「切断」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|黒川博行

切断 黒川博行

著者:黒川博行 1989年2月に新潮社から出版

切断の主要登場人物

久松貞一(ひさまつさだいち)
主人公。 大阪府警に所属。階級は巡査部長。忙しくても腹ごしらえはする。

水谷勝次(みずたにかつじ)
金融会社の幹部社員。法律の知識があり押しが強い。

沢木昌哉(さわきまさや)
会社勤めが苦手で職を転々とする。母を早くに亡くし父が失踪した不幸な生い立ち。

沢木はるみ(さわき)
昌哉の妹。将来の目標がなく流されやすい。

赤峰剛雄(あかみねたけお)
神峰会の会長。極道者だが娘の美穂には甘い。

切断 の簡単なあらすじ

水谷勝次は大阪の病院で耳に小指が挟まった状態で亡くなっていて、水谷の耳をくわえた篠原秀義の遺体も発見されます。

篠原の舌は誘拐された赤峰美穂と一緒に発見されますが、すべては美穂の父・剛雄に妹を奪われた沢木昌哉の犯行です。

指を犯行現場に残して自らの死を偽装していたことに警察は気づきますが、沢木は赤峰剛雄を巻き添えにして自爆するのでした。

切断 の起承転結

【起】切断 のあらすじ①

 

指から耳へ抜けて舌へ

新なにわ筋の交差点を西に行った先にある阿波座病院に入院中の水谷勝次が刺殺されて、遺体からは成人男性の小指が発見されました。

水谷は荒川興業と呼ばれる会社の幹部で債権の取り立てや地上げを繰り返していて、背後には反社会的勢力の神峰会がついています。

指紋から指の持ち主は住吉区我孫子に住んでいた沢木昌哉だと判明しましたが、解剖医の見立てでは死後2〜3日ほどの間に切断されたものだそうです。

沢木は倒産整理品や贈答品の転売で荒稼ぎをしていて、水谷や神峰会の構成員とも付き合いがありました。

大阪府警捜査一課の刑事・久松貞一は沢木のマンションを訪ねてみましたが、一緒に暮らしていたはずの妹のはるみがの姿が見当たりません。

次の日にはディスカウントショップのオーナー・篠原秀義が絞殺されて、遺体は水谷の耳をくわえています。

沢木は手に入れた商品を篠原の支店に納品していたために、ふたりは持ちつ持たれつの関係です。

篠原の遺体からは舌が切断されていたために、久松は4人目の犠牲者がでるのではないかと不安で眠れません。

【承】切断 のあらすじ②

 

灰になった1億円

沢木はるみはデザインの専門学校を授業料の滞納で退学処分となった後で、北新地あたりで水商売をしていたことが分かってきました。

学校時代の関係者への聞き込み捜査や繁華街を1軒1軒しらみつぶしにして、どこのお店で働いていたのか探して回ります。

一方で神峰会の会長・赤峰剛雄の池田市にある自宅に家宅捜索の手が入りますが、沢木の遺体も篠原の舌も発見されません。

赤峰には京都に下宿して大学に通っている娘がいましたが、その美穂が誘拐されて1億円を要求する電話がかかってきます。

身代金の受け渡し場所に指定されたのは城北運河に沿った一方通行を抜けた先で、付近の住人が駐車場の代わりに利用しているスペースです。

1台の白いローレルが堤防とガードレールのあいだに停車していて、赤峰は現金を入れたカバンを抱えたまま車内に乗り込みました。

ひそかに尾行してきた久松たちが異変に気がついて赤峰をローレルから引きずり出そうとした瞬間に、車内に仕掛けられていたダイナマイトが爆発します。

【転】切断 のあらすじ③

 

つながっていくパーツと導火線

赤峰は全身に大やけどと打撲を負いましたが、すぐに城東の労災病院に収用されてために命に別条はありません。

岩谷の採石場で5本のダイナマイトが盗まれたために兵庫県警が捜査していましたが、今回の犯行で使用されたのは2本だけでした。

犯人はもう1度襲撃してくる可能性が高いために、集中治療室を出た赤峰は警備態勢の厳重な警察病院に移送される予定です。

1億円の紙幣は爆風で燃えてしまいますが、美穂は南恩加島で無事に保護されて篠原の舌も回収されています。

はるみが働いていたのは篠原秀義の愛人が経営しているクラブで、寝泊まりしていたのは荒川興業が地上げした中津のマンションです。

クラブに遊びにきた赤峰ははるみのことを気に入りましたが、神峰会の名前を出す訳にはいきません。

表向きは企業舎弟の水谷が囲っているように細工をしていましたが、実際にははるみは赤峰の愛人でした。

はるみの生活は荒んでいき、薬物の乱用が原因でショック死したのがすべての発端です。

【結】切断 のあらすじ④

 

お好み焼きがヒントになるも時すでに遅し

悲惨な死体を見たすぐあとでも食事ができる久松は、生野区の鉄板焼き屋で食事をしていました。

お好み焼きをコテで押し切る、小さく切ったものをまた半分に切って口に運ぶ、切る、切り離す、切断する。

久松の頭の中では何かが弾けて、沢木が死んでいないことを確信しました。

沢木は自分の小指を付け根のところから切断して、切った小指を1日ほどおいて第1間接から先の部分を切り落とします。

鑑識が指の持ち主の生死を判断する場合は切断面を検査するために、そこに生活反応がない場合は死後切断としか判断せざるを得ません。

はるみと赤峰を引き合わせる原因を作った水谷と篠原の耳や舌を殺害後に切り取ったのも、猟奇犯罪と見せかけて小指のトリックをカムフラージュするためです。

店を出てタクシーに乗った久松は労災病院へと向かいますが、その頃に鎮痛剤が尽きかけていた沢木は最期の力を振り絞って赤峰の病室のドアを打ち破ります。

恐怖に見開かれた赤峰の目をにらんだ沢木は、妹の名前を叫びながら体に巻き付けた3本のダイナマイトのスイッチを押すのでした。

切断 を読んだ読書感想

なにわの病院の一室から静かに幕を開けていく、恐るべき連続殺人のスピーディーな展開に引き込まれていきました。

遺体の一部をバラバラにしてジグソーパズルのように埋めてていく、猟奇的な犯行の手口には圧倒されます。

行き当たりばったりの通り魔のような犯人かと思いきや、その正体は意外なほど理路整然と行動する人物です。

幼い頃に両親の庇護を失ったことが原因で怪しげな仕事に手を染めるようになった兄の昌哉、これといった将来の目標がなく周りに流されるように生きていた妹・はるみ。

引き裂かれたきょうだいの絆と途切れた真っ当な人生を、「切断」というこの小説のタイトルに重ね合わせてしまうでしょう。

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