【ネタバレ有り】最終退行 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:池井戸潤 2004年2月に小学館から出版
最終退行の主要登場人物
蓮沼鶏二(はすぬまけいじ)
東京第一銀行羽田支店副支店長兼融資課長。銀行に命をかけている。
塔山諭史(とうやまさとし)
優秀だったが、学歴や上司からの嫉妬でいじめられ心が折れた。銀行を憎んでいる。
九遠和彌(くおんかずや)
東京第一銀行の会長。未だ強い発言権を持つ。M資金詐欺に関する調査を行い、その頃からM資金が存在していると考えている。
新川清(にいかわきよし)
東京海洋開発の社長。トレジャーハンターとして業界では有名。
滝本瞬(たきもとしゅん)
蓮沼の同期。出世頭。久遠の懐刀として暗躍している。
最終退行 の簡単なあらすじ
銀行支店の副支店長と融資課長を兼任する蓮沼は、仕事を精一杯こなしているものの、さほど評価されていないと思う日々を過ごしています。そんな中、東京海洋開発という聞きなれない会社の融資が通ってしまいます。不信感を抱き調べていると、同期の滝本も東京海洋開発を調べていることがわかります。その東京海洋開発に関わっているらしい元部下塔山。東京海洋開発はM資金詐欺を目論んでいる様子です。塔山の目的は一体なんなのでしょうか。
最終退行 の起承転結
【起】最終退行 のあらすじ①
東京第一銀行顧問の久遠は真夜中、趣味の海釣りの最中、海上で火事になっている浚渫船に遭遇します。
調査船の会社のようですがこんな真夜中に久遠は不審だと考えます。
そんな彼らの荷物の中には、何かの塊のようなものがありました。
それが金塊ではと思う久遠は東京海洋開発を調べさせるのでした。
東京第一銀行羽田支店副支店長、融資課長を兼任する蓮沼は今の仕事に不満を持っています。
いつかは本部で働きたいと思いながら、入行依頼融資に携わっています。
銀行の仕組みに不満を感じながらも、精一杯仕事をこなしているつもりでした。
そんな中、部下の塔山が東京海洋開発の融資の稟議を回してきます。
決算書を見れば行員の勘で粉飾だとわかります。
実際の会社を訪ねますが、とても融資できるとは思えませんでした。
しかし支店長の谷とはうまくいっておらず、蓮沼の意見を通したくないがため谷は融資に許可を出すのでした。
仕事に邁進してきた蓮沼は家庭も冷え切っています。
蓮沼の救いは不倫関係ににある同じ支店の藤崎摩耶の存在です。
藤崎は蓮沼の部下、友部にストーカーされています。
塔山の机を調べると、東京海洋開発の社長である新山がトレジャーハンターとして紹介されている雑誌を見つけます。
不審なものを感じる蓮沼が調べると、東京海洋開発から塔山と友部が出てくるのを見かけます。
しかしそんな塔山が長崎へ出向の話があると人事部から打診されます。
一方新山たちは久遠が接触してくるのを待っていました。
彼らはM資金探しに夢中になっている久遠を騙すために作戦を練り、わざと夜の海で久遠と接触したのです。
蓮沼は塔山が好きではありませんでしたが、かつての銀行の権力争いでいじめ抜かれて心が折れてしまったことを知っていました。
失われていたと思われた塔山の気持ちの片鱗を道原プラスチックへの融資対応で見出します。
一度は長崎の異動を受け入れた塔山ですが、原の前で辞令の紙を破り捨てます。
【承】最終退行 のあらすじ②
そんな時蓮沼のところに同期の滝本から連絡が入ります。
エリートと言われた彼は東総建設へ出向しています。
彼は東京海洋開発について知りたいと連絡してきます。
事情を知っていそうな本部にいる後輩の丸太に連絡を取ると、滝本は久遠のもとへ流れている裏金を処理しているのではないかと言います。
東京海洋開発の金の流れを調べていると、どうも塔山が一枚噛んでいるらしく、M資金詐欺なのではないかと蓮沼は心配します。
一方東京海洋開発のところに滝本がやってきます。
困惑する彼らですが、滝本が久遠の右腕だと知り敵がひっかかってきたと思います。
滝本は新川にM資金の隠された場所が記されている暗号文を渡してきます。
それを解けないなら契約はないと言われ新川は頭を痛めているのでした。
丸太は蓮沼に滝本が何をしているのか話をさせられます。
滝本が久遠の裏金のため動いているのを知ります。
そして東京海洋開発の調査も久遠が依頼してきたことを知るのです。
銀行をやめた塔山は新川にその暗号文の解読表を見つけてきたというのでした。
久遠はその話を聞き、暗号文の資料を持っている道原のところへやってきました。
道原は祖父が通信兵だったと言います。
鑑定士の間野にそれは本物だとお墨付きをもらい、久遠は道原の希望する5億でそれを買い取りました。
しかしそれは塔山たちの罠で、間野に金を払い偽物の資料を本物だと言わせたのです。
その頃蓮沼は、本部の命令で貸し?がし業務に心を痛めていました。
長い付き合いのある金属工業の社長、田宮に3億の返済を求めていました。
非常になれない蓮沼に苛立った谷が間に入り、半ば騙すような形で3億を返済させます。
すぐにまた融資すると言った谷を信じた田宮の会社は倒産してしまうのでした。
その責任を蓮沼は谷からなすりつけら減俸処分となってしまいます。
田宮は谷を相手に訴訟を起こします。
【転】最終退行 のあらすじ③
田宮の自殺の報を受け、蓮沼は銀行の非情さを感じていました。
その銀行の非情さに反発した蓮沼は長崎へ出向が決まっていました。
蓮沼は怒りから久遠の裏金を暴くことを決めるため、調べ始めます。
丸太から東総建設の経理課長秋川が半年前に死亡していたことを聞きます。
秋川は会社の金8億を着服し、それがバレそうになり自殺したと言われていました。
しかし実際は裏金が東総建設を経由して久遠の懐に入っていたのではないかと囁かれています。
8億の金は引き出されたものの、その後が追跡できていません。
その件に滝本も関わっているというのです。
蓮沼は秋川のことを調べ、妻に接触します。
蓮沼と丸太はどうやって8億の金を自分たちなら転がすか考えていました。
足跡を辿らせないために預金小切手を使ったのではないかと推測します。
大手町支店で調べた結果、その金は城南建設工業に流れ着いていました。
しかしその会社の住所は秋川の自宅になっており、幽霊会社であることがわかります。
一方久遠は新川たちが、彼を嵌めようとしていることに気がついていました。
その彼らを使い、8億の裏金を表に出すことを久遠は決めたのでした。
蓮沼は藤崎摩耶との不倫もバレ、妻とも離婚段階に入ります。
滝本は誰かが裏金について調べていることに気がついていました。
東京海洋開発が久遠をはめたと思っている最中、新川のもとに、本物のM資金の資料が舞い込みます。
もともとは血湧き肉躍る夢を見続けていた新川は今すぐにでもその資料を使い、M資金の捜索に取り掛かりたいと考えていました。
しかし今動けば、久遠たちを騙したことがバレてしまいます。
【結】最終退行 のあらすじ④
秋川の妻と接触した蓮沼は、秋川が帳簿を残していることに気がつきます。
秋川の罪が暴かれることを恐れる秋川の妻を説得し、裏金の帳簿を手に入れた蓮沼。
そんな蓮沼のところへ滝本がやってきます。
帳簿を渡せという滝本に断る蓮沼。
二人が話しているとダンプカーが突っ込んできます。
救急に運ばれる蓮沼は一命を取り止めましたが、滝本は死亡しました。
満身創痍の蓮沼はそれでも裏帳簿を調べ、金が東総建設の息のかかった帝都興発に流れ着いているのを見つけました。
そんな蓮沼に久遠のライバル、東京第一銀行専務の横尾から久遠の件で連絡がくるのでした。
一方蓮沼は東京海洋開発を久遠のことを話すため訪ねます。
新川たちは本物のM資金の資料のことを話していました。
そこで蓮沼はそれに帝都興発が噛んでいるのを見て、久遠の差し金だと気がつきます。
久遠は帝都興発に仕込んだ金塊を発見させ、それを使い8億の裏金を表の金にしようとしていたのでした。
新川たちは久遠が仕込んだ宝を予定日より早く探し出し、その久遠の企みを実行させないようにするのでした。
谷の裁判で蓮沼は証言することになりました。
裏金の帳簿を渡す代わりに、銀行内部資料の谷が田宮を騙した証拠のメモを受け取っていたのです。
谷は言い逃れ出来ません。
そして久遠も裏帳簿を手に入れた横尾に定例役員会で糾弾されます。
蓮沼もそこへ同席するのでした。
全てを片付けた蓮沼は長崎にいました。
妻とは離婚になりましたが、藤崎摩耶はついてきてくれました。
しかし裏金に関わった人間たちがいなくなり、横尾の采配もあり蓮沼は本社へ戻れる予定です。
蓮沼は少しばかりそれに迷っていました。
しかし摩耶は蓮沼こそ銀行で頑張る人間だと背中を押します。
出向して時間がある蓮沼はゆっくり今後について考えてみるのでした。
最終退行 を読んだ読書感想
驚天動地のマネーロンダリング案を軸にした物語です。
何に情熱を傾けるか、それがこの物語の一つの要です。
主人公蓮沼は融資課長として働いています。
企業小説の中でもとりわけ職場への愛が問われるのが銀行ではないかと思います。
銀行の仕事はものの売り買いではありません。
右から左にお金を流すなどと言われますが、融資から生まれる悲喜こもごもは人の命を左右します。
お金というものの力を感じさせ、それゆえに特殊な構造を生み出しているのかもしれません。
大きなお金を扱うところから生まれる万能感は人を誤解させてしまうのでしょう。
本部への嫉妬、谷への嫌悪、蓮沼の感じる感情の全ては銀行という仕組みの中で生きてきたからでしょう。
塔山のように、銀行から離れることはできませんでした。
蓮沼は銀行を愛しているのです。
仕事を言い訳に家庭を省みず、そしてそれを少しも悪いと思っていませんでした。
融資されない田宮のことには心を砕けましたが、自分の家族にはそれが少しもできません。
妻以上に物語の中で息子は空気でした。
蓮沼は家庭に目を向けられないのです。
蓮沼の人生は銀行にあるのです。
銀行に愛し愛されたいのです。
それゆえ満身創痍で戦い抜けたのでしょう。
トラックに轢かれた翌日、絶対安静を振り切って裏帳簿を確認する蓮沼の執念とも言える情念は愛ゆえです。
銀行をまともにしたい、その一心で走り続けます。
蓮沼にあったのは銀行愛だったのです。
独特な銀行の世界に生きるバンカーの独特な価値観を、元銀行員である作者がわかりやすく書いている小説です。
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