「夢違」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

夢違 (角川文庫)

著者:恩田陸 2011年11月に角川書店から出版

夢違の主要登場人物

野田浩章(のだひろあき)
主人公。「夢判断」の国家資格を持つ。妻の美里とふたり暮らし。

古藤結衣子(ことうゆいこ)
予知夢の能力で脚光を浴びる。

野田滋章(のだしげあき)
浩章の兄。私大の医学部に通っていた頃から結衣子と付き合い始める。

山科早夜香(やましなさやか)
京都からG県に転校する。 小学4年生。

岩清水慧(いわしみずさとし)
警視庁から派遣された研究者。

夢違 の簡単なあらすじ

デジタル化された夢を解析する仕事に就いている野田浩章が、今回調べているのは小学生が集団で同時に見た白昼夢についてです。

子供たちの夢には死んだはずの兄の婚約者・古藤結衣子の姿が映っていて、奈良県内で彼女に関する目撃情報が多発します。

事故のショックによって未来にタイムスリップしていた結衣子と、浩章は法隆寺の夢違観音の前で再会するのでした。

夢違 の起承転結

【起】夢違 のあらすじ①

 

予知夢の女と夢を調べる男

21世紀の初めに夢を映像として記録できる技術が開発されて、保存されたデータは「夢札」と呼ばれていました。

野田浩章が他人の夢札を肉眼で見て解析する「夢判断」の仕事に携わるようになったのは、6歳年上の兄・滋章の婚約者の影響です。

古藤結衣子は予知夢を見ることができる能力を認められた日本で最初の人物で、マスコミからは神様あつかいされたりペテン師あつかいされています。

結衣子は上司の葬儀に参列するために北関東へ車で出かけた時に、サービスエリアで起きた火災に巻き込まれて焼死しました。

浩章が結衣子を都心の公園の中にある中央図書館で目撃したのは、結衣子が亡くなってから11年後の年の瀬のことです。

年明けにはG県の山沿いの小学校で4年生の生徒たちが次々と苦しみ出す事件が発生したため、浩章は送られてきた子供たちの夢札を調べます。

ひとクラス30人以上の2週間に渡る夢札を繰り返し見ていた浩章が気になったのは、山科早夜香という女の子です。

この年齢にしては驚くほどクリアな映像で、彼女の夢の中には古藤結衣子にそっくりな女の顔が浮かび上がっていました。

【承】夢違 のあらすじ②

 

夢の桜の下で待つ

夢判断は夢札を解析するだけではなく本人とも接するケースが多いために、浩章はG県に出張に行くことになりました。

一連の出来事に事件性があることも否定できないために、警視庁からやって来た岩清水慧という男性も同行します。

山科早夜香は小学4年生ながらも交通事故で入院して1学年遅れているために11歳、古藤結衣子が亡くなったのは早夜香が生まれる直前。

新幹線の車内で岩清水が披露したのは、早夜香は結衣子の生まれ変わりだというおよそ信じることができない説です。

母親に付き添われて来た早夜香と直接話をするのは若い女性の夢判断で、浩章と岩清水は別室で待機してモニターで監視することになりました。

教室の黒板に書かれていた3月14日月曜日の日付、山の上にある桜がいっぱいのお寺、髪の毛が少し白いきれいなお姉さん。

早夜香から聞き出すことができたのはいずれも断片的な言葉ですが、一部だけ白い髪の若い女と言えば結衣子しか考えられません。

「山」「寺」「桜」という3つのキーワードと夢札の映像から、浩章たちは奈良県吉野の山中にあるお寺へとたどり着きます。

【転】夢違 のあらすじ③

 

時のかなたへと消える

岩清水は警察が12年前の火災事件の重要参考人として、今でも古藤結衣子の行方を追っていることを浩章に打ち明けました。

事故が発生した現場には黒焦げの遺体が30体以上散乱していて、結衣子の身元を特定できません。

結衣子は行方不明になる1年ほど前にトラブルに巻き込まれることを予知夢で知り、警察関係者に接触しています。

自分の体内にマイクロチップを埋め込むこと、常にモニターで監視して異変があれば駆けつけること、チップは2年後に取り出すこと。

火災の瞬間にチップの位置情報は完全に途絶えましたか、つい最近G県の子供たちの事件があった後によみがえりました。

微かな生体反応から確認できた場所が奈良で、市内の数カ所で捜査員が彼女を目撃している上に繁華街や小学校の防犯カメラにまで映っています。

チップの反応が消滅した理由は、事故の衝撃によって結衣子が現在からずっと先の空間にワープしてしまったからです。

山科早夜香の夢札に出てきた3月14日は2日後に迫っていて、彼女が夢で見ていたのは未来に飛ばされた結衣子の姿でした。

【結】夢違 のあらすじ④

 

春の夢殿でめぐり会う

3月14日の午前8時、古藤結衣子の目撃情報を頼りに浩章は人気のない法隆寺の石畳の上をゆっくりと歩いていました。

黒い門の中に入って回廊に沿って五重塔の側を歩いていくと、夢殿と名付けられた八角形のお堂が見えてきます。

夢殿が完成したのは聖徳太子の死後ですが、いまだに謎の多い建造物で造られた理由もはっきりとは分かっていません。

あらゆるものが可視化されていく中で、これから先は夢ばかりではなく人々の意識や時間の流れまで見ることができるようなるでしょう。

この世界に戻ってくることができた結衣子が考えていたのは、自分の見る恐ろしい夢を良い夢へと変える方法です。

この場所には彼女の願いかなえてくれそうなものが古くから存在して、夢殿の中にある夢違観音像は嫌な夢を見た時に祈ると良い夢に変えてくれるという民間伝承がありました。

仏像の前に立った浩章は手を合わせて目を閉じて、しばらくの間は一心不乱に結衣子が良い夢を見られるように祈ります。

ようやく目を開けた浩章は仏像と自分とを隔てるガラスの中に、笑みを浮かべて歩いてくる若い女性の姿を見るのでした。

夢違 を読んだ読書感想

仕事に追われて妻との時間がなかなか持てない主人公の野田浩章が、亡くなったはずの兄のフィアンセを目撃するオープニングが幻想的でした。

美しい容姿ながらも数奇な運命をたどっていく、異色のヒロイン・古藤結衣子もミステリアスな雰囲気を漂わせています。

都会から山奥の小学校へと導かれて、桜のシーズンを迎えた古都・奈良を終着点としたストーリー展開も味わい深いです。

夢を映像として記録できるようになった近未来の世界が舞台になっていますが、決して荒唐無稽とは思えません。

VR技術が現実化した今となっては、夢が研究対象やビジネスチャンスになることも十分にあり得る話でしょう。

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