聖痕(筒井康隆)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

聖痕(筒井康隆)

【ネタバレ有り】聖痕 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:筒井康隆 2013年5月に新潮社から出版

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聖痕の主要登場人物

葉月貴夫(はづきたかお)
1968年生まれ。幼い頃の事件の影響で料理に憑りつかれていく。

葉月佐知子(はづきさちこ)
貴夫の母。

葉月満夫(はづきみつお)
貴夫の父。衣料品会社の社長。

葉月夏子(はづきなつこ)
貴夫の妻。旧姓霧原夏子。

葉月瑠璃(はづきるり)
貴夫の妹。

聖痕 の簡単なあらすじ

生まれながらの美少年として地元でも有名な葉月貴夫は、1973年に凄惨な事件に巻き込まれてしまいました。それ以来性欲を奪われた貴夫は自らの情熱を美食にのみ注いでいき、やがてはレストランの経営者として成功していきます。一方の家族は過去の秘密を守り抜くために一致団結し、警察は犯人の行方を追っていきますが逮捕には至らず時効を迎えるのでした。

聖痕 の起承転結

【起】聖痕 のあらすじ①

美しき少年の受難

5歳になった葉月貴夫はその肉体労働者らしき男の姿を、自宅前の道路や近所の空き地で幾度となく目撃しています。

暗緑色の作業着を身に纏って、顔は平面的で鼻の部分だけが陥没していて能面のような表情です。

その男と貴夫がふたりっきりで対峙した場所は、セイタカアワダチソウが生い茂る塀に囲まれた広場でした。

突如として高級住宅街に貴夫の悲鳴が響き渡り、現場に駆け付けたのはポストの夕刊を取りに出た初老の主婦です。

発見された貴夫は下半身から烈しく流血していて、不審者の影は既に見当たりません。

救急隊員の適切な処置と優秀な医師団による懸命の手術の結果一命を取り留めますが、貴夫の男性としての機能は失われてしまいました。

一家は夜逃げのように豪華絢爛な葉月邸を後にして、見知らぬ土地での新しい生活をスタートさせます。

カトリック系の幼稚園を卒園した貴夫は良家の子息が通う小学校で6年間を過ごして、中高一貫の名門校へと進学しました。

【承】聖痕 のあらすじ②

美食こそが我が命

同い年のクラスメイトたちのように異性とのお付き合いにも、小説にも音楽にも貴夫はまるで興味を示しません。

中学での家庭科の時間に女子生徒と混じって調理実習を受けたことがきっかけで、野菜作りや料理にすっかり夢中です。

早い段階で東大農学部への進学を決めて、食品化学を学ぶことを担任の先生や家族に宣言していました。

中等科の卒業式から高等科の入学式の間には2週間程度の休みがあるために、父親の満夫は息子をフランスへと連れていきます。

貴夫のお目当ては観光客が押し寄せるヴァンドーム広場やエッフェル塔でもなく、シャネルやディオールなどの高級ブランドでもありません。

モンパルナス通りのカフェでスイーツを堪能し、三ツ星レストランでの絶品ディナーに舌鼓を打ちます。

高校時代も成績優秀な貴夫は、共通一次試験を満点で突破して東大理科二類に合格しました。

キャンパス内でも自ずと注目を集める貴夫が巡り合ったのは、将来のパートナーとなる霧原夏子です。

【転】聖痕 のあらすじ③

究極の仮面夫婦

夏子は小学3年生の時に年上の従兄弟からひどい目に遭わされて以来、男性を受けることができません。

肉体的な欠陥を持つ貴夫と、精神的に深い傷を負った夏子。

ふたりの間には何時しか不思議な一体感が芽生えていき、お互いの秘密を守り抜くために結婚を決意しました。

帝国ホテルでの披露宴の出席者の中にいたのが、夏子の又従兄弟に当たり食品工業会社を経営する佐伯です。

大学卒業後に佐伯の会社に就職した貴夫は若くして食堂部長に取り立てられて、直営レストランの立ち上げを任されるほどに社長から信頼されています。

そんな中で思いがけずに貴夫の母親の佐知子が、45歳にして子供を授かりました。

産まれてきたのは女の子で瑠璃と名づけられましたが、満夫と佐知子の娘ではなく貴夫と夏子の娘として育てられていきます。

中学生の時に母子手帳を見て自分の出生の真実に気付いた瑠璃は、貴夫のことを皆の前では「お父さん」、ふたりだけの時は「お兄ちゃん」と呼ぶのでした。

【結】聖痕 のあらすじ④

被災地での邂逅

貴夫がオープンしたレストランには馴染み客が3日と空けずにやって来て、メニューの評判も良くて大繁盛です。

ある日厨房で下拵えをしてた貴夫は強い揺れに襲われ、テレビを付けるといつも食材を調達している農村や漁港の変わり果てた風景が映し出されていました。

避難所での粗末な配給食に心を痛めている仲間たちと共に、冷凍車に食糧を積んで被災地支援へ向かいます。

ボランティアの炊き出しに参加していた貴夫が目撃したのは、20数年たっても忘れることが出来ない能面のようなあの男の顔です。

半壊した自宅に帰る途中だった男は、美しく成長した貴夫の前に跪いて全てを告白しました。

本名は金丸作司で鉄工所を営んでいること、幼い頃の貴夫の姿に心を奪われて無理心中を決行するつもりだったこと、直前になって死にきれずに貴夫の体の一部だけを持ち帰ってしまったこと。

貴夫はあの出来事お陰で欲望から解放され自由で平和な生活を送ることが出来たと金丸を許し、ホルマリン漬けにされた男性生殖器を受け取り帰路につくのでした。

聖痕 を読んだ読書感想

1973年のオイルショックから2011年の東日本大震災までの社会情勢が、ストーリーの中にさり気なく盛り込まれているのが心憎いです。

若干5歳の男の子に降りかかってくる、非情な運命には胸が痛みました。

性欲から解放された主人公の葉月貴夫が、ただひたすらに美食を追求していく生きざまには鬼気迫るものがあります。

世間一般の食道楽やグルメ趣味に走ることのないストイックな姿には、苦行僧のような清廉潔白さを感じてしまいました。

血を分けた妹を娘として育てていく優しさと、クライマックスで犯人を目前にして全てを許す寛容さが感動的です。

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