「私的生活」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|田辺聖子

「私的生活」

【ネタバレ有り】私的生活 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:田辺聖子 2007年7月に講談社から出版

私的生活の主要登場人物

中谷乃里子(なかや のりこ)
三十一歳の頃に剛と出会い、海の見える豪華なマンションを口説き文句に熱心にプロポーズされ、結婚する。

中谷剛(なかや ごう)
財閥の御曹司。色男を自負しており、実際女にモテる。嫉妬深く、乃里子が自分の世界を持つこと嫌う。

中杉(なかすぎ)
中谷家で開催されるパーティーで出会ったおっとりとした紳士。生活に疲れノイローゼ気味になった乃里子から相談受けるようになる。

福田 啓(ふくだ けい)
乃里子の昔の絵かき仲間。

美々(みみ)
乃里子が以前勤めていた保険会社の同僚。乃里子が長年片思いしていた五郎と結婚する。

私的生活 の簡単なあらすじ

財閥の金持ち御曹司の中谷剛から猛アプローチを受け、結婚を承諾した乃里子は、現在海の見える豪華なマンションで剛と仲良く暮らしています。子供はおらず、結婚しても付き合い当初と変わらず仲良く過ごしています。玉の輿にのり、周りからは憧れの生活を送っているように見える乃里子でしたが、当の本人は贅沢な生活にも飽き、中谷一族との付き合いも億劫で、結婚生活は楽しいことばかりではありません。次第に剛の束縛が鬱陶しく感じ始めた乃里子。幸せだった生活に暗雲が垂れ込みます。

私的生活 の起承転結

【起】私的生活 のあらすじ①

新婚生活

財閥の御曹司・中谷剛から猛アプローチを受け、結婚を承諾した乃里子は、現在海の見える豪華なマンションで剛と仲良く暮らしています。

乃里子は結婚前は剛とは別に、長年片思いしていた男性がいましたが、結局乃里子の友人の美々と結婚してしまい失恋。

遊び相手として付き合っていた剛に熱心に口説かれていましたが、本気でとりあっていませんでした。

とはいうものの、いざ目の前に素敵なマンションを見せられると、現金なものでその場で結婚を承諾したのでした。

剛は一族経営の大企業・中谷鉄工の御曹司で、色男で健康そのもの、精力に溢れ若くて独身だったので、遊ぶ相手はいくらでもいました。

乃里子と遊び始めた時は、既婚者だと嘘をついて。

結婚をせがまれないよう予防線を張っていた剛でしたが、いつしか剛の方が乃里子にのめりこみ、熱烈にせまるようになっていたのでした。

結婚して三年が経ちましたが、二人は今でも変わらず仲良く暮らしています。

乃里子は結婚前はフリーデザイナーをする傍ら、絵を描き個展を開いたりしていましたが、現在は仕事をせず、独身時代に仕事場兼一人暮らししていたマンションは残したまま、創作することもしなくなっています。

【承】私的生活 のあらすじ②

中谷家

乃里子は中谷一族が苦手です。

金持ちをひけらかし、選民意識が強い長姉はじめ、義母が遺した宝石や金品の分与に目を光らせる義妹。

よそ者の乃里子にはびた一文も渡したくないという気概がひしひしと伝わってきて、一族の集まりになると乃里子は口重になってしまうのです。

可愛がってくれた義母は数年前に亡くなり、いよいよ乃里子は中谷邸で定期邸に開催されるパーティーに出席するのが億劫になっています。

金持ち連中の退屈な会話にお愛想を言う気にもならず、貝のようにだんまりしてしまうのが常です。

その夜も嫌々パーティーに参加した乃里子でしたが、興味を惹く男性と知り合います。

中杉と名乗るその中年男性は、おっとりとした雰囲気で、ユーモラスある台詞を吐くので、乃里子は珍しく剛以外の人間と会話を楽しむことができました。

乃里子は結婚してから、それまで付き合いのあった絵かき仲間とも疎遠になっていました。

剛は乃里子が外の世界に楽しみを持つのを嫌がるのです。

乃里子は剛の機嫌を損ねないよう過ごすようになっており、それまでの乃里子の私的生活は、この三年ですっかり無くなってしまっているのでした。

【転】私的生活 のあらすじ③

黒い染み

剛は欲しい物は何でも買ってくれますし、乃里子のことをこの上なく可愛がってくれますが、束縛の激しさに息苦しさをおぼえ、だんだん神経が衰弱していきます。

パーティーの後もちょくちょく中杉氏と顔を合わせるようになった乃里子は、中杉氏が持つ特有の可愛らしさに癒されていきます。

そんなある日、昔の絵かき仲間の福田啓から個展の知らせが届きます。

剛の機嫌を窺いつつ、夜出かける伺いを立てる乃里子。

その日上機嫌だった剛は承諾してくれます。

意気揚々と個展に出掛け、久しぶりに福田啓と再会した乃里子は、後日絵の受け取りを約束します。

剛がいない日を指定して、家まで絵を届けてもらった乃里子は、福田啓から誘われ、外にお酒を飲みに出かけていきます。

気分良く帰宅した乃里子でしたが、剛はすでに帰宅しており、酔って帰ってきた乃里子に激怒。

乃里子の奔放さを非難し始めます。

その中で乃里子しか知りえない過去の話を持ち出した剛。

乃里子は不審に思い、剛に問い詰めます。

すると剛は乃里子の日記を隠れて読んでいたことを白状します。

【結】私的生活 のあらすじ④

別れ

剛は乃里子への監視の目を強く光らせ、だんだんと弱っていきました。

乃里子がおとなしく言うことを聞くようになったことが剛は嬉しいようでした。

乃里子は、以前なら何の気なしにしていた剛の機嫌取りが苦痛になっていきます。

中杉氏が口にした『夫婦はだましだまし』という言葉を言い聞かせるようになります。

剛がやきもちを焼くので福田啓からもらった絵を隠そうとする乃里子でしたが、プライベートな場所として残していたマンションも、剛が嗅ぎまわるので隠せる場所はありません。

絵を中杉氏に預けた乃里子は、私的生活が剛によって奪われていく感覚に襲われます。

大阪から東京行きが決まった剛は、乃里子の意向を聞かず、義父たちと同居することや子供も作ることを決め、乃里子は今後、より一層中谷一族としてあちこち顔を出したり、努めなければいけないと言いだします。

渋る乃里子でしたが、今まで乃里子に使った諸経費の詳細を読み上げられ、金額の大きさに恐ろしくなり、思わず剛の言葉に耳を傾けます。

一人暮らししていたマンションも売り払われ、乃里子は中谷家の人間として会合に出たり、剛の命令をしおらしく聞きました。

乃里子はいつしか冗談を言うこともなくなり、人生に面白味を感じることがなくなっていきます。

元気づけるために剛は乃里子を長野に連れ出しますが、そこで二人は決定的に決裂してしまいます。

離婚が決まり、身辺整理をした乃里子は、中杉氏から預けていた福田啓の絵を受け取り、夫婦という芝居を最後まで続けられなかった自分を悔やむのでした。

私的生活 を読んだ読書感想

乃里子三部作の第二弾『私的生活』をご紹介しました。

前作の『言い寄る』で登場した御曹司で色男の剛と結婚をして、贅沢な生活を送っていた乃里子が、束縛でだんだんと弱っていく様子が緻密に書かれています。

冒頭では明るく愛に溢れユーモラスのあった乃里子が、ラストでは何にも興味を示さず心を閉ざして全くの別人になっていく本作。

結婚生活の難しさが抉り出され、読んでいて辛くなってきます。

気の合う相棒だったはずなのに、いつの間にか自分を苦しめる敵になってしまう悲しさ。

仲直りした矢先に、不用意な一言で険悪になってしまう現実。

結婚生活は甘いだけではやっていけないのだと教えてくれる一冊です。

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