東野圭吾「手紙」のあらすじ&ネタバレと結末

手紙

【ネタバレ有り】手紙のあらすじを起承転結で解説!

著者:東野圭吾 2006年10月に株式会社文藝春秋から出版

手紙の簡単なあらすじ

剛志は弟直貴と二人で暮らしだ。弟の大学進学費用を稼ぐため、剛志は資産家の家に強盗に入り家人を殺害してしまう。

兄が殺人犯として逮捕された直貴は、世間の差別の目に晒されていた。獄中の剛志からは毎月手紙が送られて来る。働きながら直貴は、通信制の大学で勉強できるようになり、間もなく全日制に移れることになるが、バンド活動でも恋愛でも、殺人犯の弟というレッテルに悩まされ、すべてを諦めるしかなくなっていた。

大学を卒業した直貴は家電量販店に就職する。兄のことを隠し、兄を疎むようになっていた。ある日職場で窃盗事件が起きる。それをきっかけに剛志の悪事が知れ渡り、直貴は左遷されてしまう。

直貴は兄に教えずに転居するが、友人の由美子が弟を装い手紙のやり取りを取り続けていた。直貴は由美子に憤慨するが、実は由美子も家庭の事情を抱えていた。

直貴は由美子と結婚し、一児をもうける。社宅で平穏に暮らすが、またしても剛志のことが拡散する。そんな中、幼い娘と由美子を乗せた自転車がひったくりに遭った。犯人の両親が謝罪に訪れたことを機に、直貴は犯罪加害者家族の在り方を考える。

直貴は意を決し、自分のために犯罪者となった兄に絶縁の手紙を書いた。家族を守るためだ。そして直貴は、被害者の家族の元を訪ねる。剛志は被害者家族にも毎月手紙を出し続けていた。そして、最後の手紙で、直貴からの絶縁状を受け、自分の存在が苦痛を与えるとも気付かず直貴にも被害者家族にも手紙を出し続け、申し訳なかったと書いていた。

直貴は昔のバンド仲間と刑務所の慰問に訪れる。そこで兄の姿を目にし、直貴は胸を詰まらせるのだった。

手紙の起承転結

【起】手紙のあらすじ①

弟の学費のための殺人

剛志は、父母を亡くし弟直貴と二人で暮らしていた。

優秀な弟の大学進学費用を稼ぐため、運送業で働く剛志は、ある夜、搬入で訪れたことのある高齢女性の一人暮らしを狙い、強盗に入る。女性と鉢合わせた剛志は反射的に彼女を殺してしまった。剛志はその場を逃げ出し、警官に逮捕される。

【承】手紙のあらすじ②

殺人犯の弟故の苦難

直貴の元には毎月のように服役中の剛志からの手紙が届く。そして、被害者の墓前に謝罪に行くよう頼んできた。しかし犯罪加害者の家族となった直貴の心に余裕はなく、必死で生活していた。

高校を卒業後、工場に勤務していた直貴は働きながら通信制大学に入学する。しかし、どこに行っても殺人犯の弟として冷遇された。バンド活動を始め、メジャーデビューの話も出たが、直貴は剛志の存在がネックとなり、バンドを辞めざるを得なくなる。直貴の人間不信には拍車がかかっていた。兄のことを世間に隠し、兄からの手紙も無視するようになっていく。

直貴は、アルバイトで生計を立て、通信制から全日制の大学に転学する。そこで朝美という女性と親しくなり交際を始める。直貴は心底朝美を愛するが、朝美の親族の反対に合う。資産家である朝美の親と親族は、剛志のことを調べ上げていた。すべてを諦める癖がついている直貴は、友人である由美子の手を借り、朝美との縁を切る。

大学卒業を控え就職活動をする直貴は、「兄はアメリカに音楽系の仕事に出ている」と嘘をついていた。転居し、剛志に新しい住所を伝えることもなくなっている。しかし、剛志は直貴の高校時代の恩師と連絡を取り、転居先を調べて手紙を送って来ていた。自分の人生のために剛志との絶縁を欲しながらも、直貴は兄が犯罪を犯した理由を前に二の足を踏んでいた。

直貴が就職した家電量販店で窃盗事件が起きた。それを機に剛志のことが会社に知られてしまう。左遷された直貴に、社長が声をかけに来る。社長とのやり取りの中で、直貴は自分の生き方について考えるのだった。

由美子が直貴を装って剛志と手紙のやり取りをしていたと知る。剛志の手紙には出所についての希望が書かれていた。憤慨する直貴だが、由美子は「二人きりの兄弟だから」とやり取りを続ける。由美子もまた父の自己破産で親族から疎まれて育っていた。

【転】手紙のあらすじ③

被害者家族の立場になって

直貴は由美子と結婚し、長女をもうけていた。社宅での平和な生活だったが、剛志のことを知る先輩が越して来る。「間もなく剛志が出所し、直貴の家に転がり込む」という噂が流れ、幼い長女が公園で無視されたり保育園で嫌がらせを受けたりするようになるが、直貴と由美子は転居したりせず堂々と生きていこうと決めていた。

長女と由美子を乗せた自転車がひったくりに遭って転倒した。長女は昏倒し、額に傷が残ることになってしまう。憤慨する直貴だが、家に加害者の親が謝罪に来たのをきっかけに、犯罪と向き合う姿勢を考える。社長との会話を思い出し、開き直って生きていくのではなく、もっと厳しく考えなくてはならないと認識する。直貴は兄と絶縁し会社を替え、家族を守ろうと決意した。

【結】手紙のあらすじ④

兄の犯罪と向き合う

直貴は兄が殺した女性の家族の元を訪ねた。そこで、兄が毎月送り続けてきた手紙の束を見せられる。剛志は、被害者家族に宛てる手紙の中で毎回、直貴の近況に触れていた。遺族はそののんきな手紙に苛立ち、完全に無視することにしていたが、剛志からの最後の手紙を見て、区切りをつけようとしていた。直貴はその手紙を見せられショックを受ける。

剛志の手紙には、弟から絶縁を希望する手紙が来たこと、それを見て剛志は、自分の存在がどれほど直貴を苦しめていたか知ったことが書かれていた。そして、被害者家族への手紙も同様で、犯人の自己満足に過ぎず迷惑をかけ苦しめ続けてきただろうことを謝罪していた。直貴は何度も何度もその手紙を読み直す。

直貴は、昔のバンド仲間に誘われ、刑務所の慰問に訪れる。その観客の中には剛志もいた。俯き震えながら直貴を拝む剛志に気付いた直貴は、喉がつかえて歌い出すことができずにいた。

手紙を読んだ読書感想

犯罪加害者家族の日常を大きな救済のないまま淡々と描いた作品です。特に、勤務先の社長が直貴に言う「我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになる。すべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね」という言葉が、加害者家族の苦悩を余すところなく描きながらも、その差別的現状を否定せずに表現する今作の根底にある考え方なのだと感じました。

タイトルの「手紙」は兄弟の心の中を如実に表すアイテムです。書かれている内容はもちろん、読みたくないという直貴の態度にも、気持ちが表れていました。頻繁に登場する剛志の手紙には漢字が少なく、学力の兄弟格差を感じさせます。しかし剛志は不器用ながらも、本当に弟を大切に想っているのだと伝わってくる手紙です。一方直貴の書いた手紙は知性を感じさせますが他人行儀です。善良に生きていたのに社会から爪弾きにされる直貴が兄を恨むようになるのは当然の成り行きであり、それがまた社長の発言とリンクします。自分本位の犯罪者より、辛い思いをするのはその家族なのだということが丁寧に描かれていました。いくら弟のための殺人と言い張ったところで、短絡的な犯行は身勝手でしかないのです。

「犯罪は悪いことである。しかし、犯罪者だけでなく加害者家族までもが社会的に断罪され苦悩する」という事実は近年多くのメディアでも伝えられ、支援のNPOも設立されています。しかし実際、加害者家族は社会的制裁を前に直貴のように苦労しているのでしょう。物語のように勧善懲悪で終われれば簡単なのでしょうが、現実はもっと複雑で、割り切れないものなのだと教えてくれる作品でした。

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