著者:太田紫織 2016年1月にKADOKAWAから出版
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時の主要登場人物
九条櫻子(くじょうさくらこ)
ヒロイン。独自の美学で骨を標本に変える。愛車は茶色のルノーカングー。
館脇正太郎(たてわきしょうたろう)
旭川市の南光地区に在住。動物が好きで猫よりも断然に犬派。
花房(はなぶさ)
いくつかの嘱託殺人に加担している画家。自分のルールから逸脱せずリスクは負わない。
ウルフ(うるふ)
正太郎の飼い犬。人には懐かないが知能が高く番犬としても頼りになる。
なずな(なずな)
高校に通いながら親戚の会社で事務員をしている。父の兄の家に引き取られているがうまくいっていない。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時 の簡単なあらすじ
かわいがっていた犬のウルフを殺害された館脇正太郎の無念を晴らしてくれたのは、これまでにも因縁の深い花房です。
九条櫻子には内緒で花房と取引をした正太郎はネット自殺の一向に潜入して、決行寸前のところで思い留まらせます。
危ういところで櫻子も駆けつけて手助けをしてくれましたが、花房の言う「彼女」の正体だけは明かされることはありません。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時 の起承転結
【起】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時 のあらすじ①
ある日のこと館脇家に一匹の傷ついた迷い犬がやって来て、動物病院に連れていき手当てをしてもらいました。
母親の許可を得た正太郎が「ウルフ」と名付けると、ようやく警戒心が解けてきたようです。
しばらくは家族のように一緒にいたウルフも、ある日のことフラリと出ていったままで戻ってきません。
差出人の名前のない封筒がポストに入っていたのはそれから1週間後、同封されていた写真には無残にも解剖されたウルフの姿が。
小さなチョウチョの羽根のようなものが付着していたために、正太郎はまたしても花房のしわざではないかと疑います。
(4巻「蝶は十一月に消えた」参照)スマートフォンに着信があり知らないアドレスでしたが、正太郎は本能的に誰からなのか察知しました。
メールの指示通りにテレビを付けてみると、道内ニュースの生中継の映像です。
以前から野良猫や飼い犬を虐待して近隣住民とトラブルになっていた男、日常的にDVを受けていた彼の妻、その妻と浮気をしていた青年… 不倫関係から青年が男を殺害したとリポーターは結論づけていますが、正太郎は花房がウルフのかたきを取ってくれたと確信します。
【承】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時 のあらすじ②
SNSでメッセージを送ってきた花房は、人口音声を使用して履歴が残らないように細心の注意を払っていました。
とても美しい犬だったこと、最期の最期まで飼い主を探していたこと、手を尽くしたものの救えなかったこと。
ウルフの骨を返す代わりにある娘を死から救ってほしいと持ち掛けてきた花房は、旭川市内の自殺志願者と事前にやり取りをしています。
指示されたURLにアクセスしてみると、大型掲示板のスレッドのひとつで犯罪を匂わせる書き込みを報告するサイトです。
待ち合わせ場所は旭川駅前のデパートの前にある小さな喫茶店で、時間はあと1時間ほどしかありません。
今後いっさい櫻子には関わらないことを条件に、正太郎は彼女の死を食い止めるためにひとりで現場へ向かいます。
正太郎の1歳下が香澄、同い年がなずな、20代らしき隼、30歳前後と思えるみか、43歳のコーヘー… 性別も年齢もバラバラな5人はいずれもハンドルネームを使用していて、花房とつながっているのは誰なのかは分かりません。
【転】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時 のあらすじ③
コーヘーが運転するキャンピングカーに乗り込んだ一向でしたが、具合が悪くなった香澄を道中で降ろしました。
スーパーで練炭とガムテープをして駐車場に戻る頃に、コーヘーの携帯電話に別れた妻との間に授かった娘から誕生日を祝うコメントが届きます。
正太郎の説得で心を動かせれていくコーヘーとみか、計画を実行するために車内に立てこもる隼。
両者がにらみ合うこの場にミニバンで駆け付けてきたのは、たまたまサービスエリアで香澄を拾った櫻子です。
運転席のガラスを大きな石でたたき割った櫻子は、隼が大たい骨を骨折していることに気が付きました。
オートバイに2人乗りをしていた時に弟を死なせてしまった自分のことを、隼は今でも許すことができません。
不思議な一体感から連絡先を交換したコーヘーたちは、とりあえずは家に帰って困った時にはお互いに声を掛け合うことを約束します。
ただひとりだけ心配だったのはなずなのことで、早くに父親を亡くしている彼女は後見人のおじ夫婦から虐待を受けているそうです。
【結】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時 のあらすじ④
すっかり元気になった香澄と正太郎は直接会うことができましたが、なずなから教えてもらったアドレスは間違っているようで返信がありません。
別のサイトでも名前を見たことがあるという香澄がネットで検索してみると、「今度こそ成功させる」というレスを発見します。
場所は正太郎が通っている学校の屋上、立ち入り禁止エリアですが1カ所だけ破れているフェンスの場所が書き込まれています。
正太郎たちが駆け付けた時には赤く燃えるような夕日を背景になずなは空に舞っていましたが、先回りしていた櫻子がマットレスを敷いていたために命に別条はありません。
初めて会った時から口数が少なかったこと、女性にしては頭蓋骨の眉弓の部分が隆起していること。
櫻子はなずなが男性であることを見抜いていて、花房が救ってほしかった娘とは人違いです。
日差しが傾いてきて街並みがオレンジと青の中間のような色に染まっているこの時間帯、フランス語では「犬と狼の間」だそうです。
花房との賭けに負けたことを悟った正太郎は、せめて今夜だけは全ての人に優しい眠りが訪れることを願うのでした。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 9 狼の時 を読んだ読書感想
ネット上で特定のキーワードを入力するとたどり着くという、都市伝説のような裏サイトの実態にリアルに迫っていました。
生きる希望を持てない若者たちが、不特定多数のコミュニティーに居場所を求めているのが今の時代を象徴していますね。
そんな人たちの心の闇に侵入してくる花房こそが「逢魔が時」、もしくは「狼の時間」なのかもしれません。
残酷な快楽犯罪者かと思えば時おり動物愛護の精神が見え隠れしているなど、捉えどころがないのは相変わらずです。
世間並みの善悪の価値基準に従わないという点では、櫻子さんとの類似性も感じてしまいました。
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