著者:湊かなえ 2019年9月に角川春樹事務所から出版
落日の主要登場人物
長谷部香(はせべかおり)新生映画監督。故郷で起こった事件「笹塚町一家殺人事件」の映画を撮りたいと思っている。甲斐真尋(かいまひろ)若手脚本家。大畠凛子先生を師とし事務所で勤務する。ペンネーム甲斐千尋。立石力輝斗(たていしりきと)沙良の兄。「笹塚町一家殺人事件」の犯人で刑務所にいる。立石沙良(たていしさら)力輝斗の妹。事件の被害者。甲斐千穂(かいちほ)真尋の姉でピアニスト。すでに亡くなっている。
落日 の簡単なあらすじ
かつて住んでいた町で起こった「笹塚町一家殺人事件」の真実を映画にすることを考えている映画監督の香と事件を知る脚本家の真尋が出会います。
事件への思いの温度差を知る2人でしたが、真尋は映画の脚本を作りたいと強く思うようになります。
真実を求めるうちに自分の過去にも向き合おうとする真尋でした。
それはずっと昔に亡くなった姉の存在でした。
事件を調べていくうちに、自分の姉と事件との関係が明らかになり、すべての点と点が線でつながっていきます。
真実を知ることにより、また2人はそれぞれの道、未来へと歩き出します。
落日 の起承転結
【起】落日 のあらすじ①
長谷部香は非常に厳しい母に育てられました。
幼稚園の頃から、学習ドリルを解くように言われ、10問中3問間違えると、反省としてマンションのベランダに出されました。
出される時間はちょうど1時間でしたが、香にとってつらいものでした。
ある日のことベランダで窓を背にして座っていると隣の仕切り板の下から、小さい手が出ているのを発見します。
自分と同じように隣の子もベランダに出されているのかなと思うと心強くなりました。
どんな子なのだろうとトントンと板をたたいてみました。
相手はびっくりしたようでしたが、次第に2人は心を交わし、タップで気持ちを伝えあうようになったのです。
顔も知らない隣の子が気になる香ですが、買い物先で親子と出会い、挨拶を交わします。
その子の名前は立石沙良といい、とてもかわいい顔立ちの女の子でした。
香は沙良ともっと仲良しになりたいと願いました。
しかし映画を見に行くと言って出かけた父親が自殺で亡くなり、香は母の実家へ引越しします。
その後15歳まで沙良を思い出すことはありませんでしたが、18歳の時沙良は殺された事実を知って、あの頃を思い出したのです。
【承】落日 のあらすじ②
甲斐真尋30歳、脚本家ペンネーム甲斐千尋として大畠凛子先生のもとで働いてしました。
ある日、話題の新生映画監督である長谷部香から会いたいと連絡がありました。
脚本家としてまだ新人の自分に、なぜ監督から連絡があったのか不思議に思う真尋でした。
実際に会って話をすると、姉の甲斐千穂と間違えられていたことが発覚し、がっかりします。
香と千穂は笹塚町で同じ幼稚園に通っていました。
香は幼稚園のころにいたマンションを引っ越していましたが、あの頃に起こった「笹塚町一家殺人事件」についての映画を撮りたいと考えているのでした。
兄の立石力輝斗が妹の沙良を刺し殺したあと、部屋に火をつけて両親ともに殺害した事件でした。
香は真尋に当時の事件のことを詳しく教えてほしいと頼みますが、お互いの事件に対する思いの温度差は違うものでした。
映画を撮影しても当時の事件の事を知りたいと思う人は少ないのではないかという真尋の言葉に、がっかりする香でした。
【転】落日 のあらすじ③
その後、真尋は法事のために久しぶりに笹塚町に帰ります。
そこで従妹の正隆と話す機会がありました。
香と会ったことを話すと、当時の沙良にことをよく知っている同級生のイツカを紹介されます。
イツカはかつて沙良と友人関係であったが、沙良の虚言癖を見抜くことができず、足のケガによる後遺症を負ってしまったことを話しました。
イツカの話を聞いた真尋は、事件について話をするために香ともう一度会って話をしました。
そして、かつて香と沙良がベランダ過ごした事実を知るのでした。
事件のことを調べていくうちに、兄の力輝斗は影が薄く、両親は沙良ばかり連れていたことが分かります。
そして隣のベランダの子は実は沙良ではなく、兄の力輝斗だったのではないかと思い始めます。
その事を香に伝えますが、なかなか信じようとしません。
真実をつきとめるうちに、真尋は自分の問題にも目を向けるようになりました。
真尋の姉千穂はピアニストを目指していましたが、高校生の時に交通事故で亡くなっています。
しかし姉はピアニストとして世界中を飛び回っているとして生きてきました。
死んだ千穂に向き合おうと、お墓参りをします。
そして事故からそのままになっている部屋に入ります。
【結】落日 のあらすじ④
真尋は千穂の日記を見つけます。
そしてかつて姉はピアノの事で悩んでいたこと、好きな男性がいたことを知ります。
この男性こそ立石力輝斗でした。
事件で言われているイメージとは全く違って、悩んでいる千穂を元気付けてくれた優しい少年だったのです。
また二人でやりとりした手紙の束も見つかりました。
また姉と沙良は高校の同級生であると分かりました。
そこで初めて、姉と「笹塚町一家殺人事件」と関わり合いがあるのではないかと考えます。
真尋はこの事実をふまえ、事件の物語を書きます。
沙良は昔から兄の整った顔に対して自分をみじめに思っており、意地悪してやろうと千穂に偽りのメールを送って呼び出しました。
それがもとで千穂は交通事故に合い亡くなっていたのです。
そしてクリスマスの夜、アイドルのオーディション落選も兄のせいだと詰め寄ります。
しかし力輝斗の冷静な対応に腹が立った沙良は、自分が千穂を殺したと得意な嘘に真実を混ぜて兄に話しました。
激高した力輝斗は沙良刺し殺して、家に火をつけたのです。
このように香や真尋がつきとめようとした真実は、「笹塚町一家殺人事件」は姉千穂の物語でもあったのです。
落日 を読んだ読書感想
湊かなえさんの作品はいつも引き込まれます。
教育、いじめ、格差など現代の社会問題もふんだんに込められています。
そして、それぞれの事件と事実が結びついて、大きな真実へとつながっていくスケールの大きさを感じました。
読み進めていくと、それぞれの場面がすっと頭に浮かんできて、まるでドラマのよう。
「落日」は映画化されるような気がします。
タイトルの「落日」はすべての登場人物にあてはまると思いました。
つらい過去を抱えた香、脚本家として伸び悩む真尋、殺されてしまった沙良、加害者の力輝斗斗。
でも落日があれば日も昇る。
真実を知ったあとまた新しい未来が始まることを感じさせる物語でした。
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