爆発に巻き込まれた観客が死傷する事件が発生しました。

逮捕されたのは富山県の鉄工所に勤めている29歳で、小説家に憧れながらも長らく同人誌で燻っていた素人作家・鮪勝矢です。

大御所の作家や大手出版社を逆恨みした末に凶行に踏み切ったようで、文壇に衝撃が走ります。

文学新人賞のパーティー会場では、鮪が起こした事件の話題で持ちきりでした。

会場内で男性たちの注目を集めているのは、若干20才ながらも新進気鋭の小説家として売り出し中の村田澄子です。

2年前まで名門高校に通っていた女子高校生でしたが、所属先の文芸部に嫌気が差し退学して現在は七尾霊兆に師事しています。

【承】巨船ベラス・レトラス のあらすじ②

光を失った詩人

七尾は盲目ながらもサングラスをかけることなく、象牙のステッキを握りしめ村田に付き添われてこのパーティーにやって来ました。

前衛詩人であり数多くの文学賞の選考委員を兼ねていて、現在では文芸雑誌「ベラス・レトラス」を舞台にして新作を発表しています。

ベラス・レトラスはパソコンソフトの会社を立ち上げて一代で莫大な財産を築いた、狭山銀次という社長が創刊した文芸誌です。

詩人ばかりではなく革新的な作風が持ち味の推理小説家やミステリー作家も寄稿していて、原稿料は1枚50000円という破格の値段になります。

七尾は来場者との歓談の最中に次回作の構想を思いついて、頭の中で練り上げていくうちにすっかり夢中になってしまいました。

【転】巨船ベラス・レトラス のあらすじ③

気が付くと船の上に

詩作に没頭しているうちに自分が何処にいるのか分からなくなってしまうのは、今回に限ったことではありません。

周囲のざわめきから話し声、ナイフやフォークが皿にぶつかる音、高級な料理の匂いに揺れている足下。これらの要素から察するに、ここが巨大な客船のレストランであることを判断しました。

ラウンジにはたくさんの文壇関係者が詰めかけていましたが、誰もこの船が何処に向かっているのか知らないようです。

上甲板の揺り椅子に寝そべって船内で知り合った乗客と会話を楽しんでいると、 聞き覚えのある澄子の声が聞こえてきます。

七尾と同じくこの船のオーナーである狭山社長に招かれた愛弟子と共に、ディナー会場へ向かうことにしました。

【結】巨船ベラス・レトラス のあらすじ④

文学はどこへ向かうのか

船のボイラー室には例の事件によって死刑判決が下されて拘置所にいるはずの鮪勝矢までが、火夫の格好をして石炭や売れ残りの新刊書を釜の中に投げ入れていました。

高級なワインと豪華なステーキに舌鼓を打っている七尾たちを前にして、主催者の狭山は文学の海を突き進んでいくことを宣言します。

食事の後に船内を散策していた澄子が偶然にもデッキチェアで出会ったのは、とある出版社による著作権の侵害行為を告発するために現れたこの小説の作者・筒井康隆です。

船内の広々とした劇場に乗船客から乗組員までのほぼ全員が集まって、侃々諤々の文学論争が巻き起こります。いつの間にか居なくなってしまった澄子は、船の舳先で女神像になっているのでした。

巨船ベラス・レトラス を読んだ読書感想

商業主義にすっかり染まってしまった今の時代の日本文学を、挑発するようなストーリー展開が刺激的です。

爆弾テロまで起こして自らの存在をアピールする、文学青年の慣れの果てには呆れてしまいます。

その一方では古い価値観や慣習に捉われてしまい、新しいタイプの小説が生まれてこない閉塞感も伝わってきました。

私財を投じてまで革新的な文学者をサポートする、大富豪・狭山銀次の並々ならぬ思い入れも印象深かったです。

著者自身が何の説明もなく物語に登場して、延々と恨みつらみを並べたてるクライマックスには驚かされます。

1934年生まれのSF界の大御所ながらも、幾つになっても遊び心を忘れない持ち前の性格が微笑ましかったです。

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