「すいかの匂い」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|江國香織

「すいかの匂い」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|江國香織

【ネタバレ有り】すいかの匂い のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:江國香織 1998年1月に新潮社から出版

すいかの匂いの主要登場人物

私(わたし)
本作の主人公。九歳の夏にじき弟が生まれるので、東京都の片田舎の羽村町にある叔母夫婦の家へ預けられる。ホームシックにかかり、隙を見て叔母夫婦の家を飛び出すが迷子になり、辿り着いた貧しい雰囲気のお宅で一晩お世話になる。

ひろしくん(ひろしくん)
家出した先で出会った少年。みのるくんと体を共有している。学校に通っておらず、人目を避け家に閉じこもっている。

みのるくん(みのるくん)
ひろしくんの片割れ。好奇心旺盛な性格だが、食欲がなかったりひろしくんよりも体が弱い。

おばさん(おばさん)
ひろしくんとみのるくんのお母さん。貧相な身なりをしているが、顔立ちは整っている。家の中を覗き込んでいた私に気が付き咎めるが、事情を知り一晩泊めてくれる。

叔母夫婦(おばふうふ)
東京都の羽村町で農業の傍ら、草木染の小物を作っている若夫婦。おばあさんと同居している。子供はいない。

すいかの匂い の簡単なあらすじ

九歳の夏、母が出産を控えていた為、東京都の羽村町に住む叔母夫婦の家に、夏休みの間預けられることになった私。叔母夫婦は若く優しかったのですが、子供はおらず、農業や土産品作りに忙しく、遊び相手のいない私は一人遊んで時間を過ごしていました。早々にホームシックにかかり、家を飛び出した私ですが、迷子になってしまい見知らぬ町を彷徨い歩きます。日も暮れ途方に暮れていたところへ一軒の明かりが見えました。家の中から少年たちの話声が聞こえ、様子を窺い、中を覗き込もうとしたところを見つかってしまい……。

すいかの匂い の起承転結

【起】すいかの匂い のあらすじ①

叔母夫婦の家

九歳の夏、母が出産を控えていた為、東京都の羽村町に住む叔母夫婦の家に、夏休みの間預けられることになった私。

叔母夫婦の家にはおばあさんも住んでいて、意地悪なわけではないのですが、ずけずけとした物言いをするので、子供の私はとっつきにくく、叔母夫婦は若く優しかったのですが、農業や土産品作りに忙しく、遊び相手のいない私は一人遊んで時間を過ごしていました。

夕方になると寂しさがつのり、夜は布団にくるまり我が家が恋しく泣いていました。

叔母夫婦は子供がいなかったので、家の中は騒音がなく、ハプニングがなく、狭いアパートのごちゃごちゃした私の家とは似ても似つかない空間で、居心地の悪さはいつまで経っても拭えません。

いつの間にか捕らわれている気持ちになっていた私は、叔母夫婦の家から逃げることを決心します。

【承】すいかの匂い のあらすじ②

脱走

逃げることにしたのは咄嗟の思い付きでしたが、そうと決めてからは躊躇することはありませんでした。

台所で作業している叔母のところへ駆けていき、玄関にお客さんが来たと嘘をついて、茶だんすにしまってあるお財布をひっつかんで外に飛び出しました。

初めての家出と初めての盗みに興奮して、私は夢中で走り続けます。

三十分も歩けば駅に着くはずでしたが、一向に駅には辿り着かず、日もだんだんと暮れてきます。

あとにはひけないと追い詰められた気持ちの私は行く当てもなく彷徨い歩き続けました。

ヘトヘトになった頃、川の向こうに小さな明かりを見つけます。

辺りはすっかり暗くなっていました。

明かりは小さな家からもれていました。

家の中から男の子二人の話声が聞こえてきます。

縁側からこっそりあがりこんだ私は、家の中を覗き込もうとした時、背後から『何してるのっ』と突如声を掛けられ、驚いて口から心臓が飛び出そうになりました。

振り向くと、そこには貧相な身なりながら整った顔立ちの女性が、すいかを抱えて立っています。

目には怒りが宿っていました。

【転】すいかの匂い のあらすじ③

不思議な家

声に気づき、『お母さん?帰ったの?』と家の中にいる男の子が姿を現しました。

瞬間、私は息が止まります。

男の子二人は上半身を共有していたのです。

顔つきがそっくりな二人は肩から腰までがくっついていて、胴体の真ん中あたりで細くいびつな手がぶら下がっています。

腰からしたはそれぞれ独立していて、二人は似たようなグレーのズボンを履いていました。

男の子二人は、私をみてひどく怯えた顔をしました。

ひどく重い沈黙が流れた後、男の子たちのお母さんは、『さ、とりあえずおあがりなさい』と、さっきとはうって変わって優しい声色で私を家の中に誘いました。

『みんなで夕飯にしましょう』と。

断ることもできずおずおずと家の中に足を踏み入れた私は、男の子たちとお母さんと食卓を囲みます。

玉ねぎの味噌汁と玉子焼き、黄色いご飯の上にはお豆腐が乗っかている質素な食事でした。

裸電球で黄色く灯された明かりは、台風で停電になった夜のようでした。

食事の最中、どこから来たのかと聞かれ、私は正直に羽村町の叔母夫婦の家に夏休みの間預けられていたが、嫌になって出てきたことを話します。

ここから羽村町までは離れているようで、一晩泊まり明日になったら羽村町まで送ってあげるとおばさんは言いました。

【結】すいかの匂い のあらすじ④

ひろしくんとみのるくん

男の子たちは、ひろしくんとみのるくんという名前で、みのるくんは夜ご飯をまったく食べませんでした。

夏は食欲がないそうで、食後に出されたすいかしか受け付けないそうです。

それでもみのるくんは、ひろしが食べてくれれば同じ栄養になるからと気にしていない様子です。

すいかには蟻がたくさんたかっていましたが、みのるくんは気にすることなくすいかを平らげました。

ひろしくんとみのるくんは学校に通っていないようで、家にこもりっきりのようでした。

お風呂はなく、おばさんが熱いタオルで身体を拭いてくれました。

学校は好きかだとか、友達についてあれこれ質問してきました。

私は本当は学校なんてちっとも好きじゃありませんでしたが、そう答えると家に帰れない気がして、必死で嘘をつきました。

おばさんは優しく話しかけますが、私は警戒心を解くことはありませんでした。

寝る時間まで、ひろしくんとみのるくんは扇風機に声をあてて遊んでいました。

私を一緒になって遊びます。

唐突にみのくんが私に触れてもいいかと言ってきます。

きっともう会えないからと。

そして私のほっぺたにそっと触れました。

ひろしくんは咎めましたが、みのるくんはやめませんでした。

布団に入る間際おばさんは二人にミルクセーキを飲ませ、いつかお金が溜まったら手術をするのだと説明しました。

ひろしくんはイライラした口調でこのままでいいと答えますが、おばさんは人間はみんな一人一人で生きていくべきだわとひろしくんに諭します。

みのるくんは黙っていました。

翌朝、ぐっすり眠った私が目を覚ますと、ひろしくんやみのるくん、おばさんはおらず、おまわりさんと叔母夫婦、おばあさんが立っていました。

今朝早く、女の人が交番にきて、空き家から女の子の声がすると届け出たそうです。

昨日は女の人がいたと私がおまわりさんに訴えると、ここは長らく空き家だから、おそらくルンペンだろうと答えました。

それから間もなく、母が弟を出産しました。

すいかの匂い を読んだ読書感想

夏にまつわる11編の短編が収録された『すいかの匂い』から、9歳の夏、家出をした少女が不思議な一晩を過ごす『すいかの匂い』をご紹介しました。

幼い頃、うだるような暑さの中、汗だくになって遊んだ記憶や、長い夏休み中のとりとめない一日がありありと蘇ってきて、ノスタルジーに浸りたくなります。

すいかのみずみずしさや、友達の家でご馳走になるカルピスの特別感が等、随所随所に登場する食べ物が良い味を出しています。

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