「アニーの冷たい朝」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|黒川博行

アニーの冷たい朝

著者:黒川博行 1990年11月に講談社から出版

アニーの冷たい朝の主要登場人物

谷井圭作(たにいけいさく)
主人公。大阪府警の捜査一課で階級は巡査部長。仕事熱心だか家庭はうまくいっていない。

川瀬深雪(かわせみゆき)
看護師。 交遊関係は狭いが勤務態度は真面目。

松村広(まつむらひろし)
東亜システムの営業担当。勤め先が摘発されて現在は勾留中。

江角正之(えすみまさゆき)
フィレックス商事の専務。口が達者で立ち回りもうまい。

足立由実(あだちゆみ)
国語の教師。 バドミントン部の顧問で生徒からも人気。

アニーの冷たい朝 の簡単なあらすじ

豊中市で女性が人形の格好をさせられて殺害される事件が発生し、捜査一課の谷井圭作はデート商法で荒稼ぎをしていた江角正之に目を付けます。

江角は熱心な人形のコレクターで、次のターゲットに選ばれたのは高校で先生をしている足立由実です。

福井県の海辺の別荘に監禁されていた由実を救出するために、谷井は江角を射殺するのでした。

アニーの冷たい朝 の起承転結

【起】アニーの冷たい朝 のあらすじ①

人形殺人を追う父親失格刑事

大阪府警の捜査一課に所属する谷井圭作は、豊中市服部本町のアパートで起きた殺人事件を担当することになりました。

被害者の名前は川瀬深雪、蛍池の府立病院に勤務する看護師で21歳、死因は首を絞められたことによる窒息死。

特異だったのは被害者の全身の体毛がそり落とされてファンデーションが塗られていて、マネキン人形のようにツルツルでセーラー服を着せられていたことです。

夜勤が明けて昼間ひとり暮らしをしている部屋にいたところをたまたま狙われたようで、短大生の長女が京都の岩倉に下宿している谷井としては他人ごととは思えません。

谷井は7年前に地下鉄中央線の九条駅前でお好み焼き屋をやっている千代子と同棲していて、妻の淑枝には毎月お給料の3分の2を送金しています。

長女が短大を卒業して無事に就職が決まるまでは、谷井は淑枝とは離婚しないつもりです。

アルバイトに明け暮れて実家の母親にもほとんど電話をかけて寄越さないという長女の私生活に、谷井自身が父親として口を挟むような資格はありません。

【承】アニーの冷たい朝 のあらすじ②

恐るべき人形の町

深雪は悪質なデート商法の被害者で100万円以上の着物を買わされていて、大阪市の消費者センターに相談しています。

着物を強引に売り付けたのは東亜システムという会社のセールスマン・村松広ですが、すでに詐欺容疑で拘置所に勾留されているために犯行は不可能です。

東亜システムは着物の販売契約を結んだあとに、再びデートに誘って宝石を買うように勧誘していました。

谷井は宝石の訪問販売会社・フィレックス商事で専務取締役の肩書を持つ江角正之に会いに行きますが、東亜システムとの間に明確な協力関係がないために逮捕できません。

江角が去年から入居している枚方市香里丘のテラスハウスに谷井が踏み込んでみると、奥の部屋が厳重に部屋が施錠されていました。

12畳ほどの部屋には一面にミニチュアの住宅街が広がっていて、200体の人形がさまざまな服装で配置されています。

赤い屋根の教会には蓋の上に「アニー」と書かれた小さな柩が設置されていて、中にはセーラー服姿の人形が横たわっていました。

【転】アニーの冷たい朝 のあらすじ③

最後の人形

谷井はフィレックス商事の顧客リストをもとにデート商法に引っ掛かった客の勤め先を調べて、片っ端から電話で安否確認をしました。

東淀高校の教師・足立由実は1限目の授業に姿を見せておらず、事務職員が彼女が住んでいる藤井寺のマンションに連絡しましたが応答がありません。

由実はバドミントン部の顧問をしていて、部員の話ではつい最初になってエメラルドの指輪を買ったそうです。

色白で小柄、眼はくりっとしていて川瀬深雪と同じように人形みたいな顔。

豊中南署に臨時で召集された捜査会議の本部に、福井県警から無線で連絡が入りました。

敦賀市三島町のバス停の待合所にパジェロが衝突、運転席にはヒゲ面の中年男性、リアシートにはコートをかぶってスカートを履いた若い女性。

男女の人相と服装は江角と由実にぴったりで、事故現場付近の貸衣装屋でウェディングドレスが盗まれています。

江角は深雪を殺害した時と同じように、由実を人形のようにしてドレスを着せるつもりです。

【結】アニーの冷たい朝 のあらすじ④

朝の空に響きわたる銃声

北陸自動車道を夜通し突っ走っていたようやく谷井が敦賀市内にたどり着いたのは、雨が降り始めた午前0時過ぎのことです。

敦賀署から応援にやってきた刑事たちと協力して江角たちの行方を捜索していたところ、名子海水浴場に近い林の中から打ち捨てられたパジェロを発見しました。

この辺りは大阪の業者によって次々と宅地造成が進んでいて、別荘地にして売り出しています。

人目が少ないシーズンはずれの別荘であれば、遺体を処理したりきれいな服を着せる場所としては便利でしょう。

玄関ポーチ横のテラスのガラス窓から侵入しようとしていた谷井は、背後から近づいてきた江角に側頭部を強打されて気を失いかけました。

激しく流血しながらも何とか意識を取り戻した谷井は拳銃を片手に室内に突入して、バスルームで由実を絞殺しようとしていた江角を射殺します。

谷井はすっかり雨が止んだ冷たい朝の空に向かって拳銃を連射して警官たちを呼び、何としても生きて千代子のもとへ帰ることを誓うのでした。

アニーの冷たい朝 を読んだ読書感想

刑事としては優秀ながらも、夫としても父親としても不完全な主人公・谷井圭作のキャラクターが魅力的です。

谷井が行き付けにしている大東市のスタンドバーや、結婚生活を犠牲にしてまで通いつめたお好み焼き屋など大阪の下町の風景も生き生きと描かれています。

1980年代の後半から90年代の前半にかけて社会問題となったデート商法が、猟奇殺人と絡んでくるのがスリリングでした。

海千山千の犯人・江角正之の悪質な手口が少しずつ明らかになっていきますが、人形に「アニー」と名付け理由だけは最後まで語られることがないために後味は悪いです。

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