著者:荻原浩 2002年4月に小学館から出版
母恋旅烏の主要登場人物
菱沼寛二(ひしぬまかんじ)
主人公。学力に問題があるために特別学級に通う。頭の中に浮かんだことをすぐに口にする。
花菱清太郎(はなびしせいたろう)
寛二の父。 戸籍上の名前は菱沼清。夢見がちでお酒が大好き。
菱沼美穂子(ひしぬまみほこ)
寛二の母。自分の意見を言わない。
菱沼桃代(ひしぬまももよ)
寛二の姉。 シングルマザーとして娘・珠実を育てる。歌がうまい。
菱沼太一(ひしぬまたいち)
寛二の兄。 特撮映画やフィギュアに詳しい。
母恋旅烏 の簡単なあらすじ
菱沼寛二の父親・清太郎は家族の代わりをするビジネスを思いつきましたが、実の娘・桃代と長男の太一は独り立ちしていきます。
昔のつてを頼って舞台に返り咲いた清太郎が、長年連れ添った妻の美穂子から見捨てられたのは次男の寛二が18歳になった時です。
自分の劇団を持つようになった父の名前を受け継いで、寛二は役者としてデビューをするのでした。
母恋旅烏 の起承転結
【起】母恋旅烏 のあらすじ①
父親の清太郎が小さな劇団に所属して地方回りを続けていたために、菱沼寛二はほとんど小学校に通っていません。
中学校に入っても自分の名前が書けないほどで普通クラスでの授業にはついていけないために、清太郎が始めた仕事を手伝っていました。
身よりがいない人たちの心の隙間を埋める「レンタル家族」は、3時間6万円と料金は高額ですが意外なほど需要があります。
清太郎が人材派遣会社から独立して2度目の仕事は、家族全員で知人の結婚式にサクラとして出席することです。
依頼人は寛二の姉・桃代の中学校時代のクラスメートで、友人代表として1曲歌うことを頼まれました。
桃代は一緒にバンドを組んでいたフリーターとの間に珠実という女の子を授かっていますが、相手の男性は1年前にビルの窓拭きのアルバイト中に転落して亡くなっています。
桃代の歌唱力に目を付けたのは、たまたま式に出席していた芸能プロダクションのプロデューサーです。
あっという間に歌手デビューが決まって、桃代が娘を連れて出ていったために菱沼家は残り4人になりました。
【承】母恋旅烏 のあらすじ②
清太郎が独立する時にお金を借りたのは質の悪い金融業者で、事業は早くも行き詰ってしまい一家はキャンピングカーに乗り込んで夜逃げも同然で家を出ました。
最初の2日間ほどはあてどもなく走り回って、3日目からはキャンプ客のふりをして多摩川の中流あたりで車中泊を続けています。
寛二の兄・太一が映像クリエーター学院の存在を知ったのは、お気に入りのアニメ専門誌を立ち読みしていた時です。
桃代には先を越されたような気分でしたが、太一もこのまま父親と根無し草のような生活を送るつもりはありません。
学院の7期生募集にギリギリで間に合った太一は、レンタルビデオ店で働きながらアパートを借りてひとり暮らしを始めました。
寛二の母親であり清太郎の妻でもある美穂子は、どんなに悲惨な目に遭っても文句ひとつを言うことはありません。
行く当てのなかった3人を引き受けて借金の肩代わりまでしてくれたのは、清太郎が15歳で大衆演劇の世界に入った時からお世話になっている大柳団之助です。
【転】母恋旅烏 のあらすじ③
還暦を過ぎてからも関西地方を中心に精力的に活動していた団之介が突然倒れたのは、久しぶりに関東へ地方巡業にやってきた矢先のことでした。
団之介の息子・孝介を座長代理に立てて清太郎が補佐につくことになりましたが、ふたりは舞台の出し物を巡ってことごとく対立してしまいます。
清太郎がもう1度だけ上演してみたかったのは、団之助が書き下ろした狂言の中でも傑作中の傑作と言われている「母恋旅烏」です。
罪を犯した渡世人と敵討ちの旅をする侍が道連れになりそれぞれの母を探すが、実はふたりは兄弟で探していたのも同じ女性。
あらすじ自体はそれほど難しくありませんがこの劇を演じた役者や劇団には不幸が降りかかってくるという不吉な話があり、本番が近づいてくるにつれて孝介は寝込んでしまいます。
孝介が取り巻きのふたりの座員をそそのかして脱走したのは、あと数時間後に舞台の幕が開くという時です。
急きょ代役として白羽の矢が立ったのは寛二で、初舞台が終わった後には客席から大きな歓声と拍手が起こりました。
【結】母恋旅烏 のあらすじ④
孝助の行方は一向に分からないため、清太郎は団乃助のプロダクションと正式に契約して座長に昇格しました。
花菱清太郎一座の旗揚げ公演が間近に迫ってきたある日のこと、美穂子が手紙を置いて清太郎のもとを去っていきます。
前々から清太郎と一緒に旅をすることに疲れていたという美穂子は、寛二が18歳の誕生日を迎えたのを期に別居に踏み切ったようです。
楽屋に閉じこもって稽古にも身が入らない清太郎を心配して、桃代と太一が駆け付けてきました。
子連れの演歌歌手として人気が出てきた桃代は、本番のあとの歌謡ショーに協力してくれます。
ワイヤーアクションを駆使して演出を盛り上げるのは、学校で特撮技術を学んでいる太一の役目です。
寛二の芸名は父親とその師匠の名前を合わせた「花菱団五郎」に決まって、役者として本腰を入れます。
お披露目公演となった当日はテレビの取材がくるほどの大盛況で、寛二は画面の向こうで見ているかもしれない母にウインクを送るのでした。
母恋旅烏 を読んだ読書感想
家族の温かさに飢えている孤独な現代人のために、家族をレンタルするサービスを始めてしまう菱沼清太郎のしたたかさに圧倒されてしまいました。
顧客の満足度や営業利益に夢中になっていくあまりに、自分自身の家族が少しずつバラバラになっていることに気が付いていないのも皮肉です。
いつまでたっても子供のような清太郎と、マイペースながらも一歩ずつ成長していく主人公・寛二との明暗がくっきりと分かれていました。
3人の子供たちの旅立ちを静かに見届けた後に、ひとりで生きることを選んだ母・美穂子の決意にはホロリとさせられます。
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