著者:谷川直子 2018年8月に朝日新聞出版から出版
私が誰かわかりますかの主要登場人物
木暮涼世(こぐれすずよ)
関西の田舎に住んで、認知症の夫の介護をしている。七十八歳。
木暮守(こぐれまもる)
涼世の夫。認知症を患っている。
木暮隆行(こぐれたかゆき)
涼世の長男。鳩ノ巣信用組合の課長。
木暮桃子(こぐれももこ)
隆行の二度目の妻。互いに再婚。以前は東京に住んで、イラストレーターをしていた。
木暮紀江(こぐれのりえ)
木暮本家の当主の妻。七十三歳。
私が誰かわかりますか の簡単なあらすじ
木暮涼世はボケた夫を三年も介護してきましたが、緑内障が進行し、このままでは失明してしまいます。
涼世は周囲の反対を押し切って、夫を老人ホームに入れ、あとのことを長男の嫁の桃子に託すのでした。
桃子は舅の介護に関わるしかなくなります。
桃子の他、舅や姑の介護に苦しむ長男の嫁たちの姿が、さまざまに描かれます。
私が誰かわかりますか の起承転結
【起】私が誰かわかりますか のあらすじ①
木暮涼世は七十八歳。
認知症気味の夫、守を、三年の間介護してきましたが、もう限界です。
涼世夫婦は村に住み、長男夫婦は町に住んでいます。
本来なら、長男の嫁の桃子に世話をたのむところです。
でも、桃子は東京でイラストレーターをした女で、長男と再婚したのちも、イラストの仕事をしているのです。
涼世は、自分の目の病気を理由にして、夫を施設に入れるしかないと考えます。
しかし、本家の当主の妻、紀江は、守の状態を見た上で、施設送りに反対するのでした。
涼世の長男の隆行は、父の守を引きとろうとは思うものの、その世話は、妻の桃子がやって当然だと考えています。
桃子は、逃げ出すべきか、覚悟を決めるべきか、迷います。
結局涼世は、守を老人ホームに入れ、あとの世話を桃子に託したのでした。
桃子はときおり義父に面会するために老人ホームに行きます。
村では、涼世が夫を追い出した、という噂がひろがっていきます。
その最初の発言者は、数年来、ボケた舅の世話をしている末子という女性でした。
本家の紀江は、村の噂話を打ち消そうとして、結局あきらめました。
一方、紀江の長男の樹に、見合い話が持ち込まれます。
相手は、丈夫で快活が取り柄の、子豚のような体つきの女性でした。
【承】私が誰かわかりますか のあらすじ②
守が入居した老人ホームに、桃子は毎日面会に行っています。
「帰りたい」という守に,桃子は、「お義母さんの目が治るまで」と騙し続けます。
桃子は、美大時代の友人である恭子に、電話で愚痴を言います。
恭子は、「ホームに入れられた桃子は幸せだ」と言います。
恭子は結婚して二十五年になります。
夫は、末っ子ながら長男です。
恭子は長男の嫁として、ボケた舅を介護しています。
本当は舅をホームにやりたいのですが、夫の二人の姉に反対されています。
それでいて、二人の姉は何も手伝ってくれないのです。
舅の洋造は、元は小学校の校長先生で、ボケたために、いまだに校長先生のつもりでいます。
そのため、トラブルが絶えないのでした。
一方、木暮隆行が課長をつとめる信用組合には、古参で頼りになる山崎瞳がいます。
瞳は高齢出産で男子を産みましたが、我が子が可愛いと感じられません。
どうやら産後鬱のようです。
にもかかわらず今度、ボケの始まった姑の世話を押し付けられてしまいました。
瞳は限界だと感じ、信用組合を退職しようとします。
あわてた隆行は、とりあえず介護休暇を取るように勧めるのでした。
さて、その隆行の父,守は、肺炎のために急遽入院することになりました。
病気が少し良くなると、守は制止を振り切って、帰宅しようとします。
桃子は泊まりがけで看病することになりました。
守は頻繁にオシッコをねだるため、桃子はほとんど眠ることもできないのでした。
【転】私が誰かわかりますか のあらすじ③
中村静子は、夫の死後、義理の両親の面倒をみています。
このたび、義父が骨折して入院しました。
すると、そのわがままぶりのために、病院からつきそいをお願いされてしまいました。
義母は家事をなにもしないため、家のことも、義父のつきそいも、静子ひとりでこなさなければなりません。
静子は、同じ病院で守を看病する桃子と知り合って、愚痴を言い合います。
そんなとき、娘の夏葉から、死後離婚を勧められました。
死後離婚により、夫の家と縁を切ることができるのです。
静子は死後離婚を決意するのでした。
一方、つきそいの代行業をやっている堤昌子は、桃子から、守のつきそいを依頼されます。
桃子はもう限界なのでした。
昌子が代わってつきそいするうち、守は退院して、ホームに戻されました。
しかし、熱を出したため、一週間ほどで再入院となります。
認知症の進んでいた守は、点滴の管を引き抜こうとしたため、拘束される羽目になりました。
涼世と桃子が交代で看病するうち、守は徐々に弱っていきます。
もう先は長くなさそうです。
もうここまでくると、毎日見舞わなくても、だれも非難しないでしょう。
しかし、涼世は立派な嫁だと言われたくて、毎日見舞いに行くのでした。
【結】私が誰かわかりますか のあらすじ④
ある日、沢田恭子がイラストの仕事をしているすきに、義父の洋造が勝手にバスに乗って出かけてしまう、という事件が起きます。
さいわい、バスの運転手が気づいてくれたおかげで、発見できました。
その日以来、洋造はちょくちょく外出するようになります。
恭子が尾行すると、駅前のバス停のベンチに座り、林美也子というおばさんと話しています。
洋造のかつての教え子のようですが、いまいち話が噛み合っていません。
あとでわかったのは、美也子もボケていて、洋造の教え子でもなんでもない、ということでした。
一方、山崎瞳の義母がボケてきました。
瞳は、息子の健の面倒をみながら、義母の面倒もみなければなりません。
義母をホームに入れたいのですが、夫は反対します。
ある日、瞳は、夫に健の面倒をみてもらい、その間にみりんを買いに行きました。
帰ると夫は居眠りしていて、義母と健がいなくなっています。
瞳は必死に健をさがして、ようやく外で発見しました。
やはり義母が連れ出していたのです。
「健にもしものことがあったら、私は絶対にゆるさない」と瞳は怒ります。
その剣幕によって、ようやく義母は、みずからホームに入ることを約束したのでした。
さて守は、肺炎の治療が終わったため、市民病院を追い出され、療養病床のある西病院へ転院することになりました。
いろいろあったあと、守は西病院で亡くなりました。
通夜は守の実家で行われました。
村の人も、もう桃子と涼世のことを悪く言いません。
桃子は世間に対しても、夫に対しても、立派に妻としての行いを全うしたと、胸を張ることができるのでした。
私が誰かわかりますか を読んだ読書感想
読んでいて、いやあ、実に大変なものだなあ、と感じました。
「長男の嫁」たちの苦労のことです。
彼女たちは、血のつながっていない義父母の介護を押しつけられて、大変な目にあっています。
血のつながっている夫は、なにもしないくせに、親を老人ホームにやりたくない、とほざきます。
理由は「世間体が悪いから」です。
困ったものです。
この夫の無責任さが一番表れているのが「第12章 貧乏くじ」です。
夫の敏彦は、妻の瞳から、子供をみていてくれと頼まれたのに、呑気に居眠りしてしまいます。
その隙に、ボケた母親が、子供を外に連れて行ってしまうのです。
こういう無責任な夫には、母親の介護をしてくれ、と妻に要求する資格などないですね。
本作は、不利な立場に追い込まれている女性たちの姿を余すところなく描いた佳作だと思います。
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