著者:原田マハ 2007年4月に宝島社から出版
一分間だけの主要登場人物
神谷藍(かみやあい)
ヒロイン。ファッション雑誌の編集者。新しい企画を思いつくのが得意。
津村浩介(つむらこうすけ)
藍の彼氏。フリーのコピーライター。才能はあるが出不精。
多川奈津美(たがわなつみ)
藍のアシスタント。明るく社内でも人気者。
北條恵子(ほうじょうけいこ)
藍の上司。やり手の編集長で仕事には厳しい。
西野友里(にしのゆり)
藍や浩介のペット仲間。専業主婦だが夫とはうまくいっていない。
一分間だけ の簡単なあらすじ
女性向けの雑誌「JoJo」で働いている神谷藍が取材先のペットショップで出会ったのは、殺処分にされそうになっていたゴールデンレトリバーです。
「リラ」と名付けて一緒に暮らすようになり、担当する紙面でも動物愛護や飼い主の責任を訴えていきます。
末期のガンに侵されてしまったリラを看取り、恋人とも別れた藍は新たな一歩を踏み出していくのでした。
一分間だけ の起承転結
【起】一分間だけ のあらすじ①
子供の頃からおしゃれが大好きだった神谷藍は、学生時代からアルバイトをしていた渋谷区にある中堅出版社・たから出版のファッション雑誌編集部に就職します。
アシスタントの多川奈津美は入社して2年目の編集部のムードメーカー、編集長の北條恵子はたった5年でJoJoを最先端のモード誌にのし上げた敏腕。
藍が編集者になって3年がたった頃、大手スーパーがオリジナルの婦人服の広告をJoJoに掲載することになりました。
キャッチコピーを考えたのが、大学生時代からコピーライター講座で次々と賞を取っていた津村浩介です。
まもなくふたりは恵比寿にあるワンルームマンションで暮らし始めますが、フリーランスの浩介とは違い藍はほとんど家にいません。
浩介と付き合って1年たった2月の朝、藍はセレブリティの御用達だというペットショップへ取材に行きました。
セレブの店とは言うもの、売れ残った犬や猫は保健所へ連れていかれて殺処分されてしまうのが現状です。
藍は引き取り手の見つからなかったメスのゴールデンレトリバーに、「リラ」と名付けて飼うことにしました。
【承】一分間だけ のあらすじ②
大型犬と一緒に住めて外で遊べる場所が近くにあって、なおかつ散歩の環境がいいところというと23区内ではなかなか見つかりません。
リラを優先にして引っ越し先を検討した結果、藍の勤め先からバスと電車を乗り換えて80分ほどかかる調布市の住宅街にある平屋に落ち着きました。
近所のドッグランではミニチュアダックスを飼っている西野友里と仲良くなり、藍と浩介は何度か彼女の家に招待されて料理をごちそうしてもらいます。
友里は夫の浮気が原因で間もなく離婚をして、小型犬を飼えるアパートを探しているようです。
何くれとなく友里のお悩み相談にのっているうちに、いつの間にか浩介は彼女のことを好きになってしまいました。
藍は朝早くに出勤して日付けが変わる頃に帰宅、フリーランスの浩介は日中はダイニングルームで仕事をしているかリラを連れて近所を散歩。
自然とふたりのすれ違いは多くなっていき、ついには浩介は出て行って藍とリラだけが残されます。
【転】一分間だけ のあらすじ③
ひとりでリラの身の回りの世話をするためには、藍はこれまでの生活パターンを根本的に変えなければなりません。
起床を午前5時半にして今までよりも時間をかけてリラとお散歩、早朝出勤して高速で仕事を片付けて何としてでも午後10までには帰宅。
編集部が校了前で3日3晩徹夜をして疲れが限界に達する時には、ドッグランの知り合いに紹介してもらったペットホテルに預けました。
JoJoで取り上げた有名ブランドのディナーに出席しなければならない時には、奈津美に自宅のカギを渡してリラの面倒をみてもらいます。
勤務時間中は時計ばかりを気にして心ここにあらずで、定時とともにそそくさと帰っていく藍を心配しているのは北條です。
かつては北條もチワワを飼っていましたが、ガンと告知されて3カ月間の闘病生活の末に亡くなっています。
近々来日する予定のハリウッドスターがチャリティーで動物愛護を訴えているために、セレブとペット問題を結び付けた特集をJoJoで組むことになりました。
【結】一分間だけ のあらすじ④
藍がリラの変調に気がついたのは、いつまでたっても梅雨が明けない7月の終わりごろのことです。
前脚が腫れていたために動物病院で診断してもらうと、すでに内蔵にできたガンがリンパ腺に転移していて手の打ちようがありません。
犬にしてみれば長いか短いかなんて問題じゃない、1年間でも1分間だけでも飼い主との時間は一緒。
獣医師の言葉を聞いた藍は、後悔のないように精いっぱいリラとの時間を過ごしました。
リラの最期の瞬間を看取ったのは藍ではなく、引っ越し先から調布の家に一時的に戻ってきた浩介です。
翌朝にはリラのなきがらは近くの動物霊園で火葬されて、白い布で包まれた小さな箱に入れられて戻ってきます。
藍は明日から世界各国のペット愛好家や愛護団体とのコンタクトが始まり、浩介は前から構想していた小説の執筆活動に励むつもりです。
ふたりはリラが大好きだったキンモクセイの立ち並んでいる散歩道で1分間だけ抱き合ったあと、それぞれの道へと歩いていくのでした。
一分間だけ を読んだ読書感想
調布の自宅を朝早くから飛び出して都心の出版社へと向かうヒロインの神谷藍、1日中家でお留守番して黙々と事務作業をこなす津村浩介。
世間では当たり前とされている男女の役割り分担が逆転した、若いカップルの共同生活の風景が無理なく自然なタッチで描かれていました。
そんなお気楽なふたりの間にある日突然に転がり込んでくる、フカフカな金色の毛皮に包まれたゴールデンレトリバーが愛くるしいです。
ペットのかわいさや癒やしばかりてはなく、いい加減な飼い主や売り上げ至上主義のペットビジネスについても光が当てられていて考えさせらました。
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