「男の愛 たびだちの詩」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|町田康

「男の愛 たびだちの詩」

著者:町田康 2021年12月に左右社から出版

男の愛 たびだちの詩の主要登場人物

山本長五郎(やまもとちょうごろう)
主人公。体が大きくケンカが強い。「清水の次郎長」として令和の時代にまでその名を残す。

雲不見三右衛門(くもみずさんえもん)
長五郎の父。荒れた天候でも船を出して素早く稼ぐ。

山本次郎八(やまもとじろはち)
長五郎の養父。働き者で実直な米穀商。

直(なお)
次郎八の妻。美人で派手に着飾るのが好き。

福太郎(ふくたろう)
長五郎の幼なじみ。物静かでおっとりとしている。

男の愛 たびだちの詩 の簡単なあらすじ

駿河国の船主・雲不見三右衛門の三子として出世した長五郎は、米問屋の養子に出されますが問題ばかり起こしています。

長五郎にとって1番にショックだったのは義理の母親に出奔されたことではなく、ひそかに思いを寄せていた福太郎に裏切られたことです。

表家業からドロップアウトした後は「清水港の次郎長」と名乗り、海道一の大親分を目指すのでした。

男の愛 たびだちの詩 の起承転結

【起】男の愛 たびだちの詩 のあらすじ①

順風満帆な一家に風雲児が現れる

東海道から駿河路に入ると多くの名所・古跡が立ち並んでいて、諸国の物資を積んだ千石船が出たり入ったりしていました。

清水港に住居を構える雲不見三右衛門は船を所有するだけでなく、自ら荒波に乗り出して現地に買い付けにいっています。

投機的な商いが成功して有数の富家となった三右衛門が、3人目の子どもを授かったのは文政3年(1820年)の1月1日。

三右衛門がすぐに我が子を義理の弟・山本次郎八に預けたのは、元日に生まれた子は極悪人になるという言い伝えが当時は流行していたためです。

米問屋「甲田屋」を順調に切り盛りする次郎八はプライベートでも直という年下の女性と結婚していましたが、子宝には恵まれていません。

ゆくゆくは長五郎に家業を任せようかと考えていましたが、7〜8歳くらいに育つにつれてその算段から大きく外れていきました。

とにかく腕っぷしが自慢で誰でも構わずに殴り付けているために、近隣住民たちはその姿を見るだけで逃げ出していきます。

【承】男の愛 たびだちの詩 のあらすじ②

初恋の少年と憎っき継母

米屋の次郎八のところの長五郎、次郎八の長五郎、次郎八長五、次郎長… 周囲の大人たちや家の者にまで「次郎長」と恐れられるになった長五郎でしたが、なんとなく好きで仲良くなりたい相手がいました。

親同士が同業者で同じ手習い所で学んでいる男の子、福太郎は大変にかわいらしい顔をしています。

長五郎の心の奥底に早い段階で女性不信の気持ちが芽生えていたのは、夫のいる前では調子のいいことばかり口にしている直が原因です。

裏では出入りの若い男とベタベタしたりもしていますが、仕事ひと筋の次郎八は気がついていません。

ただただ粗暴だった長五郎も読み書き・そろばんを習い始めると、甲田屋の2代目としての風格が出てきました。

帳簿に記載された金額が不必要に多いことや、取引に必要なはずの現金がなくなっていることにも気が付きます。

何とか直の化けの皮をはいでやろうという長五郎、長五郎を追い出して好き勝手に散財したい直。

両者の仲が険悪になっていくにつれて次郎八は日に日に弱っていき、あっさりと息を引き取ったのは天保6年(1836年)のことです。

【転】男の愛 たびだちの詩 のあらすじ③

短く太く刹那的に生きる

盛大なお葬式を執り行ってから長五郎は甲田屋の発展に力を入れますが、直が横から口を出してくるためにうまくいきません。

使用人に見当違いの指示を出しては損害を与えていましたが、本人は存在感を示そうとやっているのでしょう。

そんなある日のこと長五郎を訪ねてきたのは福太郎、悪い友だちに誘われてばくちで大負けをしてしまったのこと。

すっかり身を持ち崩した様子の彼のために、食事をごちそうした上に借金まで立て替えてあげました。

その年の暮れに直はお店の金を洗いざらい持ち出して、ひそかに通じていた福太郎と一緒に駆け落ちしてしまいます。

福太郎を深く愛していたこと、男が男にほれるとこんなに厄介だったこと。

さらに決定的だったのは旅の僧侶に、多くの人の上に立つが25歳までしか寿命がないと診断されたことです。

残りの人生を楽しむためには世間の常識を無視して飲みたいだけ酒を飲み、暴れたいだけ暴れるしかありません。

賭博場に出入りしているうちに金銭トラブルから相手を斬り付けてしまったために、戸籍から自分の名前を消して財産を姉夫婦に譲ります。

【結】男の愛 たびだちの詩 のあらすじ④

頭の中に描いた大きな夢

奉行所や代官所にまで手配書が回っているために、いよいよ引き返すことはできません。

西へ東へ気の向くままに旅を続ける長五郎は、行く先々でその土地の親分の目に止まって一宿一飯のもてなしを受けていました。

東海道を南にそれると吉良、途中で西尾に立ち寄って20町(2キロ)ばかり行くと寺津… 寺津には治助という大勢の子分を抱える顔役がいましたが、もともとは甲田屋時代の長五郎に面倒を見てもらっていた遊び人です。

その時の恩義を忘れていないという治助と兄弟の杯を交わし、少しの間この地に腰を落ち着けているうちにすっかり貫禄がついてきます。

久しぶりに畳の上で休むことができた長五郎、昼間からウトウトとしていると空から落ちてくるのは美しい花びら、右から左に疾走してくるのはキラキラと光るだんじり。

この白昼夢が何を意味するものなのかは分かりませんが、幸運が転がり込んでいることだけは確かでしょう。

目を覚ました長五郎はもっともっと名前を売って、日本一の侠客になるために勢いよく寝床から立ち上がるのでした。

男の愛 たびだちの詩 を読んだ読書感想

清水の次郎長と言えば講談や時代小説、往年の映画などで1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

史実に基づきながらも自由に想像力を膨らませつつ、時にはユーモラスな脚色までされていて斬新です。

山本長五郎という平凡な響きの一般市民が、いかにして後世にまで武勇伝を打ち立てていったのかが伝わってきます。

生まれてすぐに実の父親から縁を切られて、血のつながらない親戚のもとで育てられたという逸話も意外ですね。

武骨な見た目と破天荒なエピソードとは裏腹に、BLのようなロマンスまで用意されているとは予測できませんでした。

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