監督:西川美和 2021年2月にワーナー・ブラザース映画から配給
すばらしき世界の主要登場人物
三上正夫(役所広司)
人生の大半を刑務所で過ごしてきた男。13年の刑期を終えて旭川刑務所を出所し、上京する。
津乃田龍太郎(仲野太賀)
小説家志望の元テレビマン。三上を取材してドキュメンタリーを制作しようと画策していた。
庄司敦子(梶芽衣子)
三上の身元引受人の庄司弁護士の妻で、出所したての三上を温かく迎える。
下稲葉マス子(キムラ緑子)
三上の昔なじみの暴力団組長の妻。身を寄せた三上をもてなしたものの、組に警察の手が迫ったことを察知して逃がす。
松本良介(六角精児)
三上が万引きをしたのではないかと疑ったスーパーの店長。誤解だと判り、素直に詫びたことから不思議な交流が生まれた。
すばらしき世界 の簡単なあらすじ
役所広司さんが「少年時代からずっと刑務所で生きてきた元ヤクザの殺人犯」を演じたヒューマンドラマです。
前科者で、現実社会とのズレに悩み、苦しみながらも懸命に生きていく三上正夫。
東京の下町で慎ましく生きようとする彼の前には様々な問題が生じてきますが、その世知辛さと理不尽のなかにもふとした瞬間に小さな幸せが見えてきました。
しかし、それはそう長くは続かなかったのです。
すばらしき世界 の起承転結
【起】すばらしき世界 のあらすじ①
三上正夫は殺人を犯して旭川刑務所に服役していました。
その刑期は13年。
彼は母親に捨てられて養護施設で育ち、そこを出てから道を外れ、少年院から始まって人生の大半を塀の向こう側(刑務所)で生きてきたのです。
ようやく出所が決まり、刑務官らに見送られて娑婆に出てきた彼ですが、世界は大きく様変わりしていました。
そんな彼を上野駅まで迎えにきてくれた弁護士の庄司は、自宅に招き入れて温かいすき焼きを振舞ってくれたのです。
庄司の妻・敦子はなにくれとなく三上を気遣い、優しい言葉をかけてくれました。
三上は下町の小さな古いアパートで暮らし始め、仕事を探すようになりましたが、運転免許は失効し、なかなか仕事が見つからず生活保護を受給することになりました。
役所の窓口でも渋い顔をされてしまい、世間の厳しさを噛みしめていたのです。
そんなある日、三上は買い物をしていたスーパーで万引きの疑いをかけられました。
しかし、それは間違いであったことがわかり、店長の松本は懸命に謝罪してくれたことから、三上との間に不思議な友情のようなものが生まれていきます。
【承】すばらしき世界 のあらすじ②
三上は、もともと無戸籍で母親に捨てられた子供でした。
施設に置き去りにされて、母親は行方知れずです。
そんな彼は顔も覚えていない母親を探し出したくて、一縷の望みをかけて人探しをしてくれるテレビ番組に自分の履歴を送っていました。
それがプロデューサーの吉澤の目に留まり、彼女は元スタッフで手が空いている津乃田に取材の依頼をしました。
津乃田は三上が前科者でしかも殺人犯だったことに恐れをなして及び腰になっていましたが、ギャラを提示されてその仕事を引き受けることになったのです。
そして津乃田は三上が送って来た履歴『身分帳』を読むことになりました。
分厚いそれには三上の哀しい生い立ちや前科、そして別れた妻たちのことが描かれていたのです。
三上に接触した津乃田は少しずつ彼の今を取材し始めましたが、その頃の三上は運転免許の再取得がうまくいかずに悩んでいました。
そんな頃、上司の吉澤と津乃田と三上の三人で焼き肉屋に立ち寄り、番組について話し合ったのです。
三上はただ、母親を探したいだけで、前科者のドキュメンタリーを作って欲しいわけではなかったのですが、吉澤は彼を懐柔して番組制作の本格的な取材を受け入れさせました。
【転】すばらしき世界 のあらすじ③
穏やかな顔で焼き肉屋を出た三上でしたが、その直後にサラリーマンが二人のチンピラに絡まれているところに遭遇します。
三上はその場に突撃し、あっという間に二人のチンピラをボコボコにして制圧してしまいました。
吉澤は『撮れ!』と命じましたが、津乃田は余りの恐ろしさにカメラを回すことができなかったのです。
吉澤はそんな津乃田に「撮れないなら喧嘩を止めろ。
お前のようなハンパ者には何も救えない」と吐き捨てたのでした。
そしてテレビの企画が頓挫して絶望してしまった三上は故郷の福岡の知己を頼って飛行機に飛び乗ったのです。
身を寄せたのは昔なじみの暴力団の組長のもとでした。
しかし法律が厳しくなったことで稼業も思うようにいかず、そこも安住の地ではありませんでした。
優しく迎え入れてくれた組長の下稲葉夫妻でしたが、ある日警察の家宅捜索が入り、裏口から下稲葉夫人が三上を逃がしてくれたのです。
鞄を押し付けて「娑婆の人間は、広いお空の下で生きられる」と言い、マス子夫人は餞別のお金を手渡しました。
三上はその思いを胸に、駆け出しました。
【結】すばらしき世界 のあらすじ④
三上は津乃田を呼び出して、子供時代を過ごしていた養護施設を訪れました。
あまりにも古い時代のことで記録も残っておらず、三上自身を知る人もいませんでしたが、その園歌を無意識に口ずさんでいた三上は、確かにそこに自分がいたのだということだけを確かめたのです。
津乃田は三上のことを知りたいと切望するようになっていきました。
東京に戻った三上には意外な申し出がありました。
彼の前科を承知で、受け入れてくれたのは介護施設です。
体力や忍耐力のある三上は重宝され、次第に居場所を作っていくことができたのです。
そのころ津乃田や松本が通勤用のぴかぴかの黄色い自転車をプレゼントしてくれて、その生活は安定していくように見えました。
しかし、三上は介護施設の中でさまざまな悪口やいじめが横行していることに気づいてしまいました。
ターゲットにされていたのは三上にも優しく笑いかけてくれる、障害をもったスタッフでした。
自分を守るために、そのスタッフのことを庇うこともできず懊悩していた三上に、彼は世話をしていたコスモスの花を分けてくれたのです。
その夜は台風でした。
たまたま帰宅中に、殺人事件の後で離婚した元妻から「会おう」と電話が入ったのです。
何かが変わっていく予感がありました。
しかし、嵐が去った翌朝、異変が起こったのです。
三上はアパートの部屋でこと切れていたのを発見されました。
津乃田が駆けつけたときには警察がその現場に到着しており、別れを告げることも出来なかったのです。
その場には松本や身元引受人だった庄司夫妻も呆然として立っていました。
台風一過の晴れた空の下で、孤独だった三上にも、心からその死を惜しんでくれる人がいたのです。
そんな三上の手には、数本のコスモスの花が握られていました。
すばらしき世界 を観た感想
見終わった直後には放心してしまうほど、秀逸な人間ドラマでした。
実話をもとにした作品ということでしたが、大人になってからの人生の大半を刑務所の中で過ごした三上という男の闇も、そしてようやくつかみかけた小さな光もすべて飲み込むかのようにして演じた役所広司さんの芝居の秀逸さに、心が震えます。
私が好きだったのは、弁護士の妻の敦子さんと、組長の妻のマス子さん。
社会のこちら側と向こう側で、三上のことを受け入れてくれた二人の女性の強さと温かさは本物でした。
器用な三上がミシンを使って作ってくれたトートバッグを抱きしめて「世界で一つ!」と喜んでくれた敦子さんは、ラストシーンでそれを手にしていました。
マス子さんは夫と組の危機に際して三上に類が及ばないようにとかばい、機転を利かせて逃がしてくれました。
その時の言葉が、ラストシーンの晴れ渡った空に繋がります。
英語版のタイトル『Under The Open Sky』は何とも象徴的だったなと感じました。
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