「月の裏側」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

月の裏側

【ネタバレ有り】月の裏側 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:恩田陸 2000年3月に幻冬舎から出版

月の裏側の主要登場人物

塚崎多聞(つかざきたもん)
主人公。大手レコード会社でプロデューサーをしている。トラブルに巻き込まれやすい。

三隈協一郎(みくまきょういちろう)
元大学教授。多聞はかつての教え子。

藍子(あいこ)
協一郎の娘。嫁ぎ先の京都の料亭の若女将。多聞の大学時代の後輩でもある。

高安則久(たかやすのりひさ)
大手地方新聞の箭納倉支部長。体育会系。

白雨(はくう)
協一郎が飼っている猫。不思議な能力を持っている。

月の裏側 の簡単なあらすじ

大学時代の恩師である協一郎に呼び出された多聞は、突如失踪した人々が、記憶を失くして帰ってくるという事件について知ることとなる。

地元の新聞記者である高安、協一郎の娘である藍子と共にその謎を追うことになり、四人は失踪した人々は何かに「盗まれ」、共通の意識を持つようになって帰ってくるのだという結論に行き着く。

そしてある日、街の人々が一斉に「盗まれる」自体となる。

高安、そして協一郎と藍子も盗まれた後戻って来ると世間が大きな騒動となる中、それぞれの生活に戻って行く。

月の裏側 の起承転結

【起】月の裏側 のあらすじ①

謎の失踪

主人公の多聞は協一郎からの電話で箭納倉 (やなくら)へやってきます。

箭納倉はかつて築かれた箭納倉城と中心とした街で、街中を割掘がめぐっています。

この街で、三人の女性が失踪するという事件がおきました。

その事件の不思議なところは、失踪した女性たちがその間の記憶を失くしてある日ひょっこり帰ってきたということでした。

二人(と協一郎の飼い猫である白雨)は川下りの船に乗り、その途中協一郎が以前住んでいたという家を目にします。

協一郎は弟夫婦が住んでいたその家に一人で住んでいましたが今は引っ越しており、その理由について「堀に面していたから」と答えることが多聞は気になっていました。

多聞がふと思いついて、失踪した三人の共通点について全ての家がお堀に面していたことを口にすると協一郎の顔色が変わります。

すると、船を降り入った鰻屋で、多聞は新聞記者である高安を協一郎に紹介されます。

高安は失踪した人々のインタビューした記録を持っているといい、実は協一郎が箭納倉に帰ってきたのも、協一郎の弟夫婦が失踪したことがきっかけで、その縁で高安と出会ったのだと話します。

インタビューのテープを再生して聴くと二番目に失踪した老婦人と初めに失踪した人の背後に気になる音がすることに気がつきます。

三人目のテープからはその音はしませんでしたが、三人ともに恐怖感を感じていないこと、むしろすっきりしているような証言をしていることから同じ原因で失踪したのではないかと多聞は推測しました。

また、最初に失踪した老婦人が「暗いところでぐっすり寝た」三番目の夫人が「仰向けで星を見た」と話したことも似た体験ではないかを話します。

【承】月の裏側 のあらすじ②

それぞれの仮説

高安と会った協一郎と多聞は、帰りにレコードを探しに以前の家に立ち寄ります。

すると鍵が開いており、協一郎の娘の藍子が姿を表わします。

三人は協一郎の家に戻ると夕飯にし、その後多聞は藍子をホテルに送っていきます。

実は、多聞は藍子がいた部屋に入った時、部屋全体が濡れているように見えたのですが、それを話すと藍子は中学生の頃、自分も箭納倉でお堂が濡れたように見えたことがあるのだと話します。

そして、多聞が協一郎の家に帰ると、放していた白雨が姿を見せ、何やら耳のようなものを吐きだします。

よく見るとそれは精巧な作り物で、協一郎は白雨はこれまでも耳や指のような物を持ち帰ったといいます。

何らかの有機物でできており、数日すると縮んで消えてしまう謎の物体は、白雨がどこかにある人間もどきから千切ってきたもので、それは失踪事件に関係していると協一郎は考えているようでした。

さらに次の日、協一郎の家の隣人が失踪してしまいます。

手がかりを求めて図書館に向かった多聞と藍子は、水のようなものが押し寄せて犬とボールとさらって行くのを目撃します。

その夜、協一郎と高安、多聞と藍子はその件について話し合うと藍子は次のような仮説を述べます。

それは、箭納倉の堀には水に似た生命体がおり、時々岸に上がってはそこに居合わせた人を「盗み」限りなく似ているけれども別の生命体でできたにせものをつくって返しているというものでした。

そして返ってきた協一郎の弟夫婦の様子から、「盗まれた」人々は同じ意識の支配下にあるようだと協一郎と藍子は話しました。

【転】月の裏側 のあらすじ③

何かの始まり

それぞれに事件についてさらに調べることにした四人。

高安は前任者の日誌を調べ始めます。

すると日誌には連続した失踪事件に「?」がつけられていることと、その横に「農協倉庫?」とメモ書きがしてあることに気がつきます。

前任者に問い合わせると、深入りしないように釘を刺された上で、小林武雄という人物を紹介されます。

また、失踪した人を農協倉庫の備蓄倉庫で見かけたという噂があったことを明かします。

気になった高安は農協倉庫へ行き、何気無く気になった下水の蓋と思われる鉄の蓋をあけ何かを見たのでした。

協一郎はというと、小林武雄の元を訪れていました。

協一郎は、武雄が以前からこの謎について知っていたと感じていました。

武雄は「あれ」につかまると皆ひとつになってしまうため、人類は多様性を保つために「あれ」から逃げてきたはずだと話します。

けれども、今無意識のうちにひとつになりたいと思っているのかもしれないと続け、足に注意しなさいと忠告します。

寝ているときは裸足だから「盗まれる」のだと武雄は言います。

そして、謎の音の行方を探っていた多聞は子供達が持っていた鳩笛がその音にそっくりであることに気がつきます。

そして、鳩笛に似た音は何かに呼応して発せられていること、こちらが存在に気が付いたことを向こうもわかっているのではないかということに思い至ります。

藍子はというと、買い物に出かけたコンビニに車が突っ込んでくる事故に居合わせると、その場にいた人々が全く同じ動きをしたことに動揺します。

そして、協一郎の家に戻るのですが、今度はお隣の家に何か黒い影がよぎった気がして覗きに行き、半分が溶けたような不完全な形で戻ってきたように見える隣人を目撃するのです。

その夜、四人はそれぞれの目にしたものを話し合い、何かが起ころうとしていることを確信します。

【結】月の裏側 のあらすじ④

そして盗まれた

翌朝、四人が起きるとテレビもラジオもつかなくなっており、動物も人もいなくなっていました。

電話も繋がらず、外部とは遮断されているようでした。

四人は高安が昨日何か見たらしい農協倉庫に向かうことにします。

そしてそこでたくさんの人間のパーツが水に浮かんでいるのを目にします。

農協倉庫は堀の下流にあり、そこにとどまって再生されているようでした。

四人は農協倉庫の地下貯水槽を定点観測し、「盗まれ」ないように長靴を履いて寝ていました。

そして、藍子は塞ぎ込むことが多くなっていました。

数日後、長靴を脱いで寝てしまった高安は盗まれてしまいます。

その夜、多聞は我々が「盗まれて」いないのはすでに「盗まれて」いるのか、それとも長靴を履いているからなのかはわからず、いつか「盗まれる」かもしれない。

自分が「盗まれて」いるのかを知るには長靴を脱いで寝るしかないと話します。

それを聞いた協一郎と藍子は最終的に賛同し、長靴を脱いで寝ることにしました。

すると翌朝、多聞はなぜか長靴を履いて目が覚めます。

多聞は協一郎の悪戯かもしれないと考えます。

それから多聞は、以前インタビューを聞いて印象に残っていた三番目に失踪した女性の家に向かい、やはり「盗まれた」ことのある人は残っているということを確かめます。

家に帰ると、高安が帰ってきていました。

多聞はその印象について、何か得体の知れない化け物になってしまったのではなく、それまで親しくしていた人が違う道を選んだときに感じる淋しさや虚しさに似ていると語ります。

高安はこれまでとった記録は混乱を招くだけだから公開せず、これからのことを取材すると話、支局へ戻って行きました。

それから協一郎と藍子も戻ると箭納倉の街は大騒ぎになっていました。

混乱に乗じて多聞が帰ってしまうということと、自分が「盗まれて」しまったことに絶望する藍子でしたが、次第に落ち着きを取り戻し、新たな始まりを感じるのでした。

月の裏側 を読んだ読書感想

恩田陸の作品は様々なテイストのものがあり、読んでみないとどのような展開になるのかわからないところがあるように感じます。

この「月の裏側」は水に似た何らかの生命体がおり、お堀を通じて人々が「盗まれる」というSFのような展開でした。

気がつくと気味の悪い展開になっていて、怖いけれど先が気になってしまい一気に読み進めました。

多聞を中心にそれぞれの視点や記録で語られるのですが、それがさらに物語の不思議さを引き立てます。

謎が明かされるところもあれば明かされないままのこともあり、何度も読み返して考えたくなりました。

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