「どんぐりのリボン」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|田辺聖子

「どんぐりのリボン」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|田辺聖子

【ネタバレ有り】どんぐりのリボン のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:田辺聖子 1986年に講談社から出版

どんぐりのリボンの主要登場人物

藤井五月(ふじい さつき)
大阪蛍川の市役所に勤める二十五歳。親しい友人が結婚していき、結婚に前のめり気味。性格は気が強く、男性に意見することも躊躇しない。仕事の取材で知り合った小谷から『蛍川をおもろうする会』に誘われ、出会いを求めて参加する。

栗本健太(くりもと けんた)
友人の結婚式で出会った青年。大学生のときに大阪に住んでいたが、その後田舎の兵庫の山奥に引っ込み、農業を継いでいる。精悍で快活だが、女は家庭第一でなければいけない、お酒や煙草もいけない、お墓を守るのが長男の務め等、古臭い価値観を持ち、五月とは度々意見の違いから衝突するが、次第に気になる存在に。

山本直美(やまもと なおみ)
五月の友人で医療器具を扱う会社のOLをしている。日本風美人だが独身で結婚に焦っている。栗本との仲を取り持つように頼む。煙草とお酒好き。

栗本タエ(くりもと たえ)
栗本健太の幼馴染で、好き合っていたが田舎のしきたりに則り、別口で見合いし結婚することに。今では兄妹のような関係。

小谷タケル(こたに たける)
蛍川で漫才作家をしている。五月が担当する市のPR誌で取材したのをきっかけに『蛍川をおもろうする会』に誘う。

どんぐりのリボン の簡単なあらすじ

大阪・蛍川市役所の広報部に勤務する藤井五月は、最近親しい友人が結婚していき少々結婚に前のめり気味な二十五歳。蛍川をPRする広報誌で、ゆかりのある人物にインタビューしています。仕事の息抜きに、行きつけのバーで煙草をふかしつつお酒を楽しんだりする現代的な女性ですが、いつかは自分も素敵な人と出会い、家庭を持つことに憧れています。友人の結婚式で出会った栗本健太と結婚観について口論になり、憎まれ口をたたくうちにだんだんと距離を縮めていきますが……。

どんぐりのリボン の起承転結

【起】どんぐりのリボン のあらすじ①

出会い

大阪・蛍川市役所の広報部に勤務する藤井五月は、最近親しい友人が結婚していき少々結婚に前のめり気味な二十五歳。

蛍川をPRする広報誌で、ゆかりのある人物にインタビューするのが仕事です。

行きつけのバーを持ち、お酒や煙草を楽しむ現代的な女性ですが、近い将来は素敵な男性と恋に落ち、結婚することに憧れています。

ある日、友人の結婚式に参列した五月は、新郎の友人・栗本健太という青年と出会います。

同じテーブルの隣同士だった二人ですが、直接言葉を交わしたわけではありません。

お祝いのスピーチでそれぞれの結婚観について討論を交えたのです。

栗本の「女性は家庭第一」主義に対し、五月は真っ向から異を唱えます。

これからの女性は家庭に埋もれず、仕事を持ち、夫婦で支え合っていくべきだと主張します。

お開きになり、人でごった返しタクシーがつかまらないところを、栗本に声を掛けられます。

お茶でもどうかと誘われ、それならお茶ではなくお酒にしましょうと、五月が行きつけのスナックに連れて行きます。

栗本は大学進学で大阪に住んでいたことがあったらしいのですが、現在は農業を引き継ぐために兵庫の山奥の田舎にひっこんでいるので、五月の案内に素直に従います。

お店に着き、先ほどの結婚式の話で飲み直す二人。

式の最中に、栗本が涙ぐんでいる姿を目撃していた五月は、よっぽど新郎と親しかったのねと指摘すると、栗本は、自分らのことが思い出されたと言います。

聞くと、栗本は気心知れた幼馴染と結婚する気でいたが、田舎のしきたりで、叶わなかったと言うのです。

相手は一人娘で、自分は長男なので、お互い家を継がなければならない身で泣く泣く別れ、相手の女性は見合いをし、結婚が決まったと栗本は話します。

一体いつの時代の話だと、五月は栗本の傷心を一蹴しますが、栗本は至極当然のこととして受け入れており、女性はお酒を飲んだり煙草を吸ったりしたら体に良くない等と五月に説教をする始末で、噛み合わない二人です。

【承】どんぐりのリボン のあらすじ②

華の独身・二十五歳

田舎の慣わしを尊重する栗本の価値観に違和感を覚える五月でしたが、栗本が放つ精気は抗いがたい魅力がありました。

それっきりもう会うこともないかと思われたところ、結婚式に参加していた友人の計らいで再び五月と栗本は会うことになります。

大阪まで出向く用事があるので昼ご飯を共にするという約束を交わし、待ち合わせ場所に行くと、そこにはもう一人女性の姿があります。

栗本が泣く泣く別れたという幼馴染のタエでした。

栗本と二人だと思っていた五月は憮然としますが、話してみると、タエは素直で栗本にも媚びたところはなく、仲の良い兄妹のような二人の様子にさざ波だった五月の心も落ち着いていきます。

傷心していた栗本も、今では気持ちを切り替えているようで、そこでまた五月は嬉しくなります。

栗本と親交を深める一方、取材を通じて知り合った漫才作家の小谷タケルに誘われ、地元・蛍川を盛り上げる『蛍川をおもろうする会』に参加した五月。

そこには商店街で商売する活力溢れる青年たちがいました。

独身の青年たちからちやほやされて五月は上機嫌です。

あーだこーだと言い合いながら飲むお酒は楽しく、独身生活を謳歌しています。

【転】どんぐりのリボン のあらすじ③

秋祭り

栗本とは時々電話を掛け合う仲になりました。

ほとんど口喧嘩になって電話を切ることになるのですが、ちょっとすると、栗本の野太い大きな声が恋しくなります。

そんなある日、結婚式で新婦友人として参列していた直美が、栗本との仲を取り持つようにお願いしてきます。

直美は日本風の美人で五月同様に結婚願望が強いタイプです。

内心焦る五月でしたが、周囲には栗本とのことは話していなかったので、実は五月も栗本に好意を寄せているとは思ってはおらず、後日同じテーブルで居合わせたメンバーで食事をすることになります。

直美は普段は酒も煙草もやるのですが、栗本がそういうタイプの女性は好みじゃないと聞き、しおらしく振舞います。

面白くない五月は、豪快にうどんをすすり色気のかけらもありませんが、食いっぷりの良い五月に栗本はむしろ好感を抱くようで、二人きりになった時にくだけた口調で五月を褒めます。

当の直美は、仮面をかぶることに疲れトイレで煙草を一服。

早々にリタイア宣言し、五月と栗本は二人でドライブすることになります。

思いがけない展開に機嫌が良くなる五月。

栗本も心なしかウキウキしています。

ドライブの最中もお互いの価値観を押し付け合い、言い合いに発展する二人ですが、距離は確実に縮まっています。

栗本があまりにも自分の田舎を自慢するので、五月はどんどん栗本の地元を見てみたくなり、秋祭りに呼ばれることにしました。

遊びにやってきた五月を栗本は丁寧にもてなします。

栗本が言っていた通り、そこは空気も水も美味しく、収穫時で作物もたわわに実っていました。

栗本の幼馴染のタエとも再会し、栗本の土地や名所をまわり、すっかり五月は栗本の地元に愛着を感じます。

五月が喜ぶ顔を栗本も嬉しそうに見ていました。

【結】どんぐりのリボン のあらすじ④

さいこう

栗本の地元を再び訪れることになったのは大規模災害のボランティアとしてでした。

秋祭りが終わり、雨が降り続いたある日、五月はニュースで栗本の地元が山崩れ災害にあったことを知ります。

山村が泥海になり、道路は塞がれ行方不明者が出ており、無論電話は通じません。

自衛隊が出動し、第二次災害に警戒していると報道されています。

五月は栗本の安否が気にかかり、居てもたってもいられません。

結局、栗本の元へ駆け付けられたのは、不眠不休の応急工事で県道が開通してからの頃でした。

全国から救援物資が送られてはいるものの、個人宛ての荷物は対応できず、電話も復旧作業は続けられているものの、個人を呼び出してもらうことは難しい状況で、五月は被災してから栗本とは連絡が取れずじまいでしたが、意を決してトラックに荷物を積み、秋祭以来ぶりに栗本の地元へ向かいます。

豊かだった山村は跡形もなく、あるのは一面の土でした。

現場を目の当たりにし衝撃を受ける五月。

栗本のショックはどれほどだろうかと心配してプレハブ小屋に向かうと、そこには以前の通り、血色の良いツヤツヤとした顔色の栗本がいました。

五月の姿に栗本は、『今日は何かあったんですか』と驚きます。

聞くと直美が一足先に来ていると言うではありませんか。

抜け駆けした直美は、しれっとした様子でこたつで煙草を吸いながら五月を迎え入れます。

栗本は山崩れの瞬間や、そこからいかにして逃げたかを熱を込めて語ります。

今は、地域の人たちで毎晩寄り合いをし、相談したり陳情したり、救援物資を分配しながら生活をしていると言います。

以前と変わらず逞しく強い栗本に五月は一安心。

二人で辺りを見回ることにします。

栗本の農園も土に埋まり、再開できる目途は立っていませんが、それでも栗本はこの地で一から始めようとしていました。

五月は唐突に、村の復興を自分にも手伝わせて欲しいと名乗り出ます。

急な展開についていけず固まる栗本に、さらに五月はたたみかけます。

栗本は顔が赤くなったり青くなったりしながら、でもここにはそれこそ何も無いと言い淀んだり、都会の人がこんな田舎には住めない等と弱気なことを言ったりしていましたが、五月の熱意が栗本にも伝染し、大声をあげて笑い出します。

どんぐりのリボン を読んだ読書感想

二十五歳の五月が、人生のパートナーを見つけるまでを描いた『どんぐりのリボン』は1986年に出版され、30年経った今も読み継がれる恋愛小説です。

物語の中に出てくる電話のやりとりや、バブル経済前の世の中の熱気等、現代では通じない箇所もありながら、結婚に揺れる女性の心理や、実家住まいの親との窮屈な距離感、女友達(ライバル)の抜け駆け等、二十五歳の等身大の女性がそこにはいます。

災害事故が頻発する昨今、被災した終盤の展開は生々しく読んでいて心が痛かったです。

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