「デトロイト美術館の奇跡」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|原田マハ

「デトロイト美術館の奇跡」

著者:原田マハ 2016年9月に新潮社から出版

デトロイト美術館の奇跡の主要登場人物

フレッド・ウィル(ふれっど・うぃる)
主人公。デトロイト郊外のモーニングサイド出身。自動車会社で40年溶接工として働く。

ジェシカ・ウィル(じぇしか・うぃる)
フレッドの妻。パートタイマー。

ロバート・タナヒル(ろばーと・たなひる)
デトロイトの裕福な一族。 美術品の収集家。

ジェフリー・マクノイド(じぇふりー・まくのいど)
デトロイト美術館のキュレーター。ロバート・タナヒル・コレクションの担当者。

ダニエル・クーパー(だにえる・くーぱー)
裁判官。連邦地裁で数々の事案を解決してきた切れ者。

デトロイト美術館の奇跡 の簡単なあらすじ

デトロイト美術館のコレクションが売りに出される知ったフレッド・ウィルは、亡き妻が大好きだったポール・セザンヌの傑作「マダム・セザンヌ」を守るためにわずかな金額の寄付をします。

ウィルの熱意に心を動かされたキュレーターのジェフリー・マクノイドが、行きつけの喫茶店で紹介されたのは裁判官のダニエル・クーパーです。

クーパーの呼び掛けに全米から資金と寄付が集まり、市民の年金と美術館のコレクションの両方が救われるでした。

デトロイト美術館の奇跡 の起承転結

【起】デトロイト美術館の奇跡 のあらすじ①

デトロイトに愛されたセザンヌ

フレッド・ウィルは5歳の時にデトロイト市の中心部・ブラッシュ・パークに引っ越して以来、60年以上もこの付近で暮らしてきました。

父親と同じように溶接工としてアメリカ最大大手の自動車メーカーの工場に就職して、22歳の時にふたつ年下のジェシカと結婚します。

食品加工の工場で野菜をカットする仕事、レストランでの皿洗い、近所のスーパーでレジ係。

肺を患っていたウィルの父親を献身的に介護してみとった時期を除いて、ジェシカが働かなかったことはありません。

仕事が遅番の時にはデトロイト美術館を訪れて、ポール・セザンヌ作「マダム・セザンヌ」を眺めるのがジェシカにとって何よりもの楽しみでした。

マダム・セザンヌはパリの画商の店にあったものを、美術品コレクター・ロバート・タナヒルが買い取って遺贈したものです。

タナヒルの遺言によってセザンヌの他にも多くの名画が美術館には寄贈されていて、「ロバート・タナヒル・コレクション」と名付けられて多くのデトロイト市民から愛されています。

【承】デトロイト美術館の奇跡 のあらすじ②

押し寄せる閉館の危機

医師から末期ガンを宣告されたジェシカの最後の願い事は、フレッドと一緒にデトロイト美術館に行くことです。

1番のお気に入り「マダム・セザンヌ」の前で、ジェシカは死後もフレッドを見守ることを約束しました。

2週間後にジェシカは眠るように息を引き取りますが、フレッドはマダム・セザンヌを通して亡き妻との対話を続けていきます。

フレッドが新聞で美術館のコレクションが売却されようとしていることを知ったのは、デトロイト市の財政が破綻した2013年のことです。

妻との思い出の絵を守るために1カ月分の年金に当たる500ドルを小切手に代えて、美術館のコレクション担当者に面会を申し込みました。

ジェフリー・マクノイドはチーフ・キュレーターでもあり、「ロバート・タナヒル・コレクション」のカタログを作った本人でもあります。

美術館を救うためには8億ドルを上回る寄付金が必要でしたが、年金生活者のフレッドには500ドルが精一杯です。

はき古したジーンズのポケットから取り出されたしわくちゃの小切手を手渡されたジェフリーは、コレクションの売却と美術館の閉館を何としてでも阻止することを決意しました。

【転】デトロイト美術館の奇跡 のあらすじ③

思いきった取引

出勤前の朝のひとときにイースト・ワーレン・アヴェニューにあるカフェ「ラリーズ」に立ち寄って、熱々の1杯のコーヒーを飲んでほっと一息つくのがジェフリーの日課です。

いつもの時間に店に入るとカウンターの内側にいたマスターから、デトロイト市と債権者との間の交渉を担当している裁判官のダニエル・クーパーを紹介されました。

美術館のコレクションと退職者の年金の両方を救済する取って置きの妙案を、ダニエルはジェフリーに打ち明けます。

価値あるコレクションを売り払って閉館に追い込むのではなく、価値あるコレクションを維持して存続させるための寄付を募る、集まった寄付金は年金受給者と美術館側との両方で分ける。

グランド・バーゲン(思いきった取引)と銘打たれた大胆なキャンペーンによって、デトロイト美術館は1億ドルもの資金調達に成功しました。

さらには自動車企業からも3億ドル、ミシガン州から追加で1億ドルの資金が投入されていきます。

【結】デトロイト美術館の奇跡 のあらすじ④

500ドルから始まった8億ドルの奇跡

デトロイト市内でも歴史的な価値のある建造物・セオドア・レヴィン連邦裁判所の7階には、全米きってのセレブリティや名士たちが集まっていました。

進行役を務めるのはダニエルで、すぐ後ろの傍聴席にはジェフリーが座って会議の行方を見守っています。

人類の至宝であるロバート・タナヒル・コレクション、全米が誇る創造と産業の街・デトロイト。

両方を守り抜くために力を貸してほしいというダニエルによる懸命の訴えに、有名財団の理事長たちは息を凝らして聞き入るばかりです。

9つの財団が3億ドルの巨額の寄付を表明したために、ついにはデトロイト市民と美術館を救済するための目標金額8億ドルに達しました。

今回の件でデトロイト美術館は市の管理下を離れて独力法人となったために、これからは経済状態に左右されることもありません。

ジェフリーがこのニュースを誰よりも先に伝えたかったのは、1年前に面会を申し込んできて1枚の小切手を差し出したフレッドです。

「あなたがこの街にいてくれたことが、デトロイト美術館の奇跡」というメールを受け取ったフレッドは、写真の中で笑顔を浮かべているジェシカに語りかけるのでした。

デトロイト美術館の奇跡 を読んだ読書感想

溶接工として黙々と働く夫・フレッドと、パートタイムの仕事に明け暮れるウィル夫妻のひた向きな姿に好感が持てました。

突如としてわかれが訪れた後も、決して途切れることのないふたりの絆にも心温まります。

古くは自動車産業の町として賑わっていたデトロイトが、時代の流れとともに寂れていく様子にも考えさせられました。

地元の経済や人々の暮らしを守るために、貴重な芸術品の数々が散逸の危機を迎えてしまうのがほろ苦いです。

時間と場所を飛びこえて多くの人たちの心を動かしていく、1枚の絵に込められている無限の可能性が伝わってきました。

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