「静おばあちゃんにおまかせ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|中山七里

静おばあちゃんにおまかせ

著者:中山七里 2012年7月に文藝春秋から出版

静おばあちゃんにおまかせの主要登場人物

葛城公彦(かつらぎきみひこ)
主人公。警視庁捜査一課の刑事。愛想がいいのと粘り強いのが長所。

高遠寺円(こうえんじまどか)
女子大生。 正義感が強く法曹関係の職を目指す。

高遠寺静(こうえんじしずか)
円の祖母。元裁判官。

財部和人(たからべかずと)
葛城の上司。 警視庁の管理官。

三枝光範(さえぐさみつのり)
本所署の強行犯。

静おばあちゃんにおまかせ の簡単なあらすじ

葛城公彦は女子大学生の高遠寺円と協力して、次々と難事件を解決に導き捜査一課の中でも注目を集めていきます。

その円に知恵を貸しているのは、すでに肺がんで亡くなって幽霊となった祖母の静です。

心残りだった6年前のひき逃げ事件の真相を突き止めた後に静は成仏して、残された円と葛城はふたりで生きていくことを決意するのでした。

静おばあちゃんにおまかせ の起承転結

【起】静おばあちゃんにおまかせ のあらすじ①

名探偵の正体はおばあちゃん

葛飾区内で連続強盗事件が発生したために警視庁の捜査一課に所属する葛城公彦は地道に聞き込みを続けていましたが、遺留品や有力な目撃情報は見つかりません。

被害者の友人に高遠寺円という大学生がいて、彼女の何気ないひと言が事件解決の糸口になりました。

円のアドバイスによって次々と難事件を解決した葛城は、3階級上の上司・財部和人からお褒めの言葉をいただく度に罪悪感に囚われていきます。

ある日のこと民間人である円の知恵を借りていることを財部に告白すると、ぜひ一度会ってみたいと言い出す始末です。

円も葛城に隠していることがあって、これまでの謎を解いたのは全て祖母の静のおかげでした。

大正時代に生まれた静は日本で20番目の女性裁判官として活躍して、犯罪捜査に関する広範な知識を有しています。

中学2年生の時に両親と亡くしてからは、円は祖母と世田谷区の一軒家でふたり暮らしを送っているそうです。

お礼を言いに円の自宅を訪れたいのはやまやまでしたが、どうしても彼女のプライベートにまでは踏み込むことができません。

【承】静おばあちゃんにおまかせ のあらすじ②

過去から浮かび上がる疑惑

両親の命日である9月18日になると毎年花を手向けに行くという円の話を聞いて、葛城も台東区の吾妻橋の前までお供しました。

浅草寺の縁日を家族3人で見物しに来ていた時にスピード違反の車がこの場所に突っ込んできたのは、今から6年前のことです。

父と母は円をかばって亡くなり、運転席から降りてきた酒くさい男は「救急車を呼んでくる。」

と言って立ち去ったきり戻ってきません。

出頭して来た三枝光範は現職の警察官で、アルコールが検知されなかったために執行猶予付の判決で済みます。

事件に疑問を抱いた葛城は警視庁のデータベースにアクセスして調べてみましたが、事故を起こした自動車の検査証に住所と氏名が登録されていません。

車種はその年に発売されたばかりの300万円近くするホンダのCR-Vで、当時はまだ警察官になって2年目だった三枝には手が届かない価格です。

葛城は休日を返上して都内のディーラーを1軒1軒調べて回って、顧客名簿からCR-Vを現金で一括購入していた客を突き止めました。

【転】静おばあちゃんにおまかせ のあらすじ③

6年の時をこえて明かされた真相

警察に多大なる貢献をしてくれた相応の礼をしたいと財部が静に伝えると、直接家まで来てほしいとの回答が円を介してありました。

葛城は財部を後部座席に乗せて、カーナビの案内にしたがって成城1丁目にある建坪20坪ほどの高遠寺家へと車を走らせます。

きれいに片付けられている応接間に通されたふたりを待ち受けていたのは、あの事故のあとに本所署に異動となっていた三枝です。

6年前の9月18日に赴任先の飲み会で羽目を外してお酒を飲んでいた財部は、吾妻橋の近くで円の両親をひきました。

たまたま同乗していた新米警官の三枝に、父親である総務部長の権力をちらつかせて罪を被るように強要します。

財部が優秀な弁護士を付けたおかげ実刑判決には至らなかったものの、三枝の胸の奥底にはずっと重いしこりが残っていました。

6年ぶりに円と再会してすべてを白状した三枝の証言と、葛城がディーラーから手に入れた顧客名簿に名前が残っていたために財部は言い逃れはできません。

【結】静おばあちゃんにおまかせ のあらすじ④

おばあちゃんからの最後のアドバイス

財部が連行されて三枝も事情聴取に立ち会うために出ていった後、どこからともなく上品な声が話しかけてきました。

葛城は部屋中をくまなく見渡してみましたが、円の他には誰もいなくスピーカーらしきものもありません。

円が窓のカーテンを閉めると室内は薄暗くなって、ソファの上にぼんやりとした白い影が辛うじて見えます。

財部と三枝の入れ替わりのトリックにいち早く気が付いていた静が、肺がんで亡くなってしまったのは円が高校を卒業した年です。

両親を亡くした孫娘のことが気掛かりな上に、財部を裁きの場に引っ張り出すまではとても成仏できません。

葛城と知り合った円に事件の解決を手伝わせたのも、すべては財部をこの場所まで誘き寄せるためです。

望みをかなえて心残りがなくなった静の影は、少しずつ薄れて輪郭を失っていきます。

泣きたい時は近くの人の手を握りなさいという静の最後の声を聞いた円は、そっと自分の手のひらを葛城に差し伸べるのでした。

静おばあちゃんにおまかせ を読んだ読書感想

物語の前半はバロネス・オルツィによる「隅の老人」やクリスティの「ミス・マープル」シリーズといった、安楽椅子探偵を主人公にした正統派の推理小説でした。

一見すると今時のお気楽な女子大学生・高遠寺円の、悲しい過去が明かされていく中盤以降に思わぬドラマが待っています。

迷いながらも少しずつ成長していく孫娘を、優しく見守っている静おばあちゃんがほほえましいです。

かつては裁判官として活躍したインテリらしく、その言葉にはひとつひとつ重みがあって考えさせられます。

ファンタジードラマに早変わりしてしまうクライマックスと、若いふたりに送ったメッセージも感動的です。

コメント