著者:原田マハ 2017年6月にKADOKAWAから出版
アノニムの主要登場人物
ネゴ(ねご)
パトリック・ダンドラン。オークション会社「サザビーズ」の花形オークショニア。
ミリ(みり)
真矢美里(まやみさと)。メガ・ミュージアム主任建築家。
エポック(えぽっく)
ゼキ・ハヤル。トルコ絨毯店経営者で美術史家。
ヤミ—(やみー)
ダリダ・フィオレンティーナ。ギャラリー経営者。
オブリージュ(おぶりーじゅ)
ジャック=フランソワ=フロマンタン=エリ=ド・ブルゴー=ドリュクレー。フランス貴族の末裔でラグジュアリーブランドのオーナー。
アノニム の簡単なあらすじ
謎のアート窃盗団『アノニム』の次のターゲットは、ジャクソン・ポロックの未発表作「ナンバー・ゼロ」です。
今回のパートナーに難読症の高校生、張英才(チョンインチョイ)を選びミッションに挑みます。
アノニムとは何か?アノニムの真の目的は?どうやって「ナンバー・ゼロ」を手に入れるのか?キラキラした世界で華麗に盗みを働くアノニムにスカッとさせられ、アノニムのアートに対する思いに熱くさせられる作品です。
アノニム の起承転結
【起】アノニム のあらすじ①
デモに参加する学生たちで溢れかえっている香港では、「香港会議展覧中心」の巨大ビルの中にある展示場でサザビーズ香港がオークション開催の準備をしています。
事前に落札したい作品を見ることができるプレビュー会場で、メインセールの超目玉作品ジャクソン・ポロック作「ナンバー・ゼロ」を目の前に、ミリとヤミ—、エポックとオブリージュが佇んでいます。
ポロックは「どうしたらピカソを越えられるのか」と常に考えていたらしく、カンヴァスを床に置き、その上を動き回って絵の具をまき散らす「カンヴァスを俯瞰する」という創作スタイルに辿り着いた画家です。
この作品は、世界の億万長者トップ20にランクインしている大富豪ボシュロム家のロレンダ所有のポロック未発表作で、修復家のネバネスが真作と鑑定し、オークショニアのネゴがオークションへ運び出すことに成功したものです。
二日後、インターナショナル・センタービルの103階では、ロレンダの15年来のコレクター仲間である蒋恩堂(ジャンエンタン)とネゴがロレンダ・ボシュロム相手にアフタヌーンティーの真っ最中です。
その周辺にあるメガ・ミュージアム(MM)の建設予定地で、ゲスト案内をしているミリのもとに、高校生の張英才と栄玉蘭(ロンユーラン)が二人でやって来ます。
担任が熱を出して校外授業で訪れる予定だったMMの見学が中止になったのです。
英才は難読症で、ダヴィンチもスピルバーグも自分と同じ症状を抱えていたと知ったとき、自分は天才だと確信しアーティストに憧れます。
デモで拘束された学生たちはアートの力で助けるという思いで、古ぼけた高層アパートの一室の床いっぱいに広げた新聞紙に、真っ赤なペンキをぶちまけて全身を使ってペインティングする作品を作っていたのでした。
【承】アノニム のあらすじ②
英才の自宅アパートから見えるラグジュアリーホテルでは『アノニム』の8人が揃っています。
ネゴ、ミリ、ヤミ—、エポック、オブリージュ、リモートで繋がっているネバネスとエンジニアのオーサム。
ボスのジェットこと蒋恩堂からの今回の指令は「ナンバー・ゼロを贋作にすり替えよ」とのことでした。
翌日、サザビーズ香港の打ち合わせに参加したネゴは、営業部長のレイモンド・ツォイからオブリージュとヤミーが初見でポロックのオークションに参加することに作為を感じると指摘されますが、彼らの経済状況や落札データを答えやり過ごします。
ちょうどその頃、オーサムが英才に接触。
「玄関前に丸めたカンヴァスと絵の具一式を置いておくからナンバー・ゼロを描いてほしい。
これに応えてくれたら、ナンバー・ゼロを君のもとに届けよう」と音読ソフトが読み上げたメッセージを聞いた英才は、突然送られてきたアノニムを名乗るメッセージに困惑します。
アノニムとは、熟練の手法と独特の美学で盗まれた名画を修復してもとに戻すアート窃盗団です。
しかし、初めて見たナンバー・ゼロに衝撃を受け、すべてを写しとるという思いで夢中で描きます。
いつのまにか絵を完成させ眠ってしまい朝を迎え、描き上げた絵は消えていました。
どこに消えてしまったのか、教室でぼんやりと考えている英才のスマートフォンに「学生連合の決起集会に行く?英才が行くなら私も行く」と玉蘭からメッセージが入り、慌ててイヤホンを着けます。
そこには、政治活動にはあまり興味はない「行く!」と答える英才の姿がありました。
【転】アノニム のあらすじ③
ジョナサン・ハブマイヤーもポロックを狙っていました。
ハブマイヤーは、テレフォンビットを申し込んでおり、当日会場にはサザビーズ・ロンドンのラリー・オースティンが待機します。
彼の雇い主はロシア人実業家ミハエル・ドルコフスキー。
サザビーズが把握しているのはここまでですが、ネゴはその背後に美術専門窃盗団リーダーのヘロデと狂気のコレクター、ゼウスがいることも把握済みです。
コンベンション・センターの搬入口には、作業着を着て美術品輸送車に乗ったミリとエポックが到着します。
「X」が即出荷するようリクエストしていたからです。
アノニムのミッションは、チーム「X」に最高落札価格でポロックを落とさせ贋作にすり替えること。
オークション会場の最前列にはヤミ—が、最後列にはオブリージュが陣取っています。
全員、ウェアラブルスマートフォン〈ハッチ〉を手首に、ワイヤレスオーディオ〈カプセル〉を耳に装着しています。
会話は〈ハッチ〉を通して全員の耳に届けられます。
午後7時きっかりにネゴが現れオークションが始まりました。
ジェットは、ラグジュアリーホテルから英才がヘッドホンを着けパソコンに向かいあっている様子を眺めながら、仲間たちの報告を受けオーサムと連絡を取ります。
オーサムは決起集会で演説をやらせるつもりの英才と交信中です。
演説のことは学生連合には連絡済みで英才が読む原稿も準備しています。
20世紀現代美術についてのQ&Aを始めたとき、突然、英才が文字を解読できるようになるという奇跡が起こりました。
ジェットは、ひたむきに絵に向き合い、アートで世界を変えられるかもしれないと熱く思い、自分は天才だと思いこむ気概、そんな英才の姿に今は亡き父親の面影を重ねていて、アノニムが支援する人物に決めたのでした。
【結】アノニム のあらすじ④
ジェットに覗かれていることなど気づいていないヘロデは、落ち着きなく部屋をうろうろし会場の様子をオンラインで視聴します。
「ナンバー・ゼロ」は午後8時きっかりにオークションのテーブルに乗せられ、1千万ドルからスタート。
価格が2億1千万ドルに引き上げられオブリージュがパドルを下げたとき、すばやくヤミ—がパドルを上げました。
ヤミ—とハブマイヤーのビッター、ラリーの一騎打ちです。
「2億3千万ドル!」ラリーのパドルが降りると思った瞬間、ヤミ—がパドルをすとんと落としました。
「ナンバー・ゼロ」を乗せたミリとエポックの輸送車は、ジェット経営のラグジュアリーホテル地下3階へと入っていきます。
地下には全く同じ輸送車が準備されており、ナンバープレートを付け替え、ミリとエポックは英才の作品を積んで香港国際空港に向かっていきました。
ヘロデは、美の亡霊に取り憑かれた狂気のコレクター、ゼウスを満足させるために世界中の名品を略奪し続けていました。
ジェットがロレンダに「ナンバー・ゼロ」をオークションに出すよう持ち掛け、ゼウスにエントリーするように仕掛けて、史上最高価格を支払わせたのでした。
ジェットは直接英才に呼びかけます。
「始める前に諦めるのは簡単。
閉ざされたドアをノックせずに終わってしまうやつには世界を変える力はない。
アートで世界を変えられるかもしれないと思うことが大事。
何もない君にはすべてがある。
叫べ、進め、生きろ」と。
決起集会での演説から二年後、英才はロレンダ・ボシュロム芸術財団の支援を受け、香港文化大学の美術部に所属し作品の制作を続けています。
講義を受けている英才の背後には「ナンバー・ゼロ」が掲げられています。
しかし、誰もあのポロックの真筆だとは気づきません。
巨大なカンヴァスの横にはアノニム〈作者不明〉と書かれた小さなプレートが並んでいるからでした。
アノニム を読んだ読書感想
原田マハさんの作品は、画家の史実に基づいて書かれたフィクションを何冊か読んだことがあり、『アノニム』というタイトルが気になり手に取りました。
手首に装着するスマートフォン〈ハッチ〉やコードレスイヤフォン〈カプセル〉など、珍しくスパイものの作品なのかなと読み進めたのですが、いつものマハさんの作品で胸が熱くなりました。
ストーリーは、最初の方でアノニムの正体と目的が明かされていて、ヒヤヒヤして読むというよりは、華麗にミッションをこなす姿を見守るという感じです。
ジェットが英才に語りかけた言葉はマハさんの思いだと感じました。
英才が文字を読めるようになったことと、アートは時に奇跡を起こすというエポックの言葉からも、マハさんのアートへの熱い信頼を感じることができる作品だと思います。
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