「ドクター・デスの遺産」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|中山七里

ドクター・デスの遺産

著者:中山七里 2017年5月に角川書店から出版

ドクター・デスの遺産の主要登場人物

犬養隼人(いぬかいはやと)
警視庁の警部補で、鋭い観察眼の持ち主。「男の被疑者は確実に落とす」と自他ともに自負しているが、女の犯人にはいささか不安を感じている。

犬養沙耶華(いぬかいさやか)
腎臓病を患って入院している犬養の娘。作品当初は親子関係が冷え切っていたが、回を追うごとに雪解けが起こり始めている。

高千穂明日香(たかちほあすか)
犬養とバディを組む女性刑事。犬養が苦手とする女性の犯人や子どもの対応に力を発揮する。

寺町亘輝(てらまちのぶてる)
頭が禿げており、それ以外の特徴のない男。看護師を連れて、連続で安楽死している被害者宅へ往診に出向いている。

雛森めぐみ(ひなもりめぐみ)
37歳の女性看護師で、寺町医師に頼まれてパート感覚で往診に随行している。

ドクター・デスの遺産 の簡単なあらすじ

安楽死を請け負うドクター・デスという犯人によって、連続殺人が行われていました。

しかし、それらはあまりにも静寂な眠るような死であったため、警察も誰も不審に感じず表面化していませんでした。

けれども、警視庁の通信指令センターにそのことを知らせる一本の電話が入ります。

それを受けて、刑事犬養たちは正体不明の殺人犯を負う物語です。

その人物は患者や遺族たちにとっては聖者ですが、行為自体は決して許されないものです。

迷いながらも犯人確保のために犬養たちは全力を尽くすのですが、最期に犬養自身にも、大きな葛藤の場面が訪れます。

ドクター・デスの遺産 の起承転結

【起】ドクター・デスの遺産 のあらすじ①

 

一本の電話

警視庁の通信指令センター、そこは眠ることのない部署でSOSの電話が常に鳴り響いています。

ある日、女性警官が少年から「悪いお医者さんが来て、僕のお父さんを殺しちゃった」という電話が入ります。

最初は子どものイタズラかと思われたのですが、その声があまりにも悲痛だったため、警視庁捜査一課強行犯係麻生班で警部補をしている犬養隼人と部下の高千穂明日香の両刑事が少年馬籠大地のもとを訪れます。

彼の父は末期ガンで苦しんでおり、それが一人の冴えない中年医師と看護師の往診を受けたのち、眠るように亡くなっていたというのです。

少年と母親の供述に矛盾を感じた犬養は、遺体を病理解剖にまわし、そこで大量にカリウムを摂取していたことが判明します。

そこで、彼女を取り調べで追及していくうちに「ドクター・デスの往診室」というものがネット上に存在することを聞き出します。

そこは、。

ドクター・デスに「今の病状」といった患者データを詳しく書き込み、苦しまずに安らかな死を望みたいと「安楽死」を切望するサイトだったのです。

サイトには様々なコメントが寄せられており、それらを頼りに目に見えぬ犯人を求めて、犬養たちは捜査を開始します。

【承】ドクター・デスの遺産 のあらすじ②

 

連続する安楽死事件

ドクター・デスとはアメリカ人医師で安楽死を唱えていたジャック・ケヴォーキアンの呼び名でした。

彼はすでに他界しているのですが、今回の安楽死事件と同様のやり方、カリウムと麻酔薬を多量に投与する形で、眠るように患者たちを死へといざなっていました。

そして、今回の犯人は、そのドクター・デスの遺志を継いで、次々と安楽死を実施していきます。

犬養たちの懸命な捜査により被害者たちが判明し、その遺族らと接触を図り、ドクター・デスへと近づきたい警察でしたが、どの遺族も非常に協力的ではありませんでした。

彼らの中には、「故人を苦しみから解放して何が悪いのか」と正義からした行為であると感じる者や「自分たちが殺人幇助という立場で裁かれるかもしれない」という不安を感じる者もいました。

捜査が暗礁にのる中、焦る犬養は、一計を講じようと動きます。

ただし、それは思い腎臓病を患っている娘の沙耶華を囮とし、直接ドクター・デスのサイトにコンタクトを取ろうというものでした。

しかしながら、犯人の方が一枚も二枚も上手で、これ以上の追及をすると沙耶華の命の保障はないとドクター・デスから警告を受け、囮捜査は失敗に終わるのでした。

【転】ドクター・デスの遺産 のあらすじ③

 

密告電話

ドクター・デスが巻き起こしている「安楽死事件」は、倫理的な観点から必ずしも賛成派が占めているわけではありませんでした。

彼の考えに反感を感じている者から一本の密告電話が入ります。

財界の大物である法条が安楽死させられたという内容でした。

法条の遺体を解剖すると、カリウムの多量接種からドクター・デスの仕業だということが判明します。

犬養たちの粘り強い聞き込み捜査の結果、少しずつ彼の風貌をはじめとする情報が集まり始めます。

彼を目撃した遺族たちは一様にして、「頭が禿げているという印象」と口をそろえて証言はするものの、それ以外の特徴は何一つ思い出せないという共通点がありました。

しかし、彼が往診の際に連れいてた看護師の女性がわかり、そこからドクター・デスの本名が寺町亘輝であることが判明します。

さらに、現場に残されていた靴跡に付着していた僅かな土から寺町の立ち回り先がわかります。

しかし、そこはホームレスたちが暮らすたまり場でした。

張り込みをしていた犬養たちの目の前に、何の特徴もないが頭が禿げあがった男寺町が現れます。

拘束して話を聞くと、彼はただのホームレスで、雇われて医者の振りをしていただけだというのです。

つまり、ドクター・デスの本当の正体は、看護師として随行していた雛森めぐみだったということが明らかになりました。

【結】ドクター・デスの遺産 のあらすじ④

 

究極の選択

行方をくらました雛森めぐみが「なぜ、ドクター・デスの名を語り、一連の安楽死事件を巻き起こしたのか」その背景を探るべく、犬養たちは彼女の過去を洗います。

そこで彼女がかつて国境なき医師団に在籍し、中東で多くの傷病者の手当てに当たっていました。

そこはまさに戦場。

薬剤も医療用物資も足りない中、ブライアン医師が目の前で苦しむ患者たちに施したのは安楽死でした。

医療に携わるものとして倫理観に苛まれる反面、彼女はどうしようもないことで、安楽死は死者への最期の思いやりだと感じるようになります。

そして、彼女をドクター・デスへと変貌させた大きな出来事が起こります。

医師団のテントが爆撃され、彼女が慕っていたブライアン医師が助かりようのない大怪我を負います。

彼から安楽死をさせてほしいと懇願され、最初は拒む彼女でしたが、彼を苦しみから解放するためにその道を選ぶのでした。

その後長らく姿を消していた彼女でしたが、犬養たちも決して諦めることなく捜査し続けていました。

ほとぼりが冷めた頃、再びドクター・デスが現れると信じて。

そして、ついに彼女は国外逃亡する前の最後の仕事としてある患者の元へ訪れます。

得ていた情報から先回りをしていた犬養たちは彼女を確保しようとします。

そこで、土砂崩れに全員が巻き込まれてしまい、大怪我を負い苦しみ助かることのない依頼人のために雛森めぐみは安楽死をさせたいと申し出ます。

犬養たちは刑事として本来は見逃してはいけないことだったのですが、戦場のような非常な光景に黙認するのでした。

ドクター・デスの遺産 を読んだ読書感想

中山七里さんの刑事犬養シリーズは、社会派医療サスペンスとして構成されているため、毎回読者に考える機会を与えてくれます。

今作も、愛する者が苦しみながら人生を終えようとしている姿を見たくないという遺族の想いがひしひしと伝わってきて、ドクター・デスの行為は正当性を有するのではないかと犬養同様迷ってしまう読者も多いのではないでしょうか。

憲法上、人は「生きる権利」が保障されていますが、同時に人には「自由に死ぬ権利」というものが与えられていないことに今更ながら不思議に思ってしまいました。

いざ自分がその立場に立たないと人はなかなか考えようとしないので、どうしてもこういった大きな問題は対岸の火事としてスルーしがちです。

けれども、テーマとして掲げて投げかけてくれる七里さんは、決して「正しい答え」を導き出そうとしているのではなく、我々にただ「考えよう」と促してくれているのだと改めて感心させられました。

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