【ネタバレ有り】くまちゃん のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:角田光代 2009年3月に新潮社から出版
くまちゃんの主要登場人物
岡崎ゆりえ(おかざき ゆりえ)
その日暮らしを愛する29歳のフリーター。持田英之とリゾートバイト先で出会い、すぐに同棲を開始。平穏な日々を過ごしていたが、長年ファンだった保土ヶ谷槇仁と知り合い、急遽英之との付き合いを解消、槇仁の自宅に転がり込む。
保土ヶ谷槇仁(ほどがや まきひと)
バンドブームに乗じメジャーデビューし、一時人気を誇るが現在は活動も下火に。ゆりえがファンだと知り、接触をはかる。バンドマンだが一途で私生活では驚くほど物静か。
林さより(はやし さより)
槇仁の叔母のような存在で、槇仁家族とは家族ぐるみの付き合い。槇仁の自宅の合鍵を持っており、上がり込んでは手料理を冷蔵庫に置いていく。
持田英之(もちだ ひでゆき)
ゆりえの元彼氏。ゆりえと付き合う前までは根無し草のような生活を送っていたが、ゆりえと出会い改心する。
くまちゃん の簡単なあらすじ
岡崎ゆりえは29歳のフリーターで、持田英之とリゾートバイト先で出会い、すぐに同棲を開始します。穏やかな同棲生活を送る2人でしたが、ゆりえは転職したゲーム会社で長年ファンだったバンドマン・保土ヶ谷槇仁にインタビューしたことをきっかけに関係を持つように。そして一方的に英之との付き合いを解消し、泣かされることを覚悟で槇仁の自宅に転がり込みますが、予想外に槇仁は一途で、林さより以外の女の影はありませんでした。さよりは叔母のようなもので気にしなくていいと説明を受けますが、我が物顔で槇仁の家に出入りするさよりにゆりえは困惑を深めていきます。
くまちゃん の起承転結
【起】くまちゃん のあらすじ①
岡崎ゆりえは29歳のフリーターで、持田英之とリゾートバイト先で出会い、お互い住む家を探していたことがきっかけでルームシェアを開始します。
流れで付き合いようになった二人は穏やかな同棲生活を送りますが、ゆりえは転職したゲーム会社で長年ファンだったウッドペッカーズアスホールというバンドのボーカル・保土ヶ谷槇仁にインタビューしたことをきっかけに関係をもつようになります。
ゆりえにとって槇仁はアイドルのような存在で、二十歳の時に渋谷の路上ライブで姿を目にして以来、ライブハウスに通ったり、CDを買うのはもちろんのことインタビュー記事を切り抜いたり、ファンというより、いつか本人と出会って恋に落ちたいという少女的な心情で槇仁を追い続けていました。
実際にそれが叶い、ミュージシャンという職業柄、女癖が悪かったり突然家から追い出されることも念頭に置きつつ、それでも憧れだった槇仁と暮らすことを選んだゆりえは一方的に英之との同棲生活を解消し、槇仁の自宅に上がり込みます。
【承】くまちゃん のあらすじ②
予想に反し、プライベートの槇仁は真面目で物静かな男で、ゆりえ以外に女の影はありませんでした。
趣味はゲームで、ゆりえの手料理は食べずジャンクフードを好み、服装にこだわりがなく、未だに実家から送られてくる量販店で売っているような洋服を着ている槇仁の姿を見てもゆりえは失望しませんでした。
ゆりえにとって槇仁はアイドルで、一緒に生活できるだけ幸せでした。
それまでのゆりえは、束縛されることを嫌い、友達と夜遅くまで飲み歩くこともしばしばで、そんな自分が好きでした。
しかし、槇仁と暮らしてからは、彼以外のことすべてが色褪せ、興味がなくなってしまいました。
槇仁との時間を優先する為に仕事を変え、友達付き合いもしなくなりました。
そんなゆりえの唯一の不満は、林さよりという槇仁の叔母のような女性の存在でした。
さよりは槇仁の自宅の合鍵を持っており、我が物顔で部屋に上がっては、手料理を冷蔵庫へ入れて帰っていきます。
はじめこそ、ジャンクフードばかりの槇仁の体を心配していたゆりえはさよりの厚意に感謝し、家族ぐるみの付き合いだというさよりから、幼い日の槇仁の話を聞くのを楽しんでいましたが、結婚をそれとなく反対されてから、さよりの行動に疑問を持ち始めます。
【転】くまちゃん のあらすじ③
槇仁が所属している事務所から賃貸契約を切られることになり引っ越すことに決めた二人は準備に追われていました。
レコーディング中の槇仁に代わり、部屋で一人荷物を梱包していたゆりえの元にさよりが遊びにきます。
いつものよう紙袋いっぱいの総菜を冷蔵庫に詰め込んださよりは、槇仁から聞いたであろう新居について言及し、ゆりえを暗い気持ちにさせます。
何故、成人して彼女と住んでいる家に手料理を作ってやって来るのか、落ち目で結婚しても人気に影響はないのに反対してくるのか。
一つ気になると、さよりのあらゆることが気になり、さよりに対して何も言わない槇仁に対しても怒りがこみあげます。
新居に引っ越すまでに、さよりとの関係を断ち切って欲しいゆりえは賭けにで、槇仁に自分とこれからも生活を共にしていきたいか問いかけます。
それに対し槇仁は『引っ越し先、気に入らなかった?』というとんちんかんな返答。
ゆりえは、槇仁が槇仁である限り、勝負は決まって槇仁の勝ちであることを悟ります。
引っ越し当日、荷物の梱包が終わらず片付けしている二人の手伝いに駆け付けたさよりは、手際よく荷物を整理していきます。
槇仁とさよりは会話らしい会話はせず、さよりは荷物をまとめあげると早々に帰っていきます。
その後ろ姿を見て、ゆりえは猛烈な敗北感に襲われます。
そして、槇仁に別れを告げます。
【結】くまちゃん のあらすじ④
槇仁と別れたゆりえは、新たに住む家を見つけ新生活を始めます。
突然別れを切り出された槇仁は困惑しますが、ゆりえは最後まで本音をぶつけることができませんでした。
槇仁と付き合う前に別れた英之の言葉が蘇ります。
『おまえのほしいものって、そんなものだったわけ?』槇仁と付き合っていたゆりえは、最初から最後までグルーピーのようでした。
別れてしばらくは槇仁とさよりの残像に苦しんだゆりえでしたが、イベント会社に就職し、昔の友達と飲み歩き、徐々に本来の自分に戻っていきます。
そして、気づけば若おばさんと思っていたさよりと同い年になっていました。
ある日、会社の後輩に誘われた合コンの二次会でカラオケに行くことになります。
ゆりえを気に入った男性から、好きなアーティストを聞かれ、槇仁のバンド・ウッドペッカーズアスホールの名前を挙げます。
カラオケにはまだ数曲登録されていました。
イントロが流れ始めると、画面にライブ映像が流れます。
まだ若く、ゆりえが観客として見ていた頃の槇仁がそこには映っていました。
ボロボロと涙を流し、ゆりえは声をはりあげて熱唱するのでした。
くまちゃん を読んだ読書感想
『くまちゃん』は連作短編集で、片思いされていた登場人物が次の物語では振られる側になり、立場が逆転する構成になっています。
今回紹介したのはとくに好きな話で、ゆりえが恋される『アイドル』と、こっぴどく失恋する『勝負恋愛』の二つです。
強気で飾らない性格だったゆりえが、長年ファンだった槇仁と付き合うことで、自分が見下していたタイプの女性に成り下がっていく様子が痛々しくも可愛く、読み終わる頃にはゆりえが愛しくなっています。
巻末の『乙女相談室』では、失恋から立ち直り、新たな恋をするゆりえの姿が描かれており、ほろりとしてしまいました。
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