著者:中山七里 2015年10月に朝日新聞出版から出版
闘う君の唄をの主要登場人物
喜多嶋凜(きたじまりん)
ヒロイン。短大を卒業して幼稚園の教員になったばかり。
京塚正隆(きょうづかまさたか)
神室幼稚園の園長。
菅沼大河(すがぬまたいが)
凜が受け持つ年少組の男児。
上条卓也(かみじょうたくや)
幼稚園の元バス運転手。 凜の父。
渡瀬(わたせ)
埼玉県警の警部。
闘う君の唄を の簡単なあらすじ
15年前に3人の園児が殺害された埼玉県内の幼稚園に、喜多嶋凜は新任教諭として赴任してきます。
事件の犯人として獄中で死亡した男の娘とばらされて批判の矢面に立たされますが、凜は退職するつもりはありません。
真犯人は園長の京塚正隆であることが判明し、凜は亡くなった子供たちのためにも教壇に立ち続けることを決意するのでした。
闘う君の唄を の起承転結
【起】闘う君の唄を のあらすじ①
喜多嶋凜の人生最初の職場は、埼玉県秩父郡の神室駅からバスで20分程度離れたところにある神室幼稚園です。
京塚正彦は15年近くもこの幼稚園で園長を続けていて、年齢は70歳前後でしょうか。
凜の指導役は年中組の先生・高梨まりか、年長組を担当するのは池波智樹、凜と一緒に年少組を受け持つことになったのは神尾舞子。
神室幼稚園では予算の使い道から遠足のコースまでを保護者会が管理していて、京塚園長は逆らうことができません。
ことの発端となったのは15年前に発生した3人の幼稚園児が殺害される事件で、逮捕されて死刑確定後に獄死したのは送迎バスを運転していた上条卓也でした。
凜は保護者の会長・見城真城と幾度となくぶつかり合いながらも、型破りな指導やこれまでの慣例を覆す課外授業で少しずつ周りの信頼を得ていきます。
その一方では埼玉県警の捜査一課に所属する渡瀬という刑事は、15年前の事件に疑問を抱いて今でも地道に付近の聞き込みを続けていました。
【承】闘う君の唄を のあらすじ②
毎年2月に入ると神室幼稚園では、新入園児の保護者に向けての説明会を開催していました。
京塚園長のあいさつが終わってから職員が自己紹介する時になると、保護者席にいた横山美穂が凜に対して罵声を浴びせます。
凛とは小学生の頃に同じクラスだったこと、彼女の旧姓が上条であること、15年前の事件の犯人・上条卓也の娘であること。
説明会は一転して糾弾の場と化していき、見城会長ばかりではなく同僚の教師までが園長に凜の退職を迫る始末です。
就労規程によると本人に処罰される正当な理由がない限り、幼稚園側はスタッフを一方的に解雇できません。
新年度が始まるまでは園長が年少組を担当して、凜は副担任として仕事を続けることになりました。
当面の妥協案として新年度が始まるまでは園長が年少組を担当して、凜は副担任として仕事を続けることになりました。
副担に降格されてから直接園児と会話することも許されなくなり、凜は精神的にも肉体的にも疲労していきます。
【転】闘う君の唄を のあらすじ③
3月の第1土曜日、午前中から雨脚が強まっていたために京塚園長は早めの退園を決定していました。
午前中には全ての園児が送迎バスで家に帰ったはずですが、ひとり凛が受け持っている菅沼大河だけが帰宅していません。
大河が以前に自宅マンションの裏山でツキノワグマの子供にエサをあげていたことを思い出した凛は、土砂降りの雨の中を探し回ります。
大河は山の中にあった掘っ立て小屋で雨宿りをしていて、凛が到着するまで渡瀬刑事が面倒を見てくれたためにケガはありません。
小屋の中には朽ちかけた農機具の数々が打ち捨てられていて、地下の収納庫には血液が付着している鎌とロープが落ちていました。
この辺り一帯の土地に所有権を持っているのは園長で、小屋は気まぐれで野菜の自家栽培を始めた時に建てられたものです。
渡瀬が呼んだ鑑識によって血痕が15年前に殺害された園児のものと一致したために、園長の身柄は駆け付けた秩父署の刑事たちに引き渡されてます。
【結】闘う君の唄を のあらすじ④
大河が無事に帰還したために凜は母親からうんざりするほどの感謝の言葉を受けて、保護者会からの風当たりも幾分か和らぎました。
2日後に授業前の神室幼稚園を訪ねてきた渡瀬刑事は、凜がわざわざ事件の起きた町に赴任してきた理由を聞きます。
この幼稚園に就職が決まったのは半分が偶然でしたが、もう半分は亡くなった3人の園児のために自分が幼稚園教諭になることを決意したからです。
父親の冤罪については晴れましたが再審請求までの道のりはそれほど簡単なものではなく、凜が置かれている厳しい立場はこれまでと大きくは変わりません。
この神室を離れて転職することを渡瀬はアドバイスしてきましたが、凜はもう絶対に逃げないつもりです。
教室の前まで渡瀬に見送ってもらった凜が一礼してからドアを開けると、20人の子供たちが一斉にこちらを見ています。
これからもひと波乱ありそうですが、この園児たちの顔を見ている限り凜は頑張れることを確信するのでした。
闘う君の唄を を読んだ読書感想
物語の前半は新社会人1年目を迎えた年若い女性が、悪戦苦闘しながらも成長していく姿をほのぼのしながら眺めていられます。
今時のモンスターペアレンツや、徹底的にことなかれ主義を貫き通す園長の京塚正隆がリアリティーたっぷりです。
過去に発生した忌まわしい殺人事件の影が見え隠れしていくうちに、いわれのない偏見にさらされていく主人公・喜多嶋凜が痛切でした。
そんな彼女に救いの手を差し伸べるのが、中山七里の愛読者にとっては愛着があるキャラクター・渡瀬警部なのが心憎いです。
最後まで自分の信念を貫き通した凜の、さらなる戦いを応援したくなりました。
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