「ナオミとカナコ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|奥田英朗

「ナオミとカナコ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|奥田英朗

著者:奥田英朗 2014年11月に幻冬舎から出版

ナオミとカナコの主要登場人物

小田直美(おだなおみ)
百貨店の外商部勤務。キュレーターの資格を持つ28歳独身女性。

服部加奈子(はっとりかなこ)
直美の大学時代の同級生で親友。控えめでおとなしい性格の専業主婦。

服部達郎(はっとりたつろう)
加奈子の夫でエリート銀行員。家柄もよく有名私立大卒の爽やかな青年。

服部陽子(はっとりようこ)
達郎の実妹で加奈子の義妹。派手なメイクでブランド好きな大手不動産会社のキャリアウーマン。

李朱美(りあけみ)
池袋で食料品店やカラオケ店を経営するたくましい中国人女社長。

ナオミとカナコ の簡単なあらすじ

親友の直美と加奈子が綿密に計画やアリバイを企て加奈子のDV夫を殺害します。

完全犯罪に仕立てたつもりがどんどん綻び始め、追い詰められていく様子を臨場感溢れるスピード感とスリルで描いたサスペンス小説です。

ナオミとカナコ の起承転結

【起】ナオミとカナコ のあらすじ①

直美と加奈子

葵百貨店の外商部に勤務して7年目を迎える小田直美は、望まない職場で憂鬱な毎日を過ごしていました。

大学で西洋美術史を学びキュレーターの資格を取ったのも、本店の催事部で美術展に関わる仕事がしたかったからです。

しかしその願いが叶うことはなく、不本意ながら年間何百万と使う顧客相手の外商部で商売をする日々です。

そんなある日、直美は大学の同級生で唯一の親友でもある服部加奈子のマンションを訪れます。

加奈子は大学卒業後に大手電機メーカーに就職し、合コンで出会ったエリート銀行員の服部達郎に交際1年目でプロポーズされ、結婚後は専業主婦として幸せな家庭を築く順風満帆で誰もが羨むような女性です。

しかし久しぶりに会う加奈子は、誰が見ても驚くほど頬が赤く腫れ上がっていたのです。

直美は加奈子が夫の達郎から日常的に激しいDVを受けていることを知り、幼少期に母親が父親に暴力を振るわれていた辛い過去が蘇り酷く動揺しました。

そしてなんとか加奈子を助け出そうと考えましたが、離婚や逃亡なんかでは仕返しが怖く危険なので、2人は達郎を協力して殺すことに決めました。

こうして親友の直美と加奈子は、冗談とも本気ともつかない夫殺人計画を企てることになったのです。

【承】ナオミとカナコ のあらすじ②

殺害計画

そんな中、都内ホテルで行われた商談会で、展示されていた葵百貨店の高級腕時計が盗まれる事件が起こります。

犯人は中国人向けの食料品店やカラオケ店を経営する李朱美で、複数の質屋に売ろうとしていることが判明しました。

しかしこの中国人女社長は葵百貨店にとって特別なお客様。

警察には通報せず直美は内密に交渉をし、時計を返すことと別の時計も購入することを条件に手打ちにしました。

時計を盗んだことを一切悪びれない朱美ですが、バイタリティに溢れ逞しく生きるこの女性に直美は徐々に惹かれ仲良くなっていくのです。

直美と朱美は頻繁に食事に行く仲となり、加奈子やDV夫の相談をもちかけました。

日本人にはない中国人の主張のはっきりとした価値観に妙な具合に勇気づけられ、この朱美との出会いで夫殺人計画が現実のものとなっていきました。

そしてさらに、朱美のもとで働いている達郎そっくりの中国人密入国者・林竜輝との出会いや、認知症の資産家顧客・斎藤夫人に口座の管理を任されるようになったことなどの追い風が重なり、殺人計画はどんどん具体化していきました。

2人が考え出した計画は、まずは銀行員の達郎が斎藤夫人の口座1千万円を横領したと見せかけること、その後達郎そっくりの林竜輝に達郎のパスポートを持たせて中国へ逃亡してもらい失踪したように見せかけることです。

こうして2人はついに計画を実行に移すこととなりました。

【転】ナオミとカナコ のあらすじ③

殺害実行

酔って帰ってきた達郎が寝ている間に2人で首を絞めて殺害し、スポーツ用品店で購入した遠征バッグに達郎の遺体を入れました。

人気のない早朝にそのバッグを車に乗せ、三国峠の頂上に埋めました。

その後は林竜輝に報酬として200万円を渡し、2度と日本へ戻らないと約束させ達郎として中国へと向かわせました。

すべては計画通りに終わり完全犯罪だと疑わなかった直美と加奈子ですが、思いもよらぬ計画の綻びが次々と明らかになっていきます。

達郎の同僚が、エリート銀行員の横領にしては金額が小さく杜撰すぎておかしいと指摘してしまうのです。

さらには達郎の妹・陽子が達郎の失踪に疑問を持ち、興信所を使って執拗に達郎の足取りや周辺を調査し始めました。

マンションやATMや空港の防犯カメラ映像を徹底的に確認したり、加奈子を疑い加奈子の部屋に盗聴器を仕掛けたり、興信所の探偵に加奈子を尾行させたりしました。

案の定、直美と加奈子が早朝に大きなバッグを運びだす様子、普段の達郎とはまったく違うファッションで金を引き出す姿、空港で林竜輝と打ち合わせている様子などが全て防犯カメラにしっかりと映っていました。

陽子は直美と加奈子が達郎を殺害したのではないかという結論に行き着きます。

そしてこの計画の最大の綻びが生まれます。

失踪したはずの達郎・林竜輝が、約束を破って再び日本へ入国しまた池袋で働き始めてしまったのです。

それを知った直美と加奈子は林を牽制するため彼に会うのですが、加奈子を尾行していた興信所の探偵に達郎そっくりの林竜輝の存在を知られてしまいました。

【結】ナオミとカナコ のあらすじ④

計画破綻

次々に計画が破綻し、直美と加奈子はどんどん追い詰められていきました。

そんな中、なんと加奈子の妊娠が判明します。

もちろん達郎の子どもですが、自分の子どもでもあるので強い意志で生みたいと願います。

直美と加奈子のことを警察に通報した陽子は、加奈子に警察に捕まる前に自ら命を絶つように迫りました。

シラをきり通した加奈子でしたが、翌日に警察から任意同行を求められました。

厳しい取り調べが行われる中、直美は朱美に依頼して弁護士を向かわせ、任意同行に拘束力はないため翌日に出頭することを条件に帰宅を許させました。

そして警察から解放された加奈子に直美は国外逃亡を提案しました。

逮捕状が出てしまえば出国ができなくなるので、警察の捜査が進まないうちに一刻も早く出国する必要があったのです。

翌朝、直美は加奈子と共に朱美の助力が届く上海に逃亡することを決めました。

さっそく荷物をまとめ空港へ急ぐ2人の前に陽子が興信所の人間と共に現れ、逃げても逃げても執拗に追いかけてきます。

カーチェイスさながらやっとの思いで直美と加奈子は羽田空港に到着し、極度の緊張の中、出国審査を無事に通過します。

2人は固くお互いを抱きしめ喜び合うのでした。

ナオミとカナコ を読んだ読書感想

この小説は、前半が「ナオミの章」、後半が「カナコの章」と分かれていて、それぞれ二人の視点で描かれているので感情移入しやすく、文章に勢いがあることも重なりこの2人と一緒に殺害計画や逃亡をしているような気持ちになります。

特に殺害後の逃亡は臨場感溢れる緊張感の続くサスペンスで、読者である自分も陽子たちに責められているようで一瞬たりとも落ち着かなく、必ず逃げ切らなくてはならないという焦燥感にかられます。

実際には素人からしても計画が杜撰なことには途中気が付くのですが、なんせ殺人犯のこの2人に感情移入させられてしまっているので、正しい妹の陽子や興信所や警察の人間が悪に見えてくるから不思議でした。

ラスト2人は国外逃亡に成功しますが、描かれているのは空港までで出国後の上海で2人がどうなったのかは分かりません。

最後に敢えて正論すぎてつまらない感想を言います。

やはりDVだろうが復讐だろうがいかなる理由であれ、人は決して人を殺めてはならず、国外逃亡後になんらかのカタチで2人が捕まっている結末なのかなと予想します。

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