「四月は少しつめたくて」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|谷川直子

「四月は少しつめたくて」

著者:谷川直子 2015年4月に河出書房新社から出版

四月は少しつめたくての主要登場人物

今泉桜子(いまいずみさくらこ)
ヒロイン。女性誌から文学雑誌に移ったばかり。バブル世代でブランド品を手放せない。

藤堂孝雄(とうどうたかお)
デビュー以来次々と作風を変えてきた詩人。現在はアルコールとギャンブルに溺れている。

鈴木(すずき)
桜子の上司。現代詩をこよなく愛する。

村本ツトム(むらもとつとむ)
桜子の同僚。「青年」や「トム君」などと呼ばれて名前を覚えてもらえない。

ミキコ(みきこ)
藤堂の妻で故人。生前は天真らんまんで誰からも愛されていた。

四月は少しつめたくて の簡単なあらすじ

大手出版社を辞めたばかりの今泉桜子がお世話をすることになったのは、10年以上も世の中から消えている詩人・藤堂孝雄です。

気まぐれで破天荒な性格の藤堂に振り回されながらも、何とか新しい作品を書いてもらおうと粘り強く交渉していきます。

桜子と出会ってからちょうど1年後、妻の死とも向き合い始めた藤堂はようやく創作活動を再開するのでした。

四月は少しつめたくて の起承転結

【起】四月は少しつめたくて のあらすじ①

華やかな表紙から雑居ビルの一室へ

誰もが知る集明社の人気雑誌「テンカラット」でやり手のエディターとして有名だった今泉桜子でしたが、退職してからはしばらく休んでいました。

再就職先が決まったのはまだ風が冷たい4月、古いビルの2階にある「果実社」、編集部と応接室に資料室の3部屋。

編集長の鈴木と若手の村本ツトムが机をコの字に並べていて、入院中の社長の代わりに親戚の女性が週末だけ帳簿を付けにきます。

出勤初日に鈴木から押し付けられたのが、口が悪くてお酒が大好きだとうわさのある藤堂孝雄の担当です。

1950年生まれの65歳、処女詩集の「朝の祈り」は国語の教科書でも取り上げられるほどですが2001年以降は詩壇に出ていません。

果実社が発行している「月刊現代詩」に新作を掲載するための打ち合わせのはずが、新宿のパチンコ店に連れていかれて1000円札を3枚要求してきました。

次の日には大井競馬場で1万円を貸しましたが、すぐにハズレ馬券に変わってしまいます。

井の頭公園の中を通った先にあるマンションに住んでいるという藤堂が、ゴミステーションから拾ってきたのは1匹の子猫です。

【承】四月は少しつめたくて のあらすじ②

転がり込んできた捨て猫と負けそうな編集者

日常に波風を立てることで何かが生まれるという藤堂の言葉を信じて、桜子は猫の面倒を見ることにしました。

梅雨に入ると天気の悪い日が続きますが、インターネット通販で購入したキャリーケースの中に入れて出勤します。

雨ニモマケズ、風ニモマケズ、ソウイフモノニ、ワタシハナリタイ… 宮沢賢治の名前をもらった「ケンジ」はすくすくと大きくなっていきますが、桜子はいまだに自分が何になりたいのか分かりません。

それから何日もしないうちに藤堂から電話がかかってきて、吉祥寺の駅ビルの一室に呼び出されました。

友人の持ちビルだというこの場所で藤堂は詩の書き方を教えていましたが、15人の生徒は全員が女性で年齢は40歳の桜子よりも上でしょう。

1クラス15人で全部で4クラス、月謝は7000円、テナント料16万円を差し引いたひと月での収入は26万円。

お金には困っていないはずの藤堂ですが講座が終わるとキャバクラに行きたがり、その勘定を払うのは桜子です。

【転】四月は少しつめたくて のあらすじ③

失った男の思いを焼き付けた絶筆詩

梅雨が明けて厳しい暑さになった頃、荻窪駅から編集部に電話がかかってきました。

電車の中で痴漢行為をしたとその場で取り押さえられて駅員に突き出された藤堂は、桜子を身元引受人に指名してきます。

被害届は出されなかったために藤堂はすぐに無罪放免となりましたが、桜子としては事情を聞かなければ納得はできません。

つり革につかまっていたら斜め前に死んだ妻のミキコとそっくりな女性がいたこと、気がつくと彼女の顔を両手で挟んでのぞき込んでいたこと。

会社に戻って資料室に山積みに保管されている詩集の中から桜子が引っ張り出したのは、藤堂が最後に刊行した「失うということ」です。

テーマは大切な人との永遠の別れ、避けられない死を受け止めて乗りこえようとするひとりの男の葛藤が刻まれていました。

呼び出されもしないのに仕事の終わりに毎日のように藤堂のもとに通うようになった桜子は、締め切り日を9月30日・掲載日を11月号と強引に約束を取り付けます。

【結】四月は少しつめたくて のあらすじ④

言葉の女神が舞い降りる4月

10月になると療養していた社長が復帰してきたために、桜子は藤堂の担当を外されてしまいました。

読解が不可能な詩やマイナーな評論の校正、対談や座談会のテープ起こしなど単調で地味な仕事しか任せてもらえません。

果実社を辞めてケンジと一緒にダラダラと過ごしていると、集明社からミセス向けの雑誌を創刊するために戻ってきてほしいと頼まれたために引き受けます。

ゴージャスな宝石や家具、手の込んだ焼き物や織物、人気のお菓子に料理… 生々しい話題に触れる詩とは違って、おいしいものとキラキラしたもののことだけを考えるだけで務まる毎日です。

藤堂から「できた」というラインのメッセージが届いた時、桜子はショパールの時計やカルティエのブローチなどの撮影に立ち会っていました。

慌てて現場を抜け出して向かった先は、4月のにおいに満ちあふれた夕暮れ時の井の頭公園です。

街灯の下に立っている藤堂は原稿用紙を握りしめていましたが、真っ白なままで何も書いていません。

この世界と桜子のあいだにある言葉が見えたという藤堂は、それを書き写すまで待っていてほしいとお願いするのでした。

四月は少しつめたくて を読んだ読書感想

前歴はセレブリティご用達のファッション雑誌、再就職先は昭和の生き残りのような詩の専門誌。

両者のあまりのギャップに、主人公の今泉桜子が戸惑ってしまうのも無理はありません。

押し付けられたのも「詩人」とは名ばかりのちょい悪な中年で、パチスロに競馬にと付き合わされる様子に笑わされました。

一見するとお気楽でダメダメな藤堂が、深い心の痛みを抱えながら生きていることが分かる後半から急展開を見せてくれます。

息のピッタリと合った桜子・藤堂の名コンビの解消は残念ですが、それぞれが第2の人生をスタートさせていくかのようなラストが感動的です。

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