「千年樹」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|荻原浩

千年樹

著者:荻原浩 2007年3月に集英社から出版

千年樹の主要登場人物

公惟(きみただ)
都の高貴な家柄に生まれた地方官。妻と5歳の息子の3人家族。

星雅也(ほしまさや)
東京の大学を出た後に地元に戻って市役所職員になる。

堀井(ほりい)
雅也の中学時代の同級生。高校を中退後は反社会的勢力の組員。

岸本隆司(きしもとたかし)
雅也の中学時代の同級生。 父親の建設会社を継いだ後に市長になる。

ケンジ(けんじ)
堀井の舎弟。 鑑別所を出た後で植木屋で働く。

千年樹 の簡単なあらすじ

国司として都から東国へと赴任してきた公惟を殺害したのは、田舎の下級貴族としてコンプレックスを抱いていた浅子季兼です。

亡くなる直前にくすの実を咥えていた公惟の息子は、1本のくすの木に生まれ変わって人間たちを見守り続けます。

樹齢1000年まで成長したくすの木も、20世紀の終わりには時代の流れによって伐り倒されることになるのでした。

千年樹 の起承転結

【起】千年樹 のあらすじ①

 

1000年前の悲劇

11世紀の初め頃に都で役人をしていた公惟の新しい赴任先は、地方豪族の浅子氏によって開かれた東国の土地です。

着任早々に公惟は、地方役人であり地元の軍隊を指揮する浅子季兼に治安を荒らす盗賊や無法者たちの討伐を命じました。

表向きには公惟の命令に従っていた季兼でしたが、ある日の夜遅くに仲間たちとともにクーデターを決行します。

屋敷には火を放たれて都から連れてきた家臣たちは殺害されてしまい、生き残ったのは公惟と妻に5歳の息子だけです。

追手を何とか振り切って山の中をさ迷い歩いているうちに、3人は1本の巨大なくすの木の木陰にたどり着きました。

5日間も飲まず食わずで精神的にも限界に追い込まれていた公惟の妻は、草むらの中に倒れ込んでしまい既に息はありません。

自らの死が近づいていることを悟った公惟は、息子だけでも助けるためにくすの実を拾い集めます。

季兼の手下から受けた刀傷が悪化して公惟も間もなく息を引き取ったために、後には泥にまみれた男の子だけです。

男の子が父親が集めてくれたくすの実を口に含んだ拍子に、小さな種がコロコロとぬかるみの中へと落ちていきました。

【承】千年樹 のあらすじ②

 

1本の枝がくれた勇気

中学3年生の新学期に入った途端に、星雅也は同級生の岸本と堀井たちからいじめを受けるようになりました。

いつものように放課後に大量の菓子パンやジュースを買ってくるように命じられて、10分以内に戻ってこなければなりません。

近道するために神社の境内をくぐり抜けようとした雅也はくすの木の根っこに足を取られて転倒してしまいます。

ぶら下げていたビニール袋をつまずいた時に水たまりに落としてしまい、商品は全て泥だらけです。

岸本や堀井から激しい暴行を受けることが怖くなった雅也は、ご神木のしめ縄を使って首つりをすることにしました。

木の枝に縄を結び付けてぶら下がろうとした雅也が見たのは、枝の付け根の辺りに浮かび上がった幼稚園くらいの男の子の顔です。

ひどく驚いた雅也は体育の時間には1回もできなかった懸垂を、生まれて初めて成功させた後で地面に落下します。

死ぬ気になれば何でもできることが分かった雅也は、折れたくすの木を竹刀の代わりにして岸本たちと戦うことを決意しました。

【転】千年樹 のあらすじ③

 

悪ぶっていても根は臆病者

16歳で暴力団の組員となった堀井は、中学生時代から仲良くしていた岸本を運転手の代わりとして使うようになりました。

大学に通っている岸本はアルバイト感覚で組の集金を手伝うようになりましたが、ひそかに回収したお金を着服し始めます。

すっかりメンツをつぶされた堀井は、兄貴分や舎弟たちへの見せしめのために岸本を拉致して生き埋めにするつもりです。

組事務所で散々に痛めつけられた岸本は涙を流して命乞いをしますが、堀井はまるで聞き入れません。

縛り上げた岸本をワゴンでくすの木で有名な神社まで運んで、石段の降り口に近い場所を掘るのは植木職人の見習いをしているケンジの役目です。

真夜中過ぎに穴がケンジの腰より深くなった頃、シャベルが何かにぶつかったために懐中電灯で照らして確認します。

穴の底に並んでいるふたつの頭蓋骨を見た堀井は悲鳴をあげて、ケンジと岸本を置き去りにして逃げ出してしまいます。

杯とバッジをもらうことを諦めたケンジは、頭上のくすの木から子供の笑い声を聞いたような気がしました。

【結】千年樹 のあらすじ④

 

1000年の命が倒れる時

市役所の「あれこれ相談課」に勤務している星雅也は、地域のシンボルとなっているくすの巨樹に寄せられるクレームに対応していました。

木から大きな枝が落ちてきて遠足に来ていた幼稚園児が負傷したり、雨宿りをしていたお年寄りが落雷に遭ったりとトラブルが絶えません。

30代の若さで市長となった岸本隆司は、くすの木がある一帯を更地にして工場を誘致させる計画を建てています。

岸本市長の意向によって危険木に指定されたくすの木の伐採が始まったのは、市長選が来月に迫った11月の第2週です。

現場には雅也も立ち合うことになり、クレーン車とチェーンソーによって枝と葉っぱが伐り落とされる様子を目撃します。

中学生だった雅也が自殺しようとしたあの日、自分を慰めて岸本に反撃する不思議な力を与えてくれたのがこの木です。

「根性あるな」と声をかけてくれた堀井は、雅也が大学を卒業してこの町に戻ってきた年に抗争に巻き込まれて既にこの世にいません。

全ての枝葉を失って木が円柱と化した瞬間に、雅也は3つの人影を目撃します。

ひとりは小さな子供でそのシルエットに見覚えがあるような気がしましたが、目をこすった途端に消え失せてしまうのでした。

千年樹 を読んだ読書感想

家臣のクーデターによって殺害された国司と、何の罪もない妻と年端もいかない子供の最後には胸が痛みました。

この世に未練を残したまま亡くなった男の子の魂が、ひっそりと宿り続けているくすの木のたたずまいが神秘的です。

戦乱の世が終わって平和が訪れたとしても、星雅也のような強い者に食い物にされてしまう弱者はいて考えさせられます。

いつの時代にも世渡りが上手な堀井隆司のような連中と、太く短くしか生きることができない堀井のような不器用な者もいて皮肉です。

生命のはかなさを長い年月をかけて見下ろしてきた巨大な木が、人間の身勝手さの犠牲になるラストに憤りを感じました。

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