「英雄の書 上巻」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|宮部みゆき

「英雄の書」上巻

【ネタバレ有り】英雄の書 上巻 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:宮部みゆき 2009年2月に毎日新聞社から出版

英雄の書 上巻の主要登場人物

森崎友理子(もりさきゆりこ)
本作の主人公で小学5年の女の子。兄が起こした事件をきっかけに英雄を追う冒険に出ることとなる。オルキャストとしての名をユーリとする。

森崎大樹(もりさきひろき)
有理子の兄。英雄の書に魅入られ、中学校で同級生を刺し殺して行方をくらます。

アジュ(あじゅ)
大樹が英雄の書と共に持っていた辞書。有理子と共に英雄の書を追う旅に出ることを決め、魔法でネズミの姿に変化させてもらう。

ソラ(そら)
無名僧だったが、破門され有理子の従者となる。

水内一郎(みのちいちろう)
有理子の大叔父。血の繋がりは無いが、有理子の祖父と一時期共に暮らしていた。富豪であり、ある目的の為に世界中の本を集めていた。

英雄の書 上巻 の簡単なあらすじ

小学5年生の有理子は仲の良い家族と共に平和に生活していました。兄の大樹は出来が良く頼りになり、同級生とも仲良く過ごせておりなんの不自由もありませんでした。しかしある日、兄が同級生を刺して行方をくらますという事件が起こり、平和な生活が全て崩れ去ります。警察や家族がいくら探しても兄は見つからず、有理子は学校にも居場所が無くなります。有理子が大樹の部屋で手掛かりを探していると不思議な声が聞こえてきます。大樹が消えた理由を知った有理子は大樹を探す冒険に出ることとなっていきます。

英雄の書 上巻 の起承転結

【起】英雄の書 上巻 のあらすじ①

消えた兄と謎の本

小学5年生の有理子は父親、母親、3つ年上の兄大樹と共に幸せに暮らしていました。

兄は成績優秀スポーツ万能で有理子にも優しく頼りになり、両親からも信頼されていました。

そんな兄が突然同級生を刺し殺して行方をくらますという事件が起こり有理子の生活は一変します。

両親は見つからない兄を探すことに疲弊し、マスコミに追い回されることとなり家での生活も出来なくなります。

しばらく時間が経過しても兄は見つからず、家の周りをうろついていたマスコミも姿を消した頃、久しぶりに家に戻り兄の部屋にいると有理子はある記憶が蘇ります。

深夜目が覚めて兄の部屋の前を通った時に王様のような者の前に跪く兄を見た事がありました。

夢だと思いすっかり忘れていましたが、実は夢ではなかったのでは無いか、兄の失踪と何か関係があるのでは無いかと考えていると何かの声が聞こえます。

声に導かれるままに本棚を探すと有理子に話しかけてきているのは一冊の古い本だと分かります。

本は兄が魅入られたのは英雄であり、英雄のせいで事件を起こしたと教えてくれますが有理子は信じられずに本を投げ捨てて部屋を出ます。

学校へ行くと激しいいじめに遭い有理子は自分の居場所が無くなったと悟り再び兄の部屋に行き本と話します。

本は兄の手掛かりを得たいのであれば有理子の大叔父の別荘へ行けと言います。

本は元々そこにあり、兄が英雄の書と共に持ち出していました。

両親に兄が大叔父の別荘に隠れている可能性があると嘘をつき、家族で別荘へと向かいます。

大叔父水内一郎は祖父の血の繋がらない弟にあたり、莫大な資産を築きましたが人を嫌い隠棲生活を送っていました。

趣味は世界中の本集めで、倒れたのもパリの書店にいた時でした。

【承】英雄の書 上巻 のあらすじ②

無名の地

水内一郎の別荘に着くと有理子は図書室で多くの本と出会い、家にあった本はアジュという名の辞書だと分かります。

本達は魔法を使い両親を眠らせると有理子の兄が英雄の最後の器となり、既に封印は破られ英雄は解き放たれてしまったと口々に叫びます。

アジュは英雄を封印する為に無名の地へ行くのは有理子が相応しいと提案しますが、本達は幼い有理子に重荷を負わせることを躊躇います。

賢者と呼ばれる本は水内が死者を蘇らせる方法を求めて本を集めており、その中で英雄エルムの書の写本を手に入れたのだと説明します。

英雄というのは、一般的には偉大な業績を成した人を指すのだと有理子は思っていましたが、本達が語る英雄は性と負の両面を持ち世界に戦と混乱を招く存在でした。

また、この世界は輪の中の一つとして認識されており、物語の数だけ領域が存在していると言います。

英雄は既に狼と呼ばれる追跡者達が捜索を開始しており、もし有理子も英雄を追うのであれば助けになってくれるということです。

有理子は説明されてもなかなか理解が追いつきませんが、とにかく兄の行方を知る為の手掛かりがあるのであればと考え、賢者と呼ばれる本から紋章を授けて貰い、『印を戴く者(オルキャスト)』となります。

魔法陣を作り紋章の力を使って無名の地へと旅立ちます。

無名の地では、無名僧と呼ばれる同じ姿形をした者に導かれて万書殿へと向かいます。

そこで無名僧の役割やオルキャストの成すべきことについて教えられます。

無名僧は咎人である為に咎の大輪を回し続けるという役割があり、時の流れの無い無名の地にて罪を贖っていました。

【転】英雄の書 上巻 のあらすじ③

追跡の始まり

英雄を封印せずに放っておくと咎の大輪は無名僧の手には負えなくなり、いずれ輪が崩壊する時が来ます。

これを防ぐには有理子が大樹を追い英雄の呪縛から解き放つしか無いと聞かされますが、有理子は自信がなく及び腰になります。

元英雄の書で今は虚ろの書となった本を見せてもらいますが、無名僧の大僧正は何故か虚ろの書を見てひどく驚きます。

大僧正は闇の中に潜んでいた無名僧の子供のような者を見つけ、有理子の従者だと告げます。

何かを隠しているような態度に違和感を覚えますが、とりあえず旅の道連れができるため、有理子は少年無名僧を連れて元の世界に戻ることとします。

最後に無名僧は魔法を強化する守護の法衣を授けてくれ、今後有理子はオルキャストとしての名前ユーリを名乗ることになります。

水内の図書室へ戻ると、賢者が無名僧を連れて戻ったことに疑問を感じ、何か理由があるのだと指摘します。

少年無名僧は自分が破壊僧であり無名の地には居られなくなったが故に従者となったと話します。

本来無名僧は感情が無く、咎の大輪を回すためだけに存在していますが、少年無名僧は英雄の破獄に心を躍らせてしまったのだそうです。

ユーリはつまらない場所で繰り返しの毎日を過ごしていたのなら変化を喜ぶのは当然だとあまり気にせず、英雄を捕まえれば解放されて自由身になるのだと少年無名僧を励まします。

ユーリは紋章を得て守護の法衣を身につけたことで魔法を使うことができるようになりましたが知識がありません。

そこで魔法の辞書であるアジュが旅に同行し、ユーリに少しづつ魔法を教えることとなります。

手始めにアジュをネズミに変え、空腹と疲れを癒した所で一旦有理子の自宅へと戻ります。

元の世界の空を見て感動したことから、少年無名僧にソラと名付けて自宅へと入ります。

自宅で風呂に入って汚れを落とすと、ふと兄の思い出が蘇ってきます。

【結】英雄の書 上巻 のあらすじ④

兄の失踪の原因

かつて兄が家に帰ってきた時に慌てて風呂に入っていった事があり、有理子は何があったのだろうと訝しんだ思い出がありました。

その時は体が酷く汚れたのかなという程度にしか考えませんでしたが、よくよく考えると家族に見られたくない何かを隠そうとしていたのではないかと思い当たります。

実は兄はいじめられていたのではないかと考えますが、誰からも人気があったはずの兄の姿からはいじめに遭うというのが想像できません。

魔法で姿を変えながら情報を集めていると、兄の通っていた中学校から自分を呼ぶ声が聞こえてきます。

慌てて駆けつけると、図書室の窓から少女が飛び降りようとしていました。

助けた少女は乾みちると言い、同じ図書委員をしていた兄の友人でした。

みちるは幼い頃に酷い怪我をして体に傷跡があり、それが原因で1年の頃からいじめに遭っていました。

しかしそれに気づいた有理子の兄大樹はいじめを辞めるようにクラス全員に訴えかけ、みちるは学校に通えるようになりました。

担任のまだ若い女性教師である兼橋先生はいじめを行う生徒を叱っていましたが、その生徒のモンスターペアレントに怒鳴り込みをかけられ教育委員会にも圧力をかけられて学内の立場を悪くされました。

更には校長や他の先生もいじめの事実を隠し、生徒の親の方に気を使っていました。

大樹はそんな使えない教師についても指摘し、もっと兼橋先生を助けて欲しいと訴えましたが、これを生意気だと思う幡多という教師が2年の大樹の担任になり大樹を虐めるように主導しました。

担任の指示の元で行われるいじめに対して大樹は誰にも相談せずに立ち向かっていましたが、だんだん疲れていき英雄の書を求めてしまったようです。

みちるとの話が終わると闇の中から何かが近づいてくる気配があり、ソラとユーリは戦闘の態勢を整えます。

英雄の書 上巻 を読んだ読書感想

女の子を主人公とした冒険ファンタジーで、本や物語が非常に重要な役割を果たす世界観になっています。

本や物語が持つ力は膨大で、場合によっては世界に戦争を引き起こしたり、世界崩壊のきっかけを作ったりするほどです。

また、古い本ほど強い力とたくさんの知識を持っており、魔法を使うことも出来ます。

ただし、自分で移動することは出来ないらしく、誰かに持って行ってもらうか姿を変えてもらうかする必要があるようです。

また、物語の数だけ領域が存在しており我々の住む世界も1つの領域に過ぎないという説明があるため、創作物の世界の人物などがいる領域へと冒険の舞台が移っていく期待が持てます。

上巻ではまだ冒険の始まりまでで有理子は自分の世界から出ていませんが、オルキャストの紋章の力を使えば各領域を自由に行き来できるということなので、とてもワクワクします。

兄の失踪の原因はとても残酷でしたが、実際にありそうな話でした。

若くて正義感に溢れる兼橋先生や大樹はいじめに立ち向かうものの、それよりも邪悪な意志と権力を持つ者達に屈してしまいます。

事件が起きても学校はいじめの事実は無かったとか、把握していなかったとか言い逃れようとするなど、本当によくある話ですが大樹が怒りを感じる気持ちはよく分かります。

下巻で有理子がどのような形で英雄や兄と遭遇するのか、物語の結末がとても気になります。

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