著者:原田マハ 2011年7月に幻冬舎から出版
まぐだら屋のマリアの主要登場人物
及川紫紋(おいかわしもん)
主人公。勤め先の料亭を脱走して今は無職。料理のセンスと技術に自信がある。
有馬りあ(ありまりあ)
まぐだら屋を独りで切り盛りする。 「マリア」の愛称で常連客に親しまれるが多くを語らない。
桐江(きりえ)
まぐだら屋のオーナー。地塩村一帯の当主として人望が厚い。
与羽(よはね)
マリアの高校時代の担任。 困っている人を放っておけない性格。
杏奈(あんな)
与羽の妻。嫉妬深く突発的な行動に出ることがある。
まぐだら屋のマリア の簡単なあらすじ
板前を目指して修行していた及川紫紋は、勤め先の不祥事と後輩の死に責任を感じて放浪の旅に出ました。
T県の地塩村にある食堂「まぐだら屋」で働き始めた紫紋は、この店を切り盛りするマリアと心を通わせていきます。
昔の不幸な恋を乗りこえたマリアのアドバイスを受けて、紫紋も母親の待つ生まれ故郷に帰ることを決意するのでした。
まぐだら屋のマリア の起承転結
【起】まぐだら屋のマリア のあらすじ①
東北の盆地の中心にある町に生まれた及川紫紋が神楽坂の料亭「吟遊」から内定をもらったのは、東京の調理師専門学校を卒業する間際の20歳の時です。
紫紋が働き始めて5年が過ぎた頃、内部告発によって吟遊の賞味期限切れの食材の使用や産地偽造などの不祥事が発覚しました。
かわいがっていた後輩が責任を押し付けられた末に自殺をしてしまい、ショックを受けた紫紋は社員寮を飛び出して所持金が失くなるまで旅を続けます。
T県の海沿いのバス停で降りた紫紋は「まぐだら屋」という看板がかかった1軒の食堂で煮魚の定食を食べさせてもらいますが、食事代を払えません。
この店の料理人・有馬りあに従業員として雇ってもらうように頼みこんでみましたが、オーナーは桐江という70代前半くらいの女性です。
桐江家はここ地塩村とその周辺の集落・尽果を長年に渡って治めてきた家柄で、過去には弾圧されたキリシタンや落武者を匿ってきました。
紫紋の料理の腕前を見込んだ桐江はまぐだら屋に採用されることになりましたが、有馬には絶対にほれるなと念を押されます。
【承】まぐだら屋のマリア のあらすじ②
地塩村はインターネットもつながらずテレビの電波も届かないために吟遊のスキャンダルを知る人は少なく、紫紋もすんなりと村の暮らしに溶け込めました。
お店を訪れるお客さんに習って紫紋も有馬のことを「マリア」というニックネームで呼ぶようになりましたが、左手の薬指の先をなぜ失くしたのかは聞いていません。
紫紋がマリアと同じように左手の薬指がない50歳前後の男性・与羽をバス停で目撃したのは、地塩村に来て1年が過ぎようとしていた頃です。
高校生の頃に義理の父親から暴力を受けていたマリアのことを、数学教師の与羽は親身になって相談に乗っていました。
与羽の妻・杏奈は夫が女子生徒に手を出したと勘違いして、包丁を投げつけてきます。
与羽はその包丁で結婚指輪を付けていた薬指を切断して病院に搬送され、杏奈はその病院の屋上から飛び降りて大惨事です。
自らも左手の薬指を切り落としたマリアは一生をかけて罪を地塩村で償うつもりでしたが、与羽に再会した途端に彼の後に続いてバスに乗り込んでしまいました。
【転】まぐだら屋のマリア のあらすじ③
マリアが帰ってくることを信じて紫紋はまぐだら屋を開けて、金銭の管理も桐江の許可を受けて引き継ぎました。
今まで通りに仕入れをして料理を作って運ぶと、腹を空かせた常連たちは黙々と平らげてくれて誰ひとりマリアがいなくなった理由を問いただすことはありません。
ひとり暮らしの桐江のためにまかないを届けるのも紫紋の役割りでしたが、彼女の体調は秋が深まっていくにつれて悪化していくばかりです。
この村の人たちは何かしら桐江やその子孫に経済的な援助を受けているために、心配した近所の人たちが様子を見にきて身の回りの世話をしていました。
東京から舞い戻ってきた丸弧もそのひとりで、職場に2日間だけ休暇届を出して桐江のお見舞いをしたりまぐだら屋を手伝ってくれます。
短い休暇が終わって東京へとんぼ返りする丸弧が紫紋に手渡してくれたのは、携帯電話の充電器です。
地塩村に来てからずっと電源切れになっている紫紋の携帯を、「そのとき」が来たら生き返らすことができます。
【結】まぐだら屋のマリア のあらすじ④
丸弧が乗っていった上りのバスと入れ違いに、下りのバスから3カ月ぶりにマリアが地塩村に降り立ちます。
教師の職を追われた与羽はいま現在では社会的な弱者を支えるためのボランティアに従事していて、この3カ月はマリアも彼と行動をともにしていました。
マリアが帰ってきたのを見届けたかのように桐江は息を引き取り、村人総出で行われた告別式で料理長として腕を振るったのはもちろん紫紋です。
次の日からまぐだら屋を開けると紫紋は張り切っていましたが、マリアから故郷に帰るように促されました。
丸孤からもらった充電器を携帯電話につないだ途端に、50通ほどのメールを受信します。
1通は料亭の下働き時代にお世話になった仲居さんからで、吟遊は倒産して社長や幹部たちの不正も明るみに出たそうです。
残りはすべて女手ひとつで紫紋を育ててくれた母からで、「いつまでも待っている」と何度も同じメッセージが送信されています。
紫紋はバス停まで見送りに来てくれたマリアを抱きしめた後、町へ向かうバスに乗り込むのでした。
まぐだら屋のマリア を読んだ読書感想
神楽坂の料亭から最果ての定食屋へと流れ着いた、25歳の青年・及川紫紋の後ろ姿が寂しげに映し出されていきます。
訳ありな紫紋を口うるさく詮索することもなく、おおらかに迎え入れてくれる地塩村の人たちの優しさに心温まりました。
採れ立ての海の幸を使用したお造りやアマダイの煮付け定食など、まぐだら屋の定番メニューも美味しそうです。
左手の傷と心の奥底の痛みを抱えながらも笑顔を絶やさずに生きる、マリアこと有馬りあの姿にも癒やされます。
マリアの壮絶な過去を受け止めた紫紋が、迷い続けていた自分自身の人生と向き合っていくクライマックスも清々しいです。
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