「断貧サロン」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|谷川直子

断貧サロン

著者:谷川直子 2014年10月に河出書房新社から出版

断貧サロンの主要登場人物

西野エリカ(にしのえりか)
ヒロイン。三流大学の英文科を卒業。キャバ嬢からブラックバイトまで平気で手を出す。美人だが男運がない。

シュウ(しゅう)
エリカの恋人。ハンサムだが生活力はない。

木村さえこ(きむらさえこ)
エリカの幼なじみ。実家のドラッグストアを手伝う。化粧っ気もなくファッションにもお金をかけない。

村上モリモリ(むらかみもりもり)
BHKの代表者。全身を黒ずくめでコーディネートしている。神出鬼没。

アール(あーる)
BHKの元メンバー。高級ブランドのレンタルサービスや手堅く融資もする。

断貧サロン の簡単なあらすじ

彼氏のシュウから金銭的に依存されていた西野エリカに声をかけてきたのは、貧乏神から女性たちを守る秘密結社の職員です。

シュウが貧乏神であることを判定したエリカは、組織のつてを頼って借金も建て替えてもらいます。

NGワード「貧乏くさい」を連発して目の前でシュウを消し去ったエリカは、ようやく未練を断ち切ってひとりで歩き出すのでした。

断貧サロン の起承転結

【起】断貧サロン のあらすじ①

単なるヒモか愛しの貧乏神か

地元の短大を卒業して東京ひとり暮らしをしていた西野エリカは、自称・モデルのシュウという男性と付き合い始めました。

基本的には仕事をしていない彼のためにブランドものの洋服を買ってあげているうちに、エリカの借金はみるみるうちに膨れ上がっていきます。

所持金もなく3日間まったく何も食べてない西野エリカが転がり込んだのは、保育園の時から仲の良かった木村さえこの実家です。

お金持ちの独身男性とパーティーの同伴、結婚式のニセ親族役、刑事事件のアリバイ証言。

非合法のアルバイトをして17万円ほど稼いだエリカは、待ち合わせ場所の東京駅・銀の鈴広場に現れたシュウに全て手渡しました。

人混みの中へ消えていくシュウを見送っていたエリカに話し掛けてきたのは貧乏神被害者の会、通称「BHK」の事務局長だという村上モリモリです。

BHKは非営利の地下組織で人間と貧乏神を見分ける方法を知っているそうですが、入会をしないと貧乏神の判定方は教えてもらえません。

村上の名刺を頼りに門前仲町駅から徒歩で10分程度のマンションを訪ねて、貧乏を断つサロン「断貧サロン」を見学したエリカは入会手続きをします。

【承】断貧サロン のあらすじ②

薄れていく彼と残る借金

貧乏神にとっての最大のタブーは「貧乏くさい」で、この言葉を人前で言われると彼らの輪郭はぼやけるそうです。

再びシュウから10万円ほど催促する連絡があった時に、さえこにも銀の鈴広場に一緒に来てもらいました。

約束の午後2時、通行人の向こうから現れたシュウに向かってさえこは「貧乏くさい」と叫びます。

とたんにシュウの全体像はにじんでいきますが、何事もなかったかのように金だけ受け取ると笑顔で立ち去っていきました。

いつの間にか背後にいた村上から、シュウと別れる前にお金の問題を解決するようにアドバイスされます。

村上が紹介してくれたのはアールという女性で、彼女も以前に断貧サロンを利用していたひとりです。

ファッションライターとして成功していてお金には不自由していなかったこと、貧乏神と出会ってから瞬く間に財産を使い果たしたこと、ある日唐突に貧乏神がいなくなり事業を始めると再び運気が戻ってきたこと。

借金総額300万円は建て替える用意ができているそうですが、エリカがシュウと別れるまでは1円も援助してもらえません。

【転】断貧サロン のあらすじ③

質素と勤勉で貧乏神を撃退

さえこに頼りきって居候生活を続けているうちに、エリカはすっかり無駄遣いが減っていき着ている服にも気を配ることもありません。

日中は部屋でダラダラとテレビを見ているかスマートフォンをいじっているかですが、さえこの祖母に言われて店の品出しくらいは手伝うようにしました。

村上が講師を務めている「断貧レッスン」にも積極的に参加して、二度と貧乏神に捕まらないように知識を増やしていきます。

エリカがアールを訪ねてシュウと別れることを宣言したのは、彼の携帯電話が不通になってから1週間が過ぎた頃です。

借金はアールが全額キャッシュで用意、エリカの勤め先「パンチパンチ」へ一括返済、その後はエリカがアールに少しずつ返済。

アールが用意した車で上野のパンチパンチへ連れていってもらい、借用書を破棄したために無事に借金はなくなりました。

その足でBHKの事務所まで報告に行くと、村上は自分のことのように喜んでいます。

アールは顧客から金利を取らない主義ですが、しばらくの間はクレジットカードを使えないために地道に働くしかありません。

【結】断貧サロン のあらすじ④

それぞれの福を求めて

しばらくするとエリカはパンチパンチに戻って割のいい仕事をこなしつつ、シュウとの関係を取り戻しました。

カードも使えずに借金もできない生活は予想以上につらくて、相変わらずシュウは働こうとしません。

モデルの仕事が入るまでアルバイトをしてほしいと頼むと、シュウはあっさりと自分が貧乏神であることを認めます。

これまでにシュウが就職した店や会社はすぐに閉店するか倒産してしまったこと、どこへ行っても貧乏神として嫌われてきたこと。

「貧乏くさい」と繰り返しつぶやいた途端にシュウは消えていき、ようやくエリカはひとりで生きていくことを決意しました。

当面の目標は自分のショップをオープンするためにとにかく貯金をすることで、その道に詳しいアールに話を聞きに行きます。

道中でエリカがシュウにプレゼントしたはずの高級コートを着ている、ホームレスの男性とばったり鉢合わせしました。

男性の話によると見知らぬ青年が恵んでくれたそうで、彼はホームレスのあいだでは「福の神」と呼ばれているそうです。

断貧サロン を読んだ読書感想

昼間は街中で警察官や強面の男たちに追いかけられながら怪しげなお仕事、夜からは年齢をごまかしてキャバクラでアルバイト。

大好きなシュウくんのために20代の貴重な若さと時間のすべてを貢いでしまった、ヒロイン・エリカの努力が涙ぐましいです。

見た目がいい異性に引っ掛かってしまうのは、女性であれ男性であれいつの時代にも同じなのかもしれません。

恋愛とは程遠く地味でパッとしない木村さえことの、大人になってからも続いている友情には心温まりました。

都会のファンタジーの味わいもありつつ、今時の女性たちの悩みをリアルに描いているために共感できるでしょう。

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