「イン・ザ・プール」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|奥田英朗

「イン・ザ・プール」

【ネタバレ有り】イン・ザ・プール のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:奥田英朗 2002年5月に文藝春秋から出版

イン・ザ・プールの主要登場人物

伊良部 一郎(いらぶ いちろう)
精神科医で、父親が医師会の理事。35歳だが肥満で清潔感がない見た目と図々しい性格で難ありな人物。注射フェチ。

マユミ(まゆみ)
伊良部の元で働く若く美人な看護師。愛想はないが、露出の高い服装をしているので男性患者からは受けがいい。

大森 和雄(おおもり かずお)
38歳出版社勤務のサラリーマン。原因不明な体調不良が続き伊良部の精神科を受診する。

尚美(なおみ)
和雄の妻。夫の原因不明の体調不良を心配している。

イン・ザ・プール の簡単なあらすじ

大森和雄、38歳、出版社勤務。ここ一月の間、原因不明の呼吸困難や下痢に襲われ、病院で検査するも異常は見つからず途方に暮れていたところ、神経科を勧められます。気乗りしないものの、試しに受診した「伊良部総合病院 神経科」で、変人医師・伊良部と対面します。清潔感のない見た目と馴れ馴れしい伊良部に戸惑う和雄でしたが、美人看護師のマユミの太ももの誘惑もあり、通院することにします。

イン・ザ・プール の起承転結

【起】イン・ザ・プール のあらすじ①

変人精神科医・伊良部一郎

大森和雄、38歳、出版社勤務。

一月前、夜寝ているときに呼吸困難になり、それを皮切りに、急な下痢や内臓異常に見舞われています。

内科を受診するも原因不明で、連日通い詰め再検査を要請する和雄に、内科の若い医師は神経科を勧めます。

伊良部総合病院の地下にある神経科は人気がなく閑散としています。

気乗りしないまま扉を開けると、丸まる太った中年の医師が和雄を出迎えました。

髪にはふけが出て清潔感が微塵も感じられないその男は、「医学博士・伊良部一郎」というネームプレートを付けていました。

和雄の話に興味なさそうに耳を傾け、適当なアドバイスをする伊良部に、和雄は不信感を強めます。

ストレスからくる体調不良、つまるところ心身症の診断を受け、和雄は注射を打たれます。

通院を命じられ、いまいち納得できない和雄でしたが、注射を打つ際の看護師・マユミの白い太ももが脳裏に焼き付き、伊良部に言われるまま毎日病院に通うことになったのでした。

【承】イン・ザ・プール のあらすじ②

中年のハシカ

伊良部には微塵の信頼ももてなかった和雄でしたが、「中年のハシカ」と言う言葉には納得できました。

病気改善に運動をすすめられ、近頃まったく運動をしていなかった和雄は、水泳を始めることにします。

妻の尚美に電話をかけ、家の近所にあるプール施設を確認した和雄は仕事を早々に切り上げ、区民プールに足を運びます。

初めて行くそこは、温水で更衣室は清潔なうえ、ドライヤーも完備していました。

念入りにストレッチをしてプールに潜った和雄は、水の気持ちよさに驚きます。

ゆっくりと昔の泳ぎを思い出すように泳ぎ始めた和雄は、快感に酔いしれます。

二時間みっちり楽しみ、泳ぎ終えると幸福感に包まれていました。

翌日、伊良部に水泳を始めたことを報告した和雄。

伊良部も水泳なら有酸素運動なのでおすすめだと言ってくれます。

ただし、速く泳ぐ必要はなく、ゆっくり時間をかけて運動することが大事だとアドバイスされます。

病院を後にし、オフィスで仕事をしている間も水泳のことが頭から離れない和雄は、喫茶店で水泳についての本を読み漁ります。

正しいフォームを学んだら、実践で泳ぎたくてたまりません。

夕方からの仕事をパスし、和雄はまたプールに向かいます。

水に浸かると安堵感に包まれ、その日は五百キロのスイムに成功します。

達成感で胸いっぱいになり、次第に水泳にとりつかれていきます。

【転】イン・ザ・プール のあらすじ③

依存症

和雄はプールと病院通いが日課になっていました。

毎日泳ぐと体も心も軽くなります。

はまっている水泳の話を延々伊良部に聞かせるのも快感で、和雄のはしゃぎっぷりに、伊良部も水泳に興味を持ったようでした。

和雄が行きつけの区民プールの所在地を確認した伊良部は、和雄がお愛想で誘ったにもかかわらず、ひょっこり区民プールにあらわれます。

肥満体形のうえに、蛍光イエローのトランクスを履いている伊良部にどうつっこみを入れていいのかわからず、戸惑う和雄でしたが、プールを前にすると、伊良部の変人ぶりもどうでも良くなります。

いつものように二時間みっちり泳ぐ和雄に、伊良部はじめ周囲の人が尊敬のまなざしを向けます。

気分を良くし、伊良部のコーチ役を引き受け熱血指導まで始めます。

不格好ながら、泳ぐことに目覚めた伊良部。

和雄と伊良部は、医師と患者の枠を飛び越え、水泳仲間になっていきます。

毎朝、出社前にひと泳ぎしてから仕事場に向かい、休日は豊島園の流れるプールを泳いだり、和雄にとって水泳は生活の一部になっていました。

水泳に心酔する夫を尚美は心配していました。

【結】イン・ザ・プール のあらすじ④

禁断症状

和雄は水泳を始めてから変わっていきました。

何事も効率化して、浮いた時間を水泳に当てたいと考えるようになります。

無駄な打ち合わせを省き、メールで済ませられるものは会わずに済ませられるようにし、無駄なおしゃべりにも加わらなくなりました。

出社前に泳いできてはいるものの、残業を回避することで夜も泳ぐことに決めます。

さすがに一日二回も泳ぐのは中毒なのではないかと少し不安になりましたが、伊良部は朝も夜も泳いでいることを知り、仲間がいる心強さに和雄はさらに水泳に熱中していきます。

しかし、そんな中、雑誌の校了で三日間会社に缶詰め状態になり、泳ぐことができない日が続きました。

イライラしたかと思えばパニックになったりと情緒不安定になった和雄は、伊良部のもとへ走ります。

症状を訴える和雄に、伊良部はこともなげに『それは禁断症状だ』と告げます。

そして泳げばすぐ治まるから大丈夫だと話します。

夜の区民プールに忍び込み、監視員不在のプールで心行くまで泳ぎ続けようと誘われて、一旦は拒否したもの、気が付いたら伊良部と夜のプールに忍びこむことを企てていました。

伊良部が小さな窓から侵入しようとしますが、大きなお尻がつっかえ前にも後ろにも身動きとれなくなってしまいます。

そこへ運悪くパトカーが近づくサイレンが聞こえ慌てる二人。

和雄は近くにあったクレンザーを伊良部のお尻にふりかけ滑りを良くし、なんとか伊良部を救出します。

難を逃れた和雄は、くたくたになり帰宅し、心配していた尚美にさっき起きた事の顛末を話します。

尚美は水泳依存症の夫を心配し、いざとなったら会社を辞めさせようとまで考えていました。

久しぶりに夫婦の時間を楽しんだ和雄は、水泳以外の有酸素運動についてすけべな妄想をしていました。

イン・ザ・プール を読んだ読書感想

精神病に罹った患者と、変人医師・伊良部との交流を描いた『イン・ザ・プール』は、表題作の他、陰茎強直症で悩むサラリーマンや、売れないモデルの被害妄想、携帯依存症の高校生男子に、強迫神経症のルポライターが登場する短編集です。

精神病というデリケートをテーマにしていながら、登場する伊良部の変人・変態ぶりに注目してしまう本作。

コミカルで読みやすく、最後は救われる患者たちの姿に元気をもらえる一冊です。

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