「球形の季節」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

「球形の季節」

【ネタバレ有り】球形の季節 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:恩田陸 1994年4月に新潮社から出版

球形の季節の主要登場人物

坂井みのり(さかいみのり)
ヒロイン。 谷津第二高校の2年生。

浅沼弘範(あさぬまひろのり)
みのりの幼なじみ。 谷津第一高校の3年生。

一ノ瀬裕美(いちのせゆみ)
藤ヶ丘高校の3年生。

菅井啓一郎(すがいけいいちろう)
私立長篠高校の2年生。

藤田晋(ふじたすすむ)
盛岡の私立中学校を卒業後にI市に戻る。

球形の季節 の簡単なあらすじ

東北地方の地方都市・I市の4つの高校では、「エンドウさん」にまつわる不思議なうわさ話が広まっています。予言通りに女子高生が行方不明になる事件が発生したために、地元では大騒ぎです。谷津地理歴史文化研究会に所属している4人のメンバーは、それぞれの学校で聞き込みを開始して思わぬ事態に巻き込まれていくのでした。

球形の季節 の起承転結

【起】球形の季節 のあらすじ①

東北の町に吹き荒れるうわさ

I市は人口が15万人程度の規模で、東北地方では1番の面積を誇る県の内陸部に位置する地方都市です。

I市の中心部にそびえ立つのが如月山で、この山の麓に4つの高校がありました。

谷津第二高校は地元のしっかりした女の子が行く公立の女子校、藤ヶ丘高校は私立のミッション・スクール、谷津第一高校は進学率の高い公立の男子校、長篠高校はスポーツの盛んな男子校。

4校の交流はスポーツから文化祭まで多岐にわたっていましたが、1番に歴史のあるのが「谷津地理歴史文化研究会」略して「地歴研」です。

5月7日に定例会が開かれることになり、それぞれの代表が一高に集まりました。

一高からは議長を務める浅沼弘範、谷津二高からは弘範の幼なじみ・坂井みのり、藤ヶ丘からは一ノ瀬裕美、長篠からは2年生の菅井啓一郎。

この日の議題は最近になって出回っている「5月17日にエンドウさんが如月山に消える」という都市伝説で、4人は自校で集計したアンケート結果を発表し合った後に思い思いの推理を披露します。

藤ヶ丘に通う遠藤志穂という生徒が失踪したのは、正に10日後の17日のことです。

【承】球形の季節 のあらすじ②

エンドウさんの次はサトウさん

17日の午後9時過ぎには両親によって捜索願いが出されましたが、如月山を登っていくところを見られたのを最後にして遠藤志穂は姿を消しました。

1週間後に彼女は突如として近くの小学校の校庭に現れて、町は大騒ぎに包まれます。

警察や家族に問い詰められても、遠藤は 「ほんの少しの間散歩していた」 と答えるばかりで1週間分の記憶がありません。

6月の終わりになると、今度は「7月14日に、サトウさんの上にいん石が落ちてくる」といううわさが出回り始めました。

谷津の4つの高校には40人近く「サトウ」という名字を持つ生徒がいましたが、 多くが不安な精神状態のままで学校生活を送っています。

7月14日の夜、コンビニエンスストアの前の国道で突き飛ばされて事故に遭ったのが佐藤保という長篠の生徒です。

佐藤保は菅井啓一郎と仲が良く、事件現場にたまたま買い物に来ていた浅沼弘範も目撃者として警察に連れていかれました。

逮捕されたのは結城貞之という長篠の体育教師で、以前から暴行事件を起こしています。

結城の父親は美術商で幾度となく息子の不祥事を揉み消してきましたが、警察沙汰となった今回は逃れることはできないでしょう。

【転】球形の季節 のあらすじ③

エンドウとサトウの背後にはフジタ

7月の第2週に、大学が夏休みに入っていた坂井みのりの姉・あゆみが実家に帰ってきました。

妹から「エンドウさん」と「サトウさん」のあらましを聞いたあゆみは、盛岡市の中学校で起きたという不思議な事件を思い出します。

その中学ではある日突然に落花生を仕掛けることが流行りだして、 嫌いな相手を呪い殺すためのおまじないだそうです。

実際に校内でいじめっ子として問題だった生徒が崖から落ちたり、車にはねられたりと偶然の事故が続いていました。

事件の首謀者がフジタという生徒でしたが、やたらとカリスマ性がありクラスメートが証拠隠滅を図ったそうです。

フジタは盛岡市内でも有名なエスカレーター式の学校に通っていましたが、中学卒業と同時に生まれ育ったI市に戻ってきています。

7月14日を境にしてフジタの存在は、 4つの高校の生徒たちでは憧れのスターのようになっていました。

「8月31日、教会にみんなを迎えにくる」という3つ目のうわさが出回るまでに、それほど時間はかかりません。

【結】球形の季節 のあらすじ④

みんなの願いを聞くフジタと帰りを待つみのり

藤田晋の家は、I市から電車で40分以上かかる山の中にありました。

高齢化が著しい過疎の村であるために、高校生は晋を入れてふたりしかいません。

晋が今回したことは、みんなの願い事を聞いて願った人の名前とある日にちをうわさとして流すだけです。

誰にも束縛されないところに行きたがっていた遠藤志穂には、如月山の隠れ場所を用意しただけ。

結城貞之を長篠から追い出して教師生命を断ちたかった佐藤保には、佐藤が塾から帰ってくるタイミングを狙って結城を誘き寄せるだけ。

平凡な日常から抜け出すことを願っている谷津の高校生たちが、8月31日のお昼を過ぎたころから谷津駅の南にある教会に集まってきます。

浅沼弘範も勉強の気晴らし気分で、自転車を走らせます。

いつも「特別な少年」になることを願っていた弘範の目の前に、教会の扉が大きく迫ってきます。

そんな弘範を見送った坂井みのりは家の中に駆け込んで、みんなが戻ってくることだけを願うのでした。

球形の季節 を読んだ読書感想

この小説に登場するI市はあくまでも架空の街ですが、著者・恩田陸の出身地である仙台市をイメージしているのかもしれません。

駅前にはデパートや映画館が立ち並んでいて、周囲を山や川で囲まれている地方都市ならではの閉塞感が印象深かったです。

代わり映えのしない毎日の繰り返しを受け入れている、ヒロインの坂井みのりの諦めにもにた感情も伝わってきました。

地元から飛び出して「特別」になることを熱望している、浅沼弘範とのコントラストも浮かび上がっています。 思春期のまだ見ぬ世界への憧れと、大人になることで失われていく大切な何かについて考えさせられました。

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