「彼女のこんだて帖」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|角田光代

「彼女のこんだて帖」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|角田光代

【ネタバレ有り】彼女のこんだて帖 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:角田光代 2006年9月にベターホーム出版局から出版

彼女のこんだて帖の主要登場人物

工藤衿(くどう えり)
夫と一人娘に囲まれて毎日穏やかな日々を送る主婦。満ち足りた生活を送っていたが、唐突に変わり映えのしない日常に嫌気がさし、主婦業のストライキを決行する。

工藤憲一(くどう けんいち)
衿の夫でサラリーマン。妻からの突然のストライキ宣言を受け、その日の晩「ミートボール入りトマトシチュー」を作る。

工藤春香(くどう はるか)
衿と憲一の一人娘。最近おしゃべりが出来るようになり、しつこいくらい繰り返す。セロリと椎茸とピーマンが苦手。

久喜桃子(くき ももこ)
衿の家の近所でブティックを構える女性店主。四十代半ばで美人でお洒落。

彼女のこんだて帖 の簡単なあらすじ

工藤衿は、最近おしゃべりを覚え始めた幼い一人娘の春香を育てながら、サラリーマンの夫・憲一と三人で暮らしています。家族のために、洗濯をして掃除をして、夫のワイシャツをクリーニングに出し、食材を買い出ししてご飯を作る、そんな変わり映えのしない毎日に埋もれていたある日、近所にブティックが開店していることに気が付きます。中が気になり外からのぞくと、ブティックのショーウインドウに映る自分の姿に茫然とします。片手にはスーパーの袋をぶら下げ、もう片方は娘の春香と手をつなぎ、おしゃれからは程遠い自分自身が映っていました。唐突に嫌気がさした衿は、憲一にメールで主婦業のストライキを宣言します。

彼女のこんだて帖 の起承転結

【起】彼女のこんだて帖 のあらすじ①

いつもの金曜日

とある金曜日、主婦の工藤衿は午前中に洗濯と掃除を終えて、昨日の残りものに簡単に手を加えた昼食を娘の春香と食べ、春香が昼寝している間に買い出す物をメモにまとめています。

午後三時過ぎ、昼寝を終え目覚めた春香を連れ、今日中に片づけることー夫の憲一のワイシャツのクリーニングの受け取りや、薬局でトイレットペーパーを調達し、スーパーで晩御飯の買い出しを済ませ、いつもとまったく変わらない時間を過ごしていました。

一人娘の春香は最近おしゃべりを覚え、道中衿にひっきりなしに話しかけます。

『ママ、あのね、プールいつやる?』梅雨もまだ先なのに、真夏のような陽気の中を春香と歩く衿。

プール、プールとせがむ春香に、衿はもう少しして、雨が降らなくなったら、パパがベランダに出してくれるよと説明しますが、春香は引き下がりません。

『雨、ないない』と繰り返します。

今日は降ってなくても、あと何日かしたら梅雨という季節がやってきて、そうしたら肌寒くなって、プールどころではなくなって……という説明をするのが唐突に、猛烈に面倒くさくなります。

【承】彼女のこんだて帖 のあらすじ②

ブティック「フラン」

しつこい春香にイライラしつつ、せかせかとスーパーを目指す衿。

まだ幼い春香は、そのスピードについていけず『ママー、はーやーいー』とクレームを言いますが、聞き流して歩き続けます。

商店街を抜けスーパーに着くと、夕方にはまだ早い時刻で、衿のような主婦がのんびりと買い物をしています。

メモの通り食材をカゴに入れていく中、お菓子売り場で春香が、これが欲しい、あれが欲しいとぐずるのも、買い終えた袋の重さにげんなりするのもいつも通りです。

用事を済ませ、家に帰ろうとした道で、先月まではあまりお客が入っていなかったラーメン屋が、ブティックに変わっていることに気が付きます。

開店したばかりで、軒先には見事な花がいくつも並んでいます。

中が気になり、ショーウインドウ越しに店内の様子を窺うと、四十代半ばくらいの女店主がにこやかに接客していました。

マネキンが着ているあざやかな花柄のワンピースや、白いフレンチスリーブにストライプのフレアスカートが眩しく、ショーウインドウに映る自分の姿がどこからどう見ても「ザ・主婦」にしか見えず、それまでは動きやすくて、清潔感があると思い気に入っていた今日の恰好が色褪せて見えました。

【転】彼女のこんだて帖 のあらすじ③

ストライキ宣言

結局「フラン」の店内には入らず、その場を後にした衿は、それまで自身でも気が付かなった鬱憤が溜まっていることを自覚します。

毎日同じことの繰り返しで、憲一はありがとうさえ言わず、自分が不当で理不尽な目に遭っているとさえ感じ、春香がプリンをせがむのを無視して、憲一に『今日からストライキに突入します。

家事はすべて放棄します。

こちらの要求は、温泉旅行もしくは夏服一揃えもしくはブランドもののバッグ。

』とメールを送信します。

七時前に帰宅した憲一は、両手にレジ袋をぶら下げていました。

晩御飯を作るようです。

衿はその様子を傍観しています。

憲一は玉ねぎや、椎茸、ピーマン、セロリ、パプリカやズッキーニをみじん切りにし、ニンニクを炒めだします。

春香を呼び、二人でひき肉を丸め、ミートボールを作る様子を見つめながら、衿は、結婚した時こんなふうな家庭を作りたいと思ったことを思い出します。

春香の作った、かたちにならないひき肉を、憲一は素早く丸め直していき、着々と料理は進んでいきます。

【結】彼女のこんだて帖 のあらすじ④

ミートボール入りトマトシチュウ

完成した料理は「ミートボール入りトマトシチュウ」でした。

サラダもつけあわせもなく、薄く切った朝食用のバゲットがテーブルに置かれています。

栄養不足を心配したのが顔に出ているのか、不安げな衿に憲一は、野菜がたっぷり入ってるから、これ一品で栄養ばっちりと説明します。

たしかにトマトスープにはたくさんの野菜が色鮮やかに浮かんでいました。

春香が嫌いなセロリと椎茸とピーマンも入っています。

細かく刻まれているので、春香はそれに気づかずパクパク食べています。

衿は一口食べて、その味に思わず『おいしい!』と感嘆の声をあげます。

肉だけではない、たくさんの野菜の味とタイムやオレガノのハーブの風味がします。

夢中で食す衿の横で、憲一は恐る恐る声を掛けます。

メールした三つの要求の件です。

衿の中で四つ目の要求が思い浮かびました。

それは「一か月に一度、夕食を作ること」です。

温泉もバッグもいらない。

それだけいいからと言う衿に憲一は目を丸くして『そんなんでいいの?』と聞いてきます。

『じゃ、二週間に一度』と付け足すと、憲一はレパートリーが持つか心配し始めました。

衿はさらに、おいしいものを食べたら、ただしくリアクションすることを要求に付け足します。

予想外だったのか、憲一は『え、おれいつもおいしいって言ってない?』と聞き返します。

ときにはお礼も言うことと衿が続けると、やっと憲一は日頃の態度を謝ります。

こうありたいと願った光景の中で、衿は笑っていました。

彼女のこんだて帖 を読んだ読書感想

料理にまつわる15編の短編が収録された『彼女のこんだて帖』の中から、主婦がストライキ宣言をして、夫から夕食をふるまってもらう『ストライキ中のミートボールシチュウ』をご紹介しました。

安定した生活に満足している主婦の衿が、自身でも気が付かない間に鬱憤が溜まっていて、爆発するまでが丹念に描写されています。

そこで登場するのが、夫がふるまうミートボール入りの野菜たっぷりトマトシチュウです。

季節は梅雨が目前に迫った蒸し暑い頃で、トマトのさっぱりとしたシチュウがよく合います。

まだ小さい春香も美味しく食べれるように、子供が大好きなミートボールも入っていて、よく考えられているなーと感心しました。

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