「火のないところに煙は」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|芦沢央

「火のないところに煙は」

【ネタバレ有り】火のないところに煙は のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:芦沢央 2018年6月に新潮社から出版

火のないところに煙はの主要登場人物

芦沢央(あしざわよう)
本作の主人公。作品全体が「私」視点で書かれており、名前は出てきません。しかし、明らかに作者=「私」と判断できる記載があるので、芦沢央さん本人と分かります。元々は出版社でビジネス書の編集者として働いていたが、作家に転身しています。オカルト系、ホラー系が専門ではないのですが、ある時「怪談」の執筆依頼が来たことから、過去の封印していた記憶を掘り起こし、なんとか解決しようと考えるが…

榊桔平(さかききっぺい)
主人公が編集者時代から付き合いのある、オカルトライター。携帯やパソコンを持たずに遠方へ取材に出ることも多く、連絡がとれなくなることもしばしば。おかるとや怪奇現象に詳しく、主人公の良き相談相手。

鍵和田君子(かぎわだきみこ)
フリーライター。主人公が怪異解決のために怪談ネタを集めていたことから、自らの体験をネタとして語ってくれる。

火のないところに煙は の簡単なあらすじ

『許されようとは思いません』の再校ゲラを出し終えた私の元に「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」という依頼が来ます。怪談など書いたことが無かったので断ろうとするものの、過去に神楽坂を舞台とした凄惨な経験を振り返ることとなる。封印し、逃げ続けてきた記憶、救えなかった友人について再度正面から向き合うことを決め、執筆依頼を受けると共に情報を集め出す。集まった話の中から執筆を進めていくが、最後のまとめ作業をおこなっているときにそれぞれの話の繋がりに気づいてしまい…

火のないところに煙は の起承転結

【起】火のないところに煙は のあらすじ①

染み

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」という依頼が主人公の私の元に来ましたが、ホラーやオカルトは書いたことがなく、何かの間違いではないかと思い断ろうとします。

しかし、神楽坂で怪談というと実は思い当たる経験があり、封印していた封筒を出してくると共に、再度過去の経験と向き合うことを決め、執筆依頼を受けることにする。

「染み」は第一話のタイトルであり、8年前の私自身が関わった事件について小説風にまとめたものとなっています。

私は大学時代の友人である瀬戸早樹子から、編集者としての伝を使ってオカルトライターの榊さんにお祓いに詳しい人を紹介してもらえないかと頼まれます。

まずは詳しい話を聞くべく、早樹子の高校時代の友人角田さんと会います。

角田さんは付き合っていた彼氏とある占い師の元を訪れたことがきっかけで別れることにしましたが、別れた後に彼氏が変死を遂げ、その後から自分の担当している広告におかしなことが起こり始めます。

そのおかしなこととは、印刷した広告に何故か染みが付いているというもの。

それも、無視できるような大きさではないし、印刷会社で印刷した際には付いていないし、いつ誰が付けたのかが全くわからない。

そして、ある時角田さんが染みをよく見てみると、それはただの染みではなく、ある文字が集まって染みのように見えているということに気づきます。

その文字とは、「あやまれ。」

角田さんは彼氏に謝れという意味だと理解したものの、実は彼氏から角田さんへのメッセージであり、占い師に謝って許してもらえという意味でした。

しかし、それが分かったところで、角田さんも変死してしまいます。

さらに怪異は続き…という話を書くと共に、読者からこの話に似たような話を聞いたことがないか集めることで、怪異の解決を目指そうとしていきます。

【承】火のないところに煙は のあらすじ②

お祓いを頼む女と妄言

「お祓いを頼む女」は2話目、「妄言」は3話目のタイトル。

まず、「お祓いを頼む女」は、私が「染み」を発表してから3ヶ月後、先輩フリーライターの鍵和田君子さんから電話があり、さらに情報を集めるために怪談を書いてはどうかと勧められます。

君子さんが10年近く前に体験した怪異を話し始めます。

君子さんは当時から、フリーライターとして幅広く記事を書いていましたが、何故かオカルト記事を読んだという読者から電話がかかってきます。

相手はあまり君子さんの話を聞いてくれず、一方的に自分は祟られているから先生にお祓いをお願いしたい、今からでもそちらに行くからお祓いをお願いしますと行ってきます。

さすがに冗談かイタズラだろうと思って締切の近い仕事に取り組むが、数時間後に君子さんの職場に親子が訪れます。

その母親は先程の電話を掛けてきた相手であり、自分は祟られており、息子にまで被害が及びそうなのでなんとかして欲しいと頼んできます。

とりあえず話を聞いた後、君子さんは榊さんに電話で相談すると祟られているのではなく、息子さんが嘘をついていると判明し無事解決したかに思い親子は帰っていきます。

しかし、数日後、母親は変死してしまいます。

「妄言」は、榊さんから書く機会を失っていたネタがあると言われ聞いた話です。

塩谷さんという方が、妻と共に家探しをしていた所、中古ではあるものの築浅で自分達の望む条件を全て満たす良い家を紹介されます。

夫婦ともにとても気に入り、現地へ見学に行きますが、その際に隣人と出会います。

しかし、良い人に見える隣人ですが、少し気になるやり取りがあります。

多少気にかかりはしたものの、悪い人ではなさそうだし物件は良いので購入することにします。

しばらくして、塩谷さんの妻が妊娠した後から隣人がおかしなことを言い始め、やがてトラブルが大きくなっていき妻は心労がたたり流産してしまいます。

それでもおかしな発言を続ける隣人に対して怒りが頂点に達し、塩谷さんは隣人を殺めてしまいます。

【転】火のないところに煙は のあらすじ③

助けてって言ったのにと誰かの怪異

4話目の「助けてって言ったのに」は新潮社の編集者が仕入れてきた話です。

智世さんというネイルサロンで働く女性が遭遇している怪異についてで、彼女はフリーカメラマンの旦那さんとその母親の三人で暮らしています。

家族関係は良いのですが、旦那さんの実家で暮らし始めた頃からおかしな夢を見るようになったそうです。

それも、ただの悪夢ではなく、何度も同じ夢を見る、夢の中で夢だと分かっても起きることは出来ない、最後には火事になった家から逃げきれずに焼け死ぬがその痛みや苦しみが物凄くリアルで本当に辛いというものな上、元々は旦那さんのお母さんが同じ夢を見ていたというのです。

その夢は少しずつ段階が進んでいくそうで、最後には本当に死んでしまうのではないかというくらい苦しいということで、何か解決する手段はないものかと悩んでいます。

そこで、榊さんに依頼して拝み屋にお祓いをしてもらいます。

結果は家自体に問題があるので家と縁を切れば解決するはずと言われますが、家を売ろうと動いている途中で智世さんは死んでしまいます。

5話目の「誰かの怪異」は、大学生の岩永さんから聞いた話です。

岩永さんは古いアパートで一人暮らしを始めたのですが、ある時幽霊のようなものを見たり、排水溝に長い髪の毛がつまっていたりしたため、自分の部屋が事故物件ではないかと疑います。

確かに家賃は安く条件の良い部屋だったのですが、不動産会社に聞いてみても、アパート自体で昔亡くなった方はいても該当するような年代の女性はおらず岩永さんの部屋では死亡自体が全く無いとのことでした。

たまたま部屋に泊まりに来た友人にその怪異を話すと、除霊が出来るという友人を紹介してもらえることになります。

その除霊自体は失敗してしまうものの、私は榊さんに依頼して拝み屋による再除霊を行うとその原因は実は隣人にあったことが判明します。

問題は解決したかに思いますが、岩永さんの除霊をした友人が変死します。

【結】火のないところに煙は のあらすじ④

禁忌

最終話の「禁忌」では、これまでに集めた話を5話の短編集としてまとめているところで、実は5話の怪談に繋がりがあることが見えてきます。

発行する単行本の書評を榊さんに書いてもらうこととなり、5話全てのデータを確認してもらうと、榊さんからどの話にも亡くなった方に関係のあった人物がおり同じ人物なのではないかと示唆されます。

1話目の「染み」では、小花柄のチュニックを着たソバージュの中年女性占い師を怒らせてしまったことが原因で3人が亡くなっています。

2話目の「お祓いを頼む女」では、君子さんに相談に来る前にお祓いを相談した霊能者。

3話目の「妄言」では、塩谷さんの隣人が信奉していたシンドウさん。

4話目の「助けてって言ったのに」では智世さんと旦那さんの母親がたまたま占い師と同じ髪型をしていたことにより占い師を怨む怨霊が夢に出てきていた。

5話目の「誰かの怪異」では、岩永さんの除霊をした友人の友人というのが、信奉していた占い師。

これらのことから、小花柄のチュニックを着たソバージュの中年女性占い師がいわゆるホンモノの力を持っていて、その力を疑った人が全て死んでしまったのではないかと榊さんは判断し、出版は控えた方がいいのではないかとアドバイスされます。

しかし、榊さんは取材に出てしまったのか何かあったのかは分かりませんが、しばらく連絡が取れなくなり、出版のための入稿最終締切日を過ぎてしまいます。

最後は「考えすぎですべてが繋がってしまっているように見えるのは本当に単なる偶然だという可能性もある」と言って締められてしまいます。

火のないところに煙は を読んだ読書感想

各話とも、怪異の謎が解けてきてこういう事だったのかと納得したと思うと、実は解決してはおらず人がさらに死んでしまうという流れになっています。

1つ1つの話自体が完成度が高く怪談として面白く読めるのですが、全て集めて各話の繋がりを考えると実は全ての話に神楽坂の母と呼ばれる占い師が絡んでいたのではないかと分かります。

この占い師は何らかの力を持っており、人を呪い殺すことが出来るのではないかと考えられますが、主人公との直接の絡みはないですし今もどこかにいるのかどうかも分かりません。

この小説自体が作者の芦沢央さん視点で書かれており、実話のように感じられるので、この占い師が実在するんじゃないかと読者に思わせ、しかも怪異が実在するかしないか曖昧な感じで話が終わるため、読み終わったあとも怖さが残ります。

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