「呪文」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|星野智幸

呪文 単行本 – 2015/9/11 星野 智幸

著者:星野智幸 2015年9月に河出書房新社から出版

呪文の主要登場人物

霧生(きりゅう)
主人公。メキシコで修行した後でサンドイッチスタンドを開店する。料理は得意だが商才はない。

図領幸吉(ずりょうこうきち)
居酒屋の店主で商店街の組合事務長も任される。野心的な改革派。

宮門常安(みやかどつねやす)
妻を亡くしてひとりでクリーニング屋を切り盛りする。昔ながらの商店街を愛する。

佐熊竜輝(さくまたつき)
携帯電話の販売店に勤務。職場でのストレスをブログで晴らす。

栗木田康介(くりきだこうすけ)
図領の店の常連。人との関係を築くのが苦手で職を転々とする。

呪文 の簡単なあらすじ

トルタサンドイッチのお店を始めたものの客入りが伸びずに苦戦していた霧生に、次々と斬新なアイデアを提供してくれたのが組合長の図領幸吉です。

図領は商店街全体の組織改革に乗り出しますが、彼が募った有志のグループが次第に暴走していきます。

経営に苦しんでいた霧生は古参の鍼きゅう師に店ごと買い取ってもらい、図領たちと戦うことを決意するのでした。

呪文 の起承転結

【起】呪文 のあらすじ①

シャッター商店街に迷い込む悪意に満ちたクレーマー

霧生が松保商店街に来てから半年しかたっていませんが、すでに9軒のお店が夜逃げしたり閉店したりしていました。

自家製パンにメキシコ産の酢漬けを挟んだトルタの店「プミータ」を経営する霧生も、資金繰りが苦しいために組合の商店街で事務長を務めている図領幸吉に相談をしに行きます。

ふたりが待ち合わせ場所に選んだのは、沿道を外れて住宅街の路地に入り込んだ先にある隠れ家のようなエスニック料理屋です。

商店組合に非営利の融資部門を設置することを計画しているようでしたが、お金を借りた場合は図領の意向に沿った営業をしなければなりません。

リスクを覚悟して思いっきりやると熱く語る図領の目を見て、霧生は不吉な予感を感じてしまいました。

図領自身も商店街の真ん中に居酒屋「麦ばたけ」を開いていましたが、ふらりと立ち寄ったサラリーマンの佐熊竜輝と警察沙汰を起こしています。

ネット上では「ディスラー総統」という偽名で風評をまき散らしている佐熊のせいで、複数の店舗の売り上げに影響が出ているほどです。

クリーニング店「エレガンス」の宮門常安は商店組合の副理事長でもあり、理事長の娘と結婚して発言力を増した図領のことが気に入りません。

【承】呪文 のあらすじ②

神対応で商売繁盛

松保商店街によそ者が入り込んで営業妨害をしていないか、図領は無職やフリーターの若者たちと「松保未来系」を結成してパトロールを始めました。

佐熊との一連のやり取りをホームページで公開すると反響は大きく、定休の火曜日をまたいだ翌日には麦ばたけに行列ができています。

入店を断わらざるを得ないほどの大盛況で、霧生もプミータの前にイートインスペースを置かないと対応しきれません。

4月最後の土曜日に入ると商店街は人であふれ返って、昼過ぎから臨時に歩行者天国となった大通りには屋台が立ち並び大道芸のパフォーマーまで現れるほどです。

午後10時になると宮門が愛想笑いを浮かべながら麦ばたけに顔を出したために、組合改革のための障害はほぼ取り除かれました。

ゴールデンウィークだけでひと月分の売り上げをカバーした霧生でしたが、それ以来頻繁に図領のイベントを手伝わなければなりません。

自分の店を臨時休業してまで協力していることが不満な霧生は、図領やその取り巻きたちと少しずつ距離を置いていきます。

【転】呪文 のあらすじ③

昔かたぎの組合を一気に塗り替える

店舗の貸し借りや売買を事前に申告する「店舗保存の法則」、小売店が廃業する際には組合の推薦で後継者を決める「未来人制度」、超低金利の融資を指南付きで受ける「無尽。」

5月の終わりに宮門が副理事を退任して介護付きのマンションに引っ越してから、図領は規約の大幅な改正をしました。

立ちのきに反対したり不動産業者に土地と建物を売り渡そうとする「失格住人」には、未来系の隊員たちが押し掛けてきます。

ゲリラ豪雨の被害にあった霧生はコンクリートの打ち直しや配管の交換をするために、1週間ほど店を休まなければなりません。

見舞い金として10万円の入った封筒を届けた上に、店内の清掃や改修まで手を貸してくれたのが未来系のリーダー・栗木田康介です。

麦ばたけがオープンした頃からの常連でリフォームを請け負う大手企業に就職していましたが、上司と険悪になったために解雇されてしまいました。

埼玉県の実家を飛び出して松保に移り住みましたが、単発のアルバイトをする他はこれといって働いていなかったところを図領に拾われたそうです。

世の中を変えるためには命をささげる必要があると声を張り上げる栗木田に、霧生は図領と似た危うさを察知します。

【結】呪文 のあらすじ④

呪文を解くため未来に投資

霧生は未来系に呼び出されては失格住人候補を尾行したり、自宅に張り込んで写真や動画を撮ったりさせられていました。

図領からの10万円をその場しのぎのための資金として使い果たした負い目もあり、返せる当てもありません。

逆らった途端に組合員もよそよそしくなり、霧生が「失格」の認定を押されるのも時間の問題でしょう。

日曜日の開店時刻の数分前にお隣で「ゆきた鍼灸院」をやっている湯北が、商店組合の了承も得ずにこの店を買収したとプミータに入ってきます。

毎日のようにトルタを食べてファンになったそうで、借金を立て替えてくれために当面の運転資金は心配はいりません。

未来系のメンバーたちの洗脳を解く活動に携わっていた湯北によると、一部の過激派が歩行者天国で今日の午後2時に集団自決を決行するそうです。

商店街だけでなくこの国全体に呪いが広がらないためにも、図領たちから松保の将来を救ってほしいと頼まれます。

デジタル時計が「14:00」を示した瞬間に表通りからは怒号や泣き叫ぶ声が上がりますが、霧生は湯北の言葉に静かにうなずくのでした。

呪文 を読んだ読書感想

トウモロコシの粉で作ったパンにハラペーニョを挟んでチリソースで仕上げる、主人公・霧生のトルタがおいしそうでした。

せっかくの自慢の一品も閑古鳥が鳴く商店街では、受けが悪いのがもったいないです。

そんなジレンマを抱えている霧生に言葉たくみにささやきながら救いの手を差し伸べる、図領幸吉の得たいの知れないカリスマ性に圧倒されます。

社会に適応できずに片隅でくすぶっていた青年たちの心を、あっという間に掌握してしまうのも不気味です。

日本のどこかにある松保のような寂れた商店街に、図領を思わせる怪人物が現れないことを祈るしかありません。

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