【ネタバレ有り】パラレルワールド・ラブストーリー のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:東野圭吾 1995年2月に中央公論社から出版
パラレルワールド・ラブストーリーの主要登場人物
敦賀崇史(つるがたかし)
本作主人公。米国に本社を置くバイテック社社員。その企業が最先端技術の研究と社員の英才教育を目的に作ったMAC技術専門学校の視聴覚認識研究室員。
三輪智彦(みわともひこ)
崇史の中学生からの親友。崇史とともにバイテック社社員であり、MAC技術専門学校記憶パッケージ研究室員。
津野麻由子(つのまゆこ)
智彦の彼女。MAC技術専門学校記憶パッケージ研究室に新人として配属。一方で、崇史の恋人として存在する。
篠崎伍郎(しのざきごろう)
MAC技術専門学校記憶パッケージ研究室に麻由子とともに新人として配属。
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パラレルワールド・ラブストーリー の簡単なあらすじ
並行して走る電車のドア越しに、毎週火曜日に出会う女性に恋をしていた崇史。大学院卒業とともに出会う機会を失ってしまった。その後、職場を共にする親友智彦の彼女を紹介される。目の前に現れた津野麻由子という女性は、あの電車に乗っていた女性だった。一方で、目覚めた朝のある日には、麻由子は自分の恋人として朝食を作っている。時折断片的に思い出される過去の点と点を線で結んでも、現実には繋がらない。違和感を感じつつ過去の記憶と繋がらない現実世界、並行する二つの奇妙な世界に迷い込んでしまった崇史。行方が分からなくなってしまった親友智彦の所在をひも解くことで、パラレルワールドから果たして崇史は抜け出すことができるのだろうか。
パラレルワールド・ラブストーリー の起承転結
【起】パラレルワールド・ラブストーリー のあらすじ①
山手線と京浜東北線。
崇史は並行して走るその車両のドア越しに、毎週火曜日に出会う女性に恋をしていた。
大学院を卒業して就職してしまうとその機会がなくなってしまうラストチャンス、崇史は向こうの電車に乗って彼女を探したが出会えなかった。
しかし、再び彼の前に彼女が現れた。
それは津野麻由子。
中学からの親友智彦の彼女としてだった。
消ええぬ恋心を押し隠し、職場を共にする3人の関係に友情と嫉妬、恋愛に胸を締め付けられるながら、苦痛の日々を送ることになる。
複雑な感情を抱きつつ過ごす崇史であった。
一方で、ある朝目覚めると、そこには自分のために朝食を作ってくれている麻由子がいた。
僕の彼女である。
入社して2年が経っている。
二人の関係は職場でも公認。
しかしながら、どこかに違和感を感じる崇史であった。
またある時前方を歩く男の後姿を見て、唐突に一人の人物を思い出す。
三輪智彦である。
親友である智彦のことを思い出すのが久しぶりであった。
まず、そのことが崇史にとっては意外なことであり、更に彼が今どこでどうしているかわからない自分に驚く。
昨日見た夢の中で、智彦が出てきたことを思い出す。
まるで昨日の出来事を回想するかのようなリアリティがあった。
しかし、夢である証拠に、現実とは大きく異なる部分があったことを思い出す。
智彦が麻由子を自分の恋人と紹介していることだ。
あり得ない。
しかしながら、崇史は智彦を探すほどに彼の所在が分からなくなっていた。
【承】パラレルワールド・ラブストーリー のあらすじ②
智彦はロス本社にいることになっている。
しかし、国際電話をかけても直接本人と連絡とれず、翌日智彦からの郵便が会社のメールボックスに届く。
内容に不審な点が・・・智彦本人が書いたのではないと確信する崇史だった。
実家にも電話をかけてみる。
智彦の母と話すが母親の反応は極めて不自然なものだった。
智彦のアパートにも電話をかける。
おそらく引っ越したであろうと思われたが、意外にも留守番電話が応答した。
あらかじめ電話機にセットされている合成音であったが、崇史には聞き覚えがあった。
智彦の部屋はまだ存在している、そう確信してアパートに向かってみる。
室内は嵐がきたかのような有様。
ガラスは割れていない、カギは施錠されている。
抜き取られた形跡のあるアルバム。
MACでの研実験結果、報告書ファイル、FD・MD・カセット・ビデオテープ、情報が書き込めるもの全てがなくなっていた。
侵入者が奪っていったのか、侵入者の正体とその目的を探ってみようと思うのであった。
またとある日、智彦の彼女を紹介された時に同席していた夏江に出会う。
彼女の話では智彦に紹介された女性は麻由子という名だったと告げられる・・・確かに記憶のどこかで4人で乾杯していた記憶が〜しかし、だとしたら何故麻由子はそのことを黙っているのか。
何故、自分はその記憶を思い出せなかったのか。
何故、智彦の存在を今まで忘れていたのか。
そして、何故智彦は忽然と自分の前から姿を消してしまったのか。
かすかな過去の記憶と現実が繋がらない事実に気付き始める。
【転】パラレルワールド・ラブストーリー のあらすじ③
「とにかくすごいんだよ。
詳しいことは言えないけど、画期的なことなんだ。
リアリティ工学の常識を根底から覆す大発見といえるだろうな。」
そう興奮した口調で話していた男は智彦の下に配属された篠崎研究員。
篠崎君もまた姿を消していた。
退職したという。
MAC卒業を前に行われた研究発表で崇史は一位の評価をされた。
智彦の班もかなりの成果を上げていたはずなのに、当日の場内で紹介された発表者は智彦の上司である須藤教官であった。
共同研究者の席にも智彦の姿は見当たらない。
発表のテーマにしても納得がいかない。
すでに確認されていることをなぞっているだけとしか思えなかった。
どうやら智彦たちのその研究発表は公にされず、密かに研究室内に要人を招き入れて行われたようだった。
それなりの成果「リアリティ工学の常識を根底から覆す大発見」であることを認めざるを得なかった。
その結果二人がロス本社行きに選ばれた。
今年は特別3年から退職までの研究を想定しているとのこと。
二人にとっての夢であった。
にも拘らず、崇史は智彦不在の間に麻由子に接近できることをもくろみ、ロス行きを辞退する。
智彦への敗北感、憧憬、驚嘆、そして嫉妬に他ならなかった。
時折断片的に思い起こされる記憶と現実の相違、違和感、記憶が正常に戻るまで実家に身を潜めることにした崇史であったが、およそ40時間目覚めず眠り続け病院に運ばれる。
医師によると、脳障害は起こしてないが、脳波の状態が変わっていると告げられる。
夢をたくさん見ている状態であった。
【結】パラレルワールド・ラブストーリー のあらすじ④
記憶改編が意図的に行われたことに間違いない。
方法はすでに開発されている。
そしてそこには公表できない事情がある。
そう確信した崇史は、同僚景子の力を借りて立ち入ることのできない資材倉庫への潜入を試みる。
室内の更に鍵のかかった奥の部屋へ侵入すると、そこには2台のベッドがあり、横たわる二人は智彦と篠崎に違いなかった。
二人には脳波計と生命維持装置が接続されている。
「すべて思い出したかね。」
背後からの声は二人の上司須藤である。
「この二人はまだ死んでいる。」
「君が生き返らせるんだ。」
それはアメリカ本社行きの辞退の理由を全く理解していなかった智彦に対して、崇史は心の制御が不能となり今まで隠していた自分の麻由子への想いを告げてしまったあの時のことだった。
全く崇史の気持ちに気づいていなかった智彦。
その時彼は決断したのだった。
自分から離れていく麻由子自身の気持ちと、篠崎くんが記憶の混乱を起こして昏睡状態になってしまったこと、彼の貴重な将来を奪ってしまった2つの解決策を実行する。
スリープ状態を引き起こす条件を見つけることで解決策をみいだせるとの考えから、自分が実験台になり篠崎くんの事故の再現実験を行うことだった。
麻由子の記憶を消し去りシュミレーションするというものだった。
躊躇する崇史に対してこの辛い今の自分を助けてくれと懇願する。
行程の途中、友情としてなすべきことに気づく崇史であったが、時すでに遅く気付くと異常を示すエラーが起こっていた。
崇史はすぐに智彦の上司である須藤に事態を報告していた。
須藤としては事態の収拾に努めるが、もとにしたい智彦の研究データはどこにも見当たらない、崇史に渡したのだと気づいた時には・・・崇史は自分が親友を裏切り、恋人を奪い、智彦を自殺同然の状態に追いこんだという事実から逃れたくて実験室の被験者椅子に座っていたのだった。
パラレルワールド・ラブストーリー を読んだ読書感想
崇史はどう行動すれば良かったのだろうと考える。
電車での出会いを逃してしまった時点でその恋を諦めるべきだったのか。
淡い恋心を抱いていても構わないだろう。
智彦に紹介されたときに思いを告げるべきであったか。
告げられないであろう。
であれば、崇史がしていたように気持ちを最後までひた隠しにすべきであったか。
押さえ込んだ感情はかえって気持ちを募らせるものかもしれない。
ラブストーリーだけを追えば切ないものの、よく起こりうる話かもしれない。
ここでは、最先端技術の研究に携わる二人だからこそ研究の成果を妬む気持ち、それを利用できる立場、複雑に絡み合う感情とその技術に翻弄されてリアルミステリーを巻き起こしてしまったと言えるのであろう。
記憶・・・決して忘れたくなく心に刻み込んでいる記憶もあるが、多くは歳月とともに薄れていってしまう。
時折、季節や肌に感じる風、香り、匂い、音楽、なんらかのきっかけで鮮明に思い出されるものでもある。
楽しいこと嬉しいこと、時には苦い思い出、辛いものまで。
でもすべて今の自分はそれらで出来ている。
覚えていても覚えていなくても。
バーチャルリアリティー・記憶の改編、この物語で出てくる研究は切ない現実から逃避できる術であるかもしれないが、私たちはリアルを受け留める心を鍛えていく必要があるのではないかと改めて思う。
人工知能などの技術が進む現代、人間社会は合理的に、関係性は希薄に、個が尊重され、効率重視、より進化を目指しているはずなのに、児童虐待、介護放棄、いじめ、自殺、精神世界は益々複雑に入り組んでしまっているように感じる。
取り残されてしまう心を想う。
自然に、シンプルに、心の解放と信頼関係が人と人をやさしく交われる世界を作りえないものだろうか。
いつまでも交わることのない平行線を辿るパラレルワールドでなく、目指すは人と人とがふれ合い、励ましあい、支えあう、クロスワールドであってほしい。
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